野営戦 -合流-
霧のような夜気が、草木の間をゆるやかに漂っていた。陽動隊は薄闇の中を縫うように疾走していく。猫科の獣人たちが音もなく駆け、雪豹の姿をとったフーリェンがその先頭を切る。
もうすぐ、アドルフの隊がいるはず。風の向き、踏み跡、微かに漂う匂い――すべてが、彼らがこの道を通ったばかりであることを示していた。だが、異変はすぐに察知された。ぴたり、とフーリェンの足が止まる。
前方、森の奥――木々の間から鋭く交錯する気配。そして、それを裏付けるように届く、金属が交わる乾いた音。数秒後には低く響く怒号。フーリェンはすぐさま背後に手信号を送った。陽動隊の獣人たちが即座に動きを止め、周囲を囲むように布陣を変える。
フーリェンは数歩、音を殺して前に出る。木の根をまたいだ先、傾いた幹の陰から覗いた視線の先――
そこに見えたのは、アドルフの偵察小隊。
森の中腹、傾斜のきつい斜面を挟んだ交戦地。ヒューマンの男を中心にした小隊が、遊撃隊と激しくぶつかっていた。アスラン兵の連携は見事だった。数名ずつで角度を変えつつ攻め入り、狭い範囲でアドルフ隊の行動を制限している。ヒューマンであるアドルフは正面で敵と刃を交えることなく、隊員の背を押し、指示を飛ばし、間を縫うように動いている。フーリェンは短く、鋭く口を開いた。
「左右分かれて挟み込め。接敵するな、撹乱だけでいい」
その言葉に頷いた猫獣人たちは、すぐさま左右へ分かれ、木立の間に消えた。風のように駆け、音もなく敵の死角に回り込む。木の根を蹴り、霧を割るように前へと飛び出す。一度だけ短く指笛を鳴らすと、周囲に潜んでいた仲間が一斉に姿を現した。
「敵、右後方にッ!?」
「……別の部隊だ!囲まれてる―!」
混乱が走る。突如として現れた猫科の獣人たちが、高速で間合いを攪乱し始めたのだ。斬りかかる者はいない。ただ走り、跳び、間合いを狂わせる――。
だが、それこそが“陽動隊”の本分だった。
アドルフは即座にその意図を理解し、素早く味方に命令を飛ばす。
「後衛、左後方へ退避――今が抜け道になる!」
的確な指示に応じて、兵たちが一気に展開する。陽動隊の援護を受けたアドルフの小隊が、完全に封じられていた包囲を打ち破り、緩やかな谷筋へと退避していく。それを横目に、前衛に立っていたフーリェンは敵の視線を引きつけながら中央へと跳躍した。そこに陽動隊の獣人たちが再び入り込み、音もなく“影”となって敵陣を崩す。
雪豹の尾が一閃し、合図のように空を斬る。即座に全員が脱出経路へと滑るように退く。
「全員離脱。アドルフ隊と合流する」




