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王宮の獣護  作者: 夜夢子
第2章
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再偵察4

早朝、王宮の奥深くにある会議室には、早くも要人たちが集まっていた。円卓の最上座に第一王子アルフォンス。その隣に第二王子セオドア、そして対面には第三王子ユリウスが静かに腰を下ろしている。第四王子ルカはその右手に控え、常と変わらぬ落ち着いた面持ちで、報告を待っていた。


部屋を囲むのは、彼らに付き従う直属の護衛と、数名の中堅兵士たち。皆、静けさの中に潜む緊張を肌で感じながら、まだ見ぬ“敵”の輪郭を探っていた。


扉が開く。フーリェンとシュアンランが、わずかに塵をまとった装束のまま現れる。静かな足音を残し、円卓の中央まで歩み出た。


「南部偵察より戻りました」


二人が一礼し、口早に報告を始めた。


「国境付近での異常行動を確認。複数の異形、および黒ずくめの人物を目視」

「彼らは統率されており、無言のまま南方――オルカ方面へと撤退しました」

「目撃した範囲では、戦闘痕跡や痕跡隠滅の痕が見られ、周到な計画性が伺えます」

「統率のとれた異形……確実に意図をもって動いているな」

「撤退の動きについては、わざとこちらに見せたように思えました」


フーリェンが続ける。


「布石、あるいは警告――あちらもまたこちらを観察していた、そう感じます」


ルカがそっと言葉を挟む。


「……南は、フーの能力について何か知っている可能性がある?」


フーリェンとシュアンランは僅かに視線を合わせ、頷いた。


「変化能力の詳細までとは思いませんが、使者の口ぶりからも何かしらを掴んでいるように感じました」


兵士のひとりが驚愕をこらえたまま低く呟く。


「もしや、内部に南側の密偵が…?」

「その可能性も、否定できません」


シュアンランが言葉を引き継いだ。その言葉に、アルフォンスは静かに立ち上がると手で卓をなぞる。


「――これは宣戦布告ではない。だが、開戦の準備は始まっているとみていいだろう」


その重く沈む現実に、部屋の空気がわずかに揺れる。


「どう動く?」

「…オルカとの協議を優先し、南部諸砦の強化を進めるべきではないでしょうか?」

「いくら表面上だけの友好関係を求めてきたとて、現状その要求を飲む訳にはいかないだろう」

「この一件、オルカ側が国家をあげて関係しているのかがまだ分からんからな」


セオドアの問いに、王子たちが独自の見解と今後の動きについて話を進める。


「偵察網の再構築と通報体制の見直しも、必要ではないでしょうか…?」


おずおずとユリウスが発言すると、セオドアが小さく笑みを浮かべながら、言葉を投げた。


「だが、この“異形”の情報をどこまで民衆に伝える?恐怖を煽る結果になりかねん」

「伝える必要はない」


アルフォンスが口を開く。


「これはまだ、“影の戦”の段階だ。表に出すのは、まだ早い」

「まずは情報を集めよう。あちら側が動くよりも先に、我々が動く。それが重要だ――」

 

――――

会議が終わり、兵士たちが静かに退席していく中、ルカはゆっくりと席を立ち、壁際にぽつんと立っていたフーリェンへと声をかけた。


「フー」


フーリェンが、振り返る。変わらぬ無表情。けれど、それが“落ち着いている”時の表情だということを、ルカは知っている。


「少し、いいかい」


人目が少なくなった会議室の隅、窓際の静かな空間へと移動する。ルカは背筋を伸ばしたまま、そっと声を落とした。


「……おかえり。無事で何よりだよ。無理はしていないかい?」


フーリェンは一拍遅れて、短く頷いた。


「…大丈夫です。今回は、シュアンもいたので」

「そうか。それならよかった。少し休んで、と言ってあげたいところだけど、君の能力について少し確認しておこうと思う。いいかい?」


そう言ってルカは少し申し訳なさそうに、フーリェンを見つめる。そんなルカを見て、フーリェンは落ち着いた声で応えた。


「…承知しました。場所を、移しますか?」

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