北風を味方につけて3
夏の気配を感じさせる陽光が降り注ぐ中、第四軍の兵士たちは訓練場の中央に整列していた。
総勢五十名。顔には緊張の色が滲み、額には汗が浮かぶ。どの兵士も若く、中にはまだあどけなさの残る者や、初陣すら踏んでいない者もいる。
そんな彼らの前に立ったフーリェンは、一度ゆっくりと息を吸い込むと、よく通る声で彼らへと告げた。
「第四軍、全隊へ通達」
緊張と共に、兵たちは息を呑む。
「来月初頭、ここフェルディナの地にて、アスラン王国との合同訓練が行われる」
ざわりと空気が動いた。
「アスランって、あの氷の国の……?」
「合同ってことは、一緒に訓練すんのか……」
抑えきれない声がいくつか漏れたが、フーリェンはそれを無視して続けた。
「今回の訓練は他国との友好を示すための公式な軍事演習だ。同時に、各軍の実戦能力を測るための場でもある」
兵士たちの中に緊張が走る。『測る』という言葉が意味するものを、彼らなりに理解したのだ。
「僕たち第四軍は知っての通り若年兵を中心に構成された部隊だ。戦場経験は浅く、能力持ちの割合も少ない。だけどそれは、戦えない理由にはならない」
「必要なのは、自分が何をできるかを知ること。そして、それを磨くことだ」
フーリェンの視線が、ゆっくりと列の中を泳ぐ。その目には侮りも見下しもなかった。
「三日目の野営戦に参加する選抜兵は、僕が直接確認する」
再びざわめきが広がった。期待、不安、混乱――若き兵士たちの胸に去来するものは多い。
だがそのすべてを、フーリェンは一切変わらぬ口調で締めくくった。
「他の軍に劣るかどうかは、お前たちが決めることだ」
――――
「伝達終わったか?」
見計らって掛けられた声に、フーリェンは小さく「うん」と返した。
そのまま背後へと振り返ることはしない。声の主が誰かなど、確認せずとも分かっていたからだ。
「なんかさ、お前が前に立って話してんの、面白いよな」
「落ち着かないからやめてよ」
「いいじゃんたまには」
ランシーはそう言って大きく伸びをすると、どこか緊張の面持ちの兵士たちへと視線を向けた。
「お前んとこ、誰出すか決めた?」
「まったく。……みんな出してあげたいけど、人数決まってるからね。難しいよね」
最終日の野営戦は、相手方の中隊と合わせる形で人員配置を決める。全四軍。半数以上を第一軍と第三軍で補うとなると、ここから出せるのは精々十かそこらになるだろう。
「まあ、折角やるんだから何かしら残したいかな」
「おっ、珍しくやる気じゃん」
「そうかもね」
くるりと。手にした槍を手癖のように回し、光を反射しない木の柄を手に馴染ませるように握り直す。
北の砦の戦から、早数ヶ月。
脅威がいつどこからやってくるかなど、分かりはしない。備えるに越したことはない。
「ほら、一戦付き合ってくれよ」
「分かった」
肩を回す獅子に続いて、地を踏み込む。
こうして彼もまた、ひと月後に行われる合同訓練に向けて覚悟を新たにしたのだった。




