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王宮の獣護   作者: 夜夢子
第12章 2幕

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第十二章 守るための力2

皮膚を裂かれる感覚に身体がびくりと揺れる。次いで骨を断ち切られる鈍い衝撃に、声にならない声を上げた。


ーー痛い。


痛い。

痛い。

痛い。

痛い。

痛い……!


息がうまく吸えない。

肺が潰れるみたいに苦しい。


(……たすけて)


誰か。


(ルカさま……シュアン、ランシー……)


名前を呼びたくても、喉が引き攣る。


ーージン。


「……っ、」


思考がばらばらになる。

時間の感覚が溶けていく。


痛い。

助けて。

助けて。


(……にいさん)


助けて、兄さん。


身体はもはや自分のものではない。押さえつけられ、切り開かれ、組み替えられていく。


「やめて……」


か細い声が聞こえる。


そうだ。守らなければいけない。


(……動け)


身体に命じても、指先ひとつ動かせない。


ーー痛い。


何かが身体から抜かれる。何かは分からない。でも、何かが無くなって、何かが生まれる。


分からない。

何も、分からない。


意識も鈍っていく。底なし沼に落ちていく。


そうやって目を瞑りかけた、その時だった。


「やめてよーー!!」


その声が、沈みかけた意識を引き戻した。


ひしゃげた空間が音を立てて歪んだ。続けて頭上から男たちの悲鳴と何かが砕ける音が降ってきた。


水底からすくい上げられたように、肺の中に空気が流れ込んだ。


考えるより先に、身体は動いた。


フーリェンは自身を拘束していた男たちを振り払うと、勢いよく立ち上がった。右足の腱は絶たれたまま。だがそんなことは関係ない。まだ足は"3本"あるのだから。


喉から獣じみた咆哮が溢れる。

痛みは消えていない。

骨も皮膚も、まだ悲鳴をあげている。


それでも、動いた。


続けざまに能力を発動しようとするアンナへ刃を振るおうとした男が視界に入る。”前脚”に力を込めると同時に一息で距離を詰め、晒された喉元へ噛み付く。


「わっ!」


勢いに煽られ、床に転がった少年兵を守るように尾を振るう。硬質な鱗に覆われたそれが壁を叩き、迫ってきた男たちをまとめて薙ぎ払った。


阿吽絶叫。狭い牢の中は一瞬にして地獄と化した。


そんな中、ただ一人動揺の色すら見せずに立っていたのはカイだった。倒れ伏す自身の部下たちにも血に濡れた床にも目を向けず、彼は静かにフーリェンを観察している。


「外部刺激による急激な覚醒か。……あの時と同じだな」

「おい! そんなことを言っている場合かっ」


独り言のように呟くその傍らで、グレゴリウスが声を荒げた。


その姿を視界に捉えた瞬間、フーリェンの中で衝動が形を成した。曖昧だった感情がはっきりとした殺意へと変わる。


床を蹴り、飛びかかる。距離は一瞬で詰まる――はずだった。


「止まれ」


声が落ちた。次の瞬間、頭の奥を直接握り潰されるような圧が走る。


「……っ!」


身体が言うことを聞かない。四肢は不自然な形で強張り、意思とは無関係に動きを止められる。


まただ。この声だ。この声に、なぜか逆らえなくなる。


ぎり、と奥歯を噛み締めるフーリェンを前に、カイは一切の余裕を崩さず淡々と言葉を重ねた。


「ここまでだ。十分“素材”は集まっただろう」


それだけを言い残し、隣に立つ男へと視線を投げながらふんと鼻を鳴らすと彼は踵を返した。動かなくなった部下を残したまま、顔のひしゃげた男を伴って彼は牢を出ていく。再び重い扉が閉まり、カイの姿が見えなくなると同時に、フーリェンの全身を覆っていた圧はふっと消えた。


膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。肺は焼けるように痛い。それでも、意識ははっきりしていた。


「……隊長?」


その声に呼ばれて視線を向けると、血に染まった床の上でアンナとリオンがこちらを見ていた。周囲には、彼女の能力によって押しつぶされた者たちと、自身が噛み殺した男が一人。形の崩れた死体となって転がっている。


「……たす、かった。ありがとう」


自分の声がまだちゃんと声になっていることに少しだけ驚く。


口元に残る血の味に眉をひそめながら、フーリェンはゆっくりと自由になった四肢を動かし、二人のもとへと近寄った。すんすんと鼻先で座り込む二人の匂いを嗅ぎ、怪我がないことを確かめる。頬についていた返り血を舐めとってやれば、アンナは何故か困惑気味にこちらを見つめてきた。


彼女の大きな目の中に映る”何か”と目が合った瞬間、ガタリと頭上で鈍い音がした。


突然のその音に、三人は同時に頭上を見上げた。彼らの視線の先では、歪んだ天井の一部が今にも外れそうに傾いていた。驚きのまま固まっていると、だらりとぶら下がった鉄板は重力に負けて床へと落ちた。


「うわっ!?」


間の抜けた声。フーリェンとアンナは反射的に声の方を見やった。


そんな彼らの視界に映ったのは――


「……え?」


薄汚れた大きな隊服に身を包んだ、年端もいかない子供の姿だった。

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