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す~ぱ~での僕の一日。

「いらっしゃっせー!」

 銀色のスイングドアを開けて

 僕は大きな声でお客様に挨拶する。

 元々大きな声じゃないから、

 頑張って出した声は驚かれない。

 だが声は良い声らしい。

 パートの人達は

「もう少し声を張ったら男前なのにねぇ」

 と言ってくれた。

 まぁ御世辞だろうけど。

 ただ専門学校でも隅の方に座って

 目立たない様にしているので、

 人とふれあえるこのバイトは有り難い。

 パートの人達は全員年上だからなのか、

 遠慮無く話しかけてくる。

 それに僕がしどろもどろになっても

 お構い無し。

 だから今は普通に話せるようになった。

 バイトだから最初はレジを任されるのかと思いきや

「男だから重いもの担当で」

 という店長の一言で僕は先ず出勤したら

 タイムカードを押して売り場を回り、

 無いものをチェックしてバックヤードへ戻る。

「うっす」

 バックヤードで声を掛けてきたのは

 前田君という高校生だ。

 野球部に所属していて、

 17時から21時までの4時間バイトしている。

 丸坊主にも係わらず男前。

 目がキリッとしており、

 眉毛もスラリとしている。

 ただ口がへの字になっているのを

 とても気にしているシャイな子だ。

 パートの人達からも評判が良い。

「おはよう前田君。納品来てる?」

「はい。今丁度最終が来てます」

「じゃあ僕も手伝うよ」

「上田さんありがとうございます」

「いや数少ない男の仲間だからね」

「そうっすね」

 普段クールな前田君も、

 僕と話す時は少し笑う。

 そういう所も人気なのだろう。

 前にバレンタインの時に、

 前田君目当てで何人も女の子が

 来店してチョコを渡していたっけ。

 うらやましい限りだ。

「おう上田君」

 作業服を着た金髪の人が声を掛けてきた。

 スーパーマルタヤの納品をしてくれている、

 ドライバーの三井さんだ。

「三井さん今日はどんな感じですか?」

「あー今日も多いな。ここ儲かってるから」

「やっぱり」

「俺達には何もないけど儲かってる方が時間も早く過ぎるっしょ」

 三井さんは元々スーパーでバイトした経験があるそうだ。

 高校卒業と同時に結婚して、

 ドライバーに就職したと言っていた。

「はい。でも中々重くて大変ですけど」

「まぁしゃーない。まだバイトの内に大変な事やっとくと良いよ」

「そうですね」

 三井さんは金髪で眉毛が無く見えるので、

 こわもてに見られる。

 でも眉毛をそっている訳では無く、

 生えてこないらしい。

 三井さんも見た目と違って優しく人生の先輩として、

 時々アドバイスをくれる。

「上田君と前田君に差し入れ。うちのフォークのおっちゃんが荷物崩しちゃってさ」

 三井さんはポケットから缶コーヒーを二本取り出して、

 僕と前田君に投げてよこした。

 受け取ると確かに凹んでいた。

「良いんですか三井さん」

「良いよ。凹んで買い取ったからめっちゃ安い。ちなみに嫁さんの分もある」

 胸ポケットからもう一つ缶を

 取りだして見せてくれる。

 有名なメーカーのジュースが凹んでいる。

「炭酸だと危なく無いっすか?」

「それが面白いんじゃないか」

 おちゃめである。

 僕はつい笑ってしまう。

「上田君もやっとなついてくれたか」

「当初はすいません」

「いやいや、俺の見た目コエーからビックリしたっしょ?仕方無い。育毛剤で眉毛生やそうとしてんだけどさ……生えねーんだよな。出来れば娘が生まれるまでには生やしたい……」

 切なそうに言って肩を落とす三井さん。

「大丈夫っすよ。三井さんの子はきっと眉毛で人間性を計るような子じゃないっす」

 前田君男前発言。

 サラリと入れてくる所が流石。

「そ、そうかな。へへへ、そうなら嬉しいなぁ」

「そうですよ。三井さんと会ってから僕も見た目で判断しないようになりました」

「なんだよー二人とも。俺をおだてても何も出ないよ?」

「いえ、いつも差し入れ貰ってるんで何か出されても困るっす」

「そうそう」

「そっか、そっか。よっしゃ!じゃあさっさと入れちまうか」

「うーっす」

「はい」

 三井さんが荷台から下ろして来たコンテナを受け取り、

 車が付いた台車に乗せて前田君の所へ僕が持っていき、

 前田君が商品群に分けて置いて行く。

「ほいじゃ二人ともまたな!」

「あざっした!」

「三井さんご馳走様です!有難う御座いました!」

「おう!」

 三井さんは手早く終えてトラックを走らせて言った。

「ちょっと男子!○×牛乳のコーヒー無い!?」

 バックヤードの扉をバーンと勢い良く開けてきたのは、

 前田君と同じ高校生の岡田さんだ。

 ショートボブで黙っているとお人形みたいな子だが、

 中身はチャキチャキである。


 彼女は前田君目当てで入ってきたのかなと思って

 聞いてみたが

「ある訳無いじゃん!」

 と笑いながら背中をバンバン叩かれた。

 理由としては

「ああいう無骨なのアタシ無理なのよねー」

 と言う事らしい。

 もっとも前田君としては

「俺はガサツなのは無理っす」

 とぼやいている。

 これは別に聞いた訳では無く、

 毎度毎度バックヤードの扉を

 元気良く開けるのを見続けて、

 僕と仲良くなった時に呟いたのだ。


「お前ドア……」

「ちょっとお客様待ってるんだからさ」

「……」

 前田君明らかに怒ってる。

 僕はそれを察して急いで納品物から

 岡田さんの言っていた牛乳を探し出し

「はい、これで良い?」

「さっすが上田さん!」

 背中をバンバン叩いて彼女は飛び出して行く。

 いつもお客様に当たらないか冷や冷やする。

「すんません」

「いやいや。岡田さんもお客様の為に急いでたから」

「あいつ上田さんを叩いて……すんません、俺は上田さんみたいに人間が出来て無くて……」

 岡田さんが居なくなってからコンテナに手を突いて

 落ち込む前田君。

 いやいや僕の元々を知ってたら、

 君は僕をそんな風に言わないよと思いつつも、

 変な慰めは余計傷つくと思って笑顔で作業しつつ見守る。

「あ、す、すんません休んじゃって」

「良いよ良いよ。切り替えてこー!」

「オッス!」

 僕はぎこちなく拳を振り上げると、

 前田君は微笑み野球部の掛け声をする時のように

 返事をしてくれた。


 それからある程度整理が付くと、

 僕と前田君は店内に戻る。

 この時納品物を引いて行く。

 品出し作業である。

 消費期限を見て近すぎる物が無いかチェックしつつ、

 新しいものは奥へ、少し日が近いものは前に。

 品出しの基本を一月みっちりやらされた。

「あー!納品来たのねー!」

 5人のパートさん達が僕達に気付いて声を掛けてきた。

「そうです。今丁度来た所で」

「今レジ空いてるから私達もやるわ」

「あざっす!」

 前田君は元気良く感謝を口にする。

 パートさん達はキャッキャしつつも、

 鬼のような早さで品物をバンバン仕舞って行く。

「あらこれ危ないわね。下げときましょ」

 しかも古いものをチェックしている。

 このスーパーのパートさんは皆達人じゃないかと

 思うほど仕事が洗錬されている。

 

 ――3号レジ、4号レジお入りください――

 

「あら行かなきゃ。じゃあ蒲田さん残って手伝って上げて!またね二人とも」

 パートさん達は店内放送を聞いて、素早くレジへ戻る。

 スーパーの達人達は仕事が早い。

「……これ……」

 ストレートの肩まであるロングヘアーで、

 色白で儚げな印象の蒲田さんは、

 大学生のバイトで僕と同期である。

 口数が少ないものの、パートさん達から一目置かれている。

 手も素早いし仕事をテキパキとこなす。

 流石に重いものは持てないので、

 僕達にお願いする。

「はい。蒲田さん助っ人有難う」

「……ううん……」

 コンテナを近くまで持っていった所で

 助っ人のお礼を言う。

 ううん、というのも実は進歩の証だ。

 前までは頷くだけなど動作しかなかった。

 口を聞く時も敬語だったけど、

 一緒に仕事しているから最近は少し

 柔らかくなってくれた。

 

 暫く納品作業をしていると、

 僕のポケットの中からアラーム音がした。

「あ、もうすぐ21時だ。10分前、前田君あがって」

「え、もうですか」

「お疲れ様」

「上田さん有難う御座います。また明日」

 帽子を被って無いのにツバを触ろうとして、

 慌てて手を引っ込める前田君。

 野球部の癖なんだろうな。

「また明日」

 笑顔で僕はそう言って、

 前田君の残っていた仕事を引き継いだ。

「……何で俺が……」

「アタシだってそうよ!何でアンタと一緒に帰らないといけないのよ」

 暫くして閉店の合図の寂しげなメロディが流れると、

 着替えて出てきた前田君と岡田さん。

 賑やかである。

「二人とも気を付けて」

「あざっす!」

「どーも」

 前田君はキッチリ礼をするが、

 岡田さんは不満顔。

 それを見て前田君はキレそうなのを抑えている。

「まぁまぁ。無事に岡田さんを送り届けてね。前田君頼むね」

「……はい。ホントすんません」

「良いから良いから。さ、気を付けて」

「はーぁ」

 変える方向が一緒だし夜道は危ないからと、

 店長が頼んだんだけど困ったものだ。

 でも何時か相性が良くなるかもしれない。

 今後に期待だ。

「上田君……」

 ワーキャー言いつつ帰る二人の背中を応援しながら見送っていると、

 蒲田さんに袖を引っ張られる。

「あ、ごめん蒲田さん。僕達も後一息頑張ろう!」

「……うん……」

 こうして僕と蒲田さんは納品を続けたが、

 レジを上げたパートさん達のマッハの作業で

 五分で片付けられてしまい、

 がっくりしつつ、タイムカードを押して

 着替えた後、蒲田さんと店を出た。

「今日もお疲れさまでした」

「……いいえ……」

 帰り道、二人で歩きつつ僕は近くの自販機で、

 缶のおしるこ二つ買って飲みながら歩いた。

 このおしるこは蒲田さんに不意に進められて以来、

 僕もハマってしまった。

 春風がまだ少し冷たいのがまた丁度良い。

 桜が舞い散る歩道を僕と蒲田さんは歩く。

 暫くすると蒲田さんの家が見えてきた。

 四角を積み重ねた、目に痛い色合いを使っている

 ちょっとファンキーな家。

 一度お父さんを見た事があるが、

 中々賑やかな格好をしていた。

 敢えて今は語らない。

「じゃあ蒲田さん、またね」

「……」

 何か言いたそうにしているので、

 少し待ってみると

「……また……」

 と少し微笑みながら小さく蒲田さんは言った。

「うん、またね」

 僕は手を振りながらアパートへと歩く。

 春か。

 実家から出てもう2年。

 家族に電話はしていない。

 学費や家賃を負担してくれているから

 電話でお礼を言うべき何だろうけど、

 中々言いだせない。

 大学へ進学しろという話を蹴ってまで、

 専門学校へ来たのは間違っているのだろうか。

 僕は答えの無い問いを考えながら、

 家路につくのであった。

 

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