双子
仮設の試着所は訓練場から目と鼻の先にある物置だった。控えの台と姿見、そしていくつかの衣装小物が並ぶだけの簡素な空間。しかしそれとは対照的に、用意された衣装は見事な仕立てだった。
「……やけに仰々しいな」
ジンリェンは白地に金の刺繍が施された上着を手に取り、ひらひらと振っている。
「袖に金を入れるなら、背中は無地にして欲しかった」
「……文句言う前に着なよ」
フーリェンは既に隊服を脱ぎ、衣装に腕を通していた。細身の造りながら、動きを阻むような締め付けはない。見た目の割りに動きやすいその構造は、衣装を担当した職人のこだわりが詰まっていた。
「……思ったより軽い」
「なにか引っかかるところは?」
「特にない。袖も熱が籠もらないようになってる」
ようやく着替え始める兄の問いかけに淡々と答えながら、フーリェンはその場でくるりと回った。金糸が仕切り布の隙間から差し込む日の光に反射して、思わず目を瞑ってしまう。そうこうしているうちに、ジンリェンも着替えが終わったようである。
「しかし……俺たちが白金の衣装とはな。祭りの神輿か、花嫁かって感じだ」
「ジンがそれ着ると、確かに前者にしか見えないね」
「おい」
鏡を見やれば、白髪に金糸がよく映えている。左右対称に立つ姿は、まるで鏡写しのようだった。
「これで剣を振るうのか。確かに見栄えはいいだろうけど」
「見世物だからね」
「じゃあ尚更しっかり磨いておかないとな、剣舞の型」
「ジンは振りが雑。足元も流れがち」
「いちいち指摘が細かいなお前は」
「僕が合わせる方だからね。ずれると見苦しい」
「……へいへい、精進しますよ」
弟の厳しい声にそうぼやきながらも、ジンリェンの頬は緩んでいた。
「フー」
「……何?」
「似合ってる」
「……ジンもね」
どちらからともなく、襟を直し合った。どこまでも自然で、どこまでも息が合っている。
その姿はまさしく、鏡に映る己自身のようだった。
ふたりは試着所の布を払い除けると、揃って物置から外へ出た。
待っていた王子たちが顔を上げ、祭事官は双子を目にして思わず「ほぅ」と息を漏らす。
「二人とも、よく似合っているよ」
「「ありがとうございます、ルカ様」」
軽やかに一礼するその動きすら、ぴたりと揃っている。
アルフォンスは無言のまま双子を見つめていたが、やがてぽつりと呟いた。
「……まるで鏡写しだな。遠目から見たら見分けがつかん」
「アルフォンス様、それは困ります。顔はともかく……体格も性格も、かなり違うかと」
ジンリェンの言う通り、双子は身長におよそ十センチ程の差がある。兄のジンリェンはすらりと背が高く、均整の取れた体つきをしている。対する弟のフーリェンは決して低くはないが、線が細いせいか華奢な印象を与える。
しかし顔立ちは驚くほど似ていた。輪郭、目鼻立ち、そして琥珀色の瞳。どれをとっても瓜二つである。
だが横に並べば、誰もがすぐに違いに気づく。
兄の方は目元に柔らかな余裕を宿し、落ち着きのある雰囲気を纏っている。一方の弟は、感情の起伏が希薄で、静謐な無表情を崩すことが少ない。
故にふたりが並んだときに生まれる対称性は、他の誰にも真似できないものだった。それが、今は同じ衣装を着て、同じ立ち姿をしているのだから――確かに、鏡写しにしか見えないだろう。
「観客が息を呑むのも頷ける光景だな。……型を見せる演武には、最高の演出だ。本番は三日後だな。大丈夫そうか?」
「はい。細かな調整と通し稽古は、明日いっぱいで終えます」
「ならば問題ないな。……期待している」
「光栄です、アルフォンス様」
頷いたアルフォンスの眼差しは鋭くも穏やかだった。
「――うん、よく似合ってる。動きづらくはない?」
「問題ありません」
「よかった。もし窮屈だったら、すぐ直すよう言おうと思っていたから」
「ご配慮、感謝します」
言葉少なながらも、フーリェンの声は柔らかかった。ゆらりと揺れる白色の尾に視線を向けたルカの頬がさらに緩む。
「じゃあ、今日はこのまま解散にしようか。無理せず、明日に備えて休むんだよ」
「「はい」」
またもや揃った返事に思わず顔を見合わせると、双子は琥珀色の瞳を細めて小さく笑ったのだった。




