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王宮の獣護  作者: 夜夢子
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第一章 静謐なる帳の中で2

訓練場を後にしたフーリェンは、静かな石の廊下を足音を抑えつつ歩いていた。日没の柔らかな光が窓から差し込み、彼の白髪を淡く照らしている。

向かうのは、主人であるルカの執務室。その扉がわずかに開いているのが見えた。中からは、書類をめくる音が漏れている。


「ルカ様……」


声をかけると、ルカが顔を上げて穏やかな笑みを見せた。


「フーリェン、稽古はどうだった?」

「順調です。久しぶりに槍も使いました」


フーリェンの返答に、ルカは興味深げに眉をひそめた。


「槍か……。珍しいね。訓練じゃなくて"稽古"で使うなんて」

「はい。今回は新兵も交えた複数相手でしたので」


ルカはその言葉に満足そうに頷き、書類から目を離してフーリェンをじっと見つめた。


「そうか。新兵の中に筋の良いものはいたかい?」

「はい。…この前入った豹の―」


その時、執務室のドアがノックされ、アルフォンスとその直属護衛であるジンリェンが入ってきた。


「ルカ、フーリェン、新たな報告が入った。再び不穏な動きがあるらしい」


ルカの顔色が変わり、フーリェンはすっと身構えた。



**

重厚な扉が静かに閉じられ、執務室には緊張感が漂っていた。


「南側の国境付近で、不審な動きが確認された。隣国が密かに軍を動かしている可能性がある」


フーリェンはわずかに目を細める。


「偵察任務の指示でしょうか?」

「その通りだ。お前の能力が必要だ。人目を避け、情報を集めてこい」


アルフォンスはそう言うと、手元の地図を差し出した。


「行動は極秘だ。報告はルカに」


フーリェンは静かに地図を受け取り、短く頷いた。


「すぐに準備します」


ルカの視線が鋭く光った。


「気をつけて行くんだよ、フーリェン」


その言葉に、白髪の護り手は静かに身を引き締め、任務へと向かう覚悟を新たにした。



第二章 異形騒動編へ 続く

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