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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第3章

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華王都

王都の大通りはいつにも増して賑わいを見せていた。行き交う人々は朗らかに笑い、その腕には色鮮やかな花々が抱かれている。


白壁の家々には絹の旗と春草の花輪が飾られ、通りの屋台では子供たちの笑い声が跳ねる。香の店からは甘やかな果実の香り、菓子職人の屋台からは小さな火があがり、焼き菓子の煙が天へと揺れていた。


その人波の中を、獅子と狼が並んで歩いていた。隊服に身を包んだ二人は、王都内の巡回任務にあたっているのである。


「ずいぶん、華やかになってきたな」


街路樹に巻かれた金の飾り紐に目をやったシュアンランが、隣の獅子へと軽い調子で言葉を投げる。


「だな。昨日まではせいぜい花屋の店先くらいだったってのに、今朝には全通りに染め布ついてた」

「準備の早さだけは王都の十八番だな」

「確かに」


風に吹かれた花飾りが、頭上を揺らす。香草と染料の匂いが混じった、春の香りがした。向かいから歩いてきた娘たちの一団が、二人の姿を見てぱっと顔を輝かせる。灰銀の髪に鋭くも柔らかい目元。整った顔立ちと程よく筋肉のついた体躯の狼に、自然と娘たちの視線が向く。


「あっシュアンラン様……!」

「本当だ」


声をかけられる前に、軽く会釈して通り過ぎる。そんな彼女たちの反応に、隣を歩くランシーはわざとらしく鼻を鳴らした。


「やれやれ、さすが王国三大イケメンのひとり」

「……三大?」

「知らないのか? 王都で密かに囁かれてるんだぜ。氷狼・白狐・赤獅子、だってよ。お前と、ジンと、俺」

「なんだそれ。ただ直属護衛の名前並べただけじゃねぇか。しかも最後の、急に自称っぽくなるのは何でなんだろうな」

「ひど。俺一応、ユリウス殿下の直属護衛ですけど」

「それは確かに目立つが……」

「あとあれな、俺、髪が赤いから祭衣装に映えるらしい。色彩的にね。」

「じゃあ、当日が楽しみだな」

「やめてくれ。目立つのは演武係の役目。俺は茶でも飲みながら優雅にユリウス様と観客席だよ」

「……いやいや、どう考えてもお前は俺と一緒に警備係だろ」


ランシーは肩をすくめながらも、にやりと笑いながらさらに追撃を仕掛けてくる。


「なぁ、フーならどう言うと思う?」


その名を出された瞬間、眉がぴくりと動いたのが自分でも分かった。


「……無言で、苦虫を噛んだような顔してスルーする」

「だろうな! あいつ、ぜったいそう。どんだけ周りで黄色い声飛んでも、『うるさい』の一言で終わるパターン」

「……いや、下手するとそのまま立ち去ってるかもしれねぇ」

「そっちの方が傷深いな。……泣くな、氷狼」


冗談めかして笑うランシーの声に、シュアンランは小さく息を吐いた。頭に浮かぶのは、先ほどの屋根の上での光景。


隣の男に『去年兵士泣かせたろ』と笑われていたあの時も、フーリェンはほとんど反応を見せなかった。肩を揺らしてはいたが、あれは彼にとって最大限の感情表現。だからこそ、先程の想像が現実になりそうでちょっと怖い。


「今、ちょっと物思い顔だったな。フーのこと考えてただろ」


ランシーがからかうように肘で突いてくる。


「……考えてねーよ」

「嘘だ。お前、目の端がいつもフーの方向いてんの知ってるぞ。独占欲の権化か?」

「……そんなんじゃない」


少しそっけなかっただろうか。その一言に、ランシーの足がピタリと止まった。


「冗談だよ。俺ら、何年一緒に剣振ってると思ってる」


すぐに戻った屈託のない笑みに内心安心する。腹が減ったと言いながら大股で歩き出す彼を追って、自身も歩みを進めた。


それからもしばらく、軽口を言い合いながら見回りを続けた。


「それにしても、平和だな」


道行く人々の華やかな装いに目移りしそうになりながら、思わず漏れた小さな呟き。「そうだな」と返してくるランシーの声も明るい。


「平和じゃない日も、俺たちは見てきてるからな。尚更思うよな」

「ああ」

「だからこそ、こういう時こそしっかり見張らねぇとな」


気張っていこうぜ。と、尾を揺らしながら意気込む彼の声に、自然と背筋が伸びる。


色彩が生まれる。花が舞う。笑い声と陽気な音楽に、街が包まれていく。


今年の春の祝祭は、早くも花開いていた。

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