第34話 銃の姫
アメリカ編突入です。
いよいよ千歳の師匠の正体が判明します。
side天音
アリス先生の元で修行する事になってから数日が過ぎた。
俺だけでなく千歳とせっちゃんと麗奈、それからアリス先生の勧めで恭弥と雷花さんと雨月先輩と御剣先輩、そして偶にだけど璃音兄ちゃんと花音姉ちゃんも来る。
幸いにもみんなで修行しても余りあるスペースがあるこの世界……特にアリス先生が名付けていなかったので『黄昏の部屋』と対をなす感じで俺たちが強くなり、高みを目指す意味を込めて『夜明けの部屋』と名付けた。
夜明けの部屋でそれぞれがアリス先生の出した課題に取り組んで修行をしている。
俺は霊力の総量を少しずつ増やしてからアリス先生から貰った霊操術の教科書を開いて新しい霊操術の修得に挑んでいる。
そんな中、教科書を見ていて幾つか驚いていたことがあった。
それは俺が戦いの中で使っていた霊煌霊操術に幾つかの霊操術が同時に使用していたことだった。
例えばよく使う霊煌伍式の刀剣で俺の動きに合わせて剣が舞う動作は五十二番『乱舞』、無限の剣撃で武器を一斉発射するのは五十番『投擲』。
つまり俺は無意識のうちに先代達が生み出した霊操術を使っていたということだ。
他にも俺が知らずに使っていた霊操術が幾つもあり、不思議なものだなと思いながら読んでいくと百以上もある様々な霊操術に歴代当主達の生き様が見えてきた。
その当主が生まれてからどのような人生を送り、どのような性格だったのか。
そして、どのような思いと経緯でその霊操術を開発したのか……初代当主の蓮姫様からの数百年に及ぶ長い歴史の一端を見ることができてとても感慨深いものがあった。
そう何度も読み返していくうちにいつしか霊操術の教科書は俺の愛本となっていた。
まだ俺には霊操術を開発するほどの力を持ってないが、いつか蓮宮の未来を担う次の世代に残せるような霊操術を開発したいと願う。
修行に熱中し、時間が早く進むとアリス先生から終了の宣告をされて俺たちは疲れたと呟きながら夜明けの部屋を出て黄昏の部屋に戻る。
古時計を見ると夜明けの部屋で何十時間も修行していたのに、一時間しか経過してなかった。
「それにしても本当に便利だよね。夜明けの部屋で1日中いても現実世界では一時間しか経過してないなんて」
千歳が腕を伸ばしてストレッチをしながらそう言った。
実は夜明けの部屋は特別な空間で作られていて、時間の流れが異なるのだ。
有名なおとぎ話の浦島太郎の逆バージョンで、夜明けの部屋の一日が現実世界の一時間に相当するのだ。
もし仮に現実世界の一日分を夜明けの部屋で過ごしたら単純計算で二十四日分過ごすことが出来るのだ。
普段は学生生活を過ごしている俺たちに配慮して夜明けの部屋の時間と空間を操作してくれたのだ。
時間と空間をいとも簡単に操るアリス先生の魔法に俺たちは驚愕したが、これはあまり修行の時間が取れなかった俺にとって有り難いことなので深く感謝した。
先輩と兄ちゃんと姉ちゃんと別れた俺たちは学生寮に戻ると、俺たち星桜学園に通う学生の母と親しまれている寮母の奥村さんがやって来た。
「天堂さん、アメリカからお手紙が届いています」
奥村さんの手にはアメリカの国旗がプリントされた白い封筒があり、千歳は目を輝かせて手紙を受け取った。
「え!?アメリカから!?奥村さん、ありがとうございます!!」
「では私はこれで。二人共、お休みなさい」
「「お休みなさい」」
奥村さんとその場で別れると千歳は嬉しそうな表情でスキップをしながら自室に戻っていく。
千歳があそこまで喜ぶなんて、手紙の主は誰なんだ?と思いながら自室の鍵を開けて中に入ると千歳は早速ハサミで手紙の端を切って中身を開く。
アメリカから届いたので中の手紙は当然英文で俺は少しげんなりしながら椅子に座った。
『千歳よ、それは誰からの手紙なのだ?』
『早く教えてよ!』
銀羅と白蓮がそう尋ねると千歳は得意げな表情をして手紙を見せながら言った。
「ふふん!これはね、私の師匠……マスターからの手紙なの!」
「千歳の師匠?」
千歳の師匠と言えばアメリカに居た時に千歳に銃器の使い方や戦い方を教えた人らしい。
名前やどんな姿をしているのかまだ教えてもらったないが、俺はその千歳の師匠に若干の敵意がある。
「ちくしょう……ちーちゃんのお淑やかな性格を改変をした元凶か……」
昔はお淑やかな千歳が師匠の影響で今の少しはっちゃけた性格になってしまった。
しかも俺を落とすための色々な間違った教えをしているのでまだ見ぬその師匠に少なからずの敵意があるのだ。
「それで、その師匠の手紙には何て書いてあったんだ?」
「うん!今度日本に来て『映画の舞台挨拶』をするんだって!」
「…………は?映画の舞台挨拶??」
衝撃的過ぎる千歳の言葉に俺は数秒思考が停止していた。
映画の舞台挨拶って事は……千歳の師匠は映画の出演者!?
しかも日本に来日って事はかなり有名な女優なのか!?
あまりにもとんでもない事に頭の中で混乱していると千歳はテレビの電源を着けた。
「えっと、確かこの時間に……あ、あったあった!」
チャンネルを変えるとテレビには映画の宣伝のための五分の特別番組が流れていた。
綺麗な長い金髪の美女が髪をなびかせながら二丁拳銃を持ってどこかで見たことのある華麗なガンアクションをしていた。
千歳はその美女を見て目をキラキラとさせていると俺は少し嫌な予感をしながら尋ねた。
「ち、ちーちゃん。も、も、もしかしてお前の師匠は……」
そして、千歳は満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「うん!アメリカ屈指のアクション女優、『フェイト・ハワード』!私のマスターでお姉ちゃんみたいな存在なの!!」
フェイト・ハワード。
それは芸能界に疎い俺でも知っているアメリカの女優さんだ。
その美しい美貌に絹糸のような綺麗な金髪にスタイル抜群な体、そして気さくな性格に世界中に多くのファンがいる。
映画に多数出演していて、アクションシーンはスタントマン無しで極力自分で行っており、誰をも魅了するスタイリッシュなガンアクションに『銃の姫 (ガン・プリンセス)』と呼ばれている。
「マ、マジかよ……」
まさかそんな有名人が千歳の師匠で姉のような存在だとは夢にも思わず開いた口が閉じなかった。
「それから、マスターからの贈り物でこれが入っていたの!」
封筒には手紙以外に2枚のチケットが入っていた。
それは今テレビで流れているこの映画の主役達が日本に来て映画の宣伝を兼ねたファンに向けた挨拶である、来日舞台挨拶のチケットだった。
「私と天音の分のチケット2枚、来週の日曜日だから観に行こう!!」
「舞台挨拶か。分かった、お言葉に甘えて一緒に行こう」
『ねえねえ、僕達は?』
『私達も見られるのか?』
「もちろん!契約聖獣の同伴もOKだから一緒に観よう!」
『やったー!初めての映画だ!』
『千歳の師匠が出る映画だ、これは楽しみだな』
白蓮と銀羅は一緒に映画に観に行けることにとても喜んでいた。
「本当はマスターに会って色々話したいけど、流石に忙しいから無理かな?」
有名な女優ともなればスケジュールもいっぱいで中々自由な時間はない。
日本のテレビ局とのインタビューや特別番組にも出演しないとならないし、日本のファンも大勢来るだろう。
それでも生で大切な師匠の顔を見られるだけでも千歳にとっては嬉しいことだろう。
俺も今から舞台挨拶は楽しみだが幾つか問題があることに気付いた。
それは俺自身のことで日曜日までにアリス先生に相談して何とかしようと思った。
☆
約1週間後の日曜日。
千歳との約束通りに白蓮と銀羅と一緒に映画の舞台挨拶が行われる都心の大型映画館に来ていた。
既に時間は午後5時を過ぎており、映画館には舞台挨拶のチケットを持った大勢のファンやテレビ局の取材者が詰めかけていた。
チケットは倍率がかなり高い争奪戦だったらしく、それほどに映画はもちろん出演者であるフェイトさんの人気の高さが伺える。
ちなみに俺と千歳は私服姿だが、俺は『この時間』でも男物の服を着ている。
俺の謎の体質で後数時間もすれば日が暮れて女体化してしまうが、その対策を事前に取っていた。
それは俺の左手の人差し指にはめられた一般的にも流通しているツルが絡み合っている唐草模様のシルバーリング。
これはアリス先生が作ってくれた魔法具で俺の中にあるとされる『陰の霊力』が漏れ出すのを防ぐ。
アリス先生に調べてもらったところどうやら俺の体の中には二つの魂が宿っているらしく、一つは俺のでもう一つは十中八九空音のだ。
どうして一つの肉体に二つの魂が宿っているのか分からないが、俺の女体化の原因は空音の持つ陰の霊力が夜の世界で活性化することでこの肉体に影響を及ぼして女性の体に変化したのでは無いかというのがアリス先生の説だ。
まだ詳しい事は判明してないが、とりあえずの救命措置として夜の世界でも俺が女体化しないようにと魔法具を作ってくれた。
一年ぶりに夜でも男の姿に涙を流すほど感動したが、根本的な解決には至ってないので原因究明と対策をこれからアリス先生と考えていく。
さて、今日これから鑑賞するこの映画のタイトルは破壊者の意味を持つ『ブレイカーズ』。
フェイトさんが二丁拳銃と長剣を操るアメリカ国防総省のエージェント、主人公役の『リリー・ルイス』を演じ、地球を滅ぼそうとする凶悪な異形の軍団を倒すために世界中の様々な力を持つ戦士達と共に戦うアクション映画だ。
売店でパンフレットを購入して出演者のページを見ると出演者の豪華さに驚いていた。
「出演者、かなり豪華だよね?」
「そうだね。アメリカを代表する俳優と女優が出演しているからね。その分アクションや演出も凄いからお金がかかっているらしいからね」
『それにしても、映画というものは凄いな。妖力や術を使わずに人が演じた物語を映し出すんだからな』
『そうだね、人間が考えた科学って凄いよね。この世界に来た時から驚きの連続だよ』
銀羅と白蓮は聖霊界にいた時には見たことも考えたことも無いこの人間界の科学技術に感心していた。
聖霊界にいた時の話は度々二人から聞いていたけど、自然がとても多く人里もあったけど人間界にある科学技術は無いらしい。
そう考えると人間界の長い歴史の中で常に進化していく科学に改めて俺自身も感心した。
「さあ、そろそろ席に着くから劇場に行くよ!」
チケットを持った千歳の後について行き、入場口でスタッフにチケットを見せてこの映画館で一番大きな大型劇場に入り、チケットに書かれた席に行くと……。
「え?嘘?一番前?」
映像を映し出すスクリーンと出演者が並ぶ大きな舞台の目の前の席だった。
「うふふ、出演者を一番間近で見られるA席だからね♪」
『ほう、流石は千歳の師匠だ。気配りができているな』
『感謝感激だね!』
普通の映画ならともかく、映画舞台挨拶の一番前の席はファンなら誰もが喉から手が出るほどに欲しいだろう。
既にこの席のチケットの権利を持っていたのか……フェイトさんは凄い人だなと思った。
俺と千歳は少し高級感の漂う席に座り、白蓮は俺の膝に乗り、銀羅は千歳の前で静かに座って舞台挨拶が始まるのを待つ。
「あ、そうだ。始まる前に……」
俺は顕現陣から太い輪っかに切れ目のあるシルバーアクセサリーを取り出す。
それは耳に挟むアクセサリーのイヤーカフスで、それを左耳の耳たぶに挟んだ。
これもリングと同じくアリス先生お手製の魔法具であらゆる言葉を日本語に変換し、また俺が話す日本語もそのままの意味を相手に伝えて話すことができる、簡単に言えば自動翻訳機みたいなものだ。
フェイトさん達はアメリカ人でもちろん英語で話すからその英語を理解するために作ってもらった。
これさえあれば舞台挨拶でフェイトさん達が何を話したのかちゃんと理解することが出来る。
アリス先生達は甘いお菓子が好きなので俺の手作りのお菓子を代金代わりとして支払ってこの二つの魔法具をいただいたのだ。
ちなみにこの魔法具は普段学園の英語の授業で使わない。
これを使えば不得意な英語の勉強を楽にこなせるがそれでは何の意味も無いし、ズルをしているので外国人と話す時だけに使うことに決めている。
そして、しばらく待っているといよいよ舞台挨拶が始まり、スーツ姿の司会者がマイクを持って話し出す。
『皆さん、大変長らくお待たせしました。これより、ブレイカーズの舞台挨拶を開始します!』
全席から拍手が沸き起こり、遂に始まったとワクワクした楽しい雰囲気が漂っていた。
映画の監督や他の出演者が続々と出てくる中、最後を飾るのは主人公役のフェイトさんだった。
『それではお待たせしました!ブレイカーズの主人公役のリリー・ルイスを演じる、アメリカが誇るアクション女優、フェイト・ハワードさんです!!』
舞台脇から駆け上がるように出てきたのはテレビで何度も見た美女だった。
綺麗な長い金髪にサファイアの美しい青色を思わせるような碧眼、そしてスタイル抜群のその体を水色のドレスに身を包んでいてその美しさをさらに引き出していた。
その瞬間から全ての席から歓声が上がり、あまりこういう場に慣れていない俺はビクッと驚いてしまった。
「マスタ〜!!!」
そして、千歳がいきなりハイテンションになってフェイトさんに呼びかけるとすぐに気付いてこちらにウインクをして応えた。
フェイトさんはマイクを持って挨拶をする。
「皆さん、こんにちは。アメリカから来たフェイト・ハワードです。皆さんに会えてとても嬉しいです!」
英語が自動的に聞き慣れた日本語に翻訳され、耳につけた魔法具が無事に作動している。
『おー、あれが千歳の師匠か。間近で見るととても綺麗だな』
『うん、とっても綺麗!』
銀羅と白蓮はフェイトさんの綺麗な姿に見惚れていた。
確かにフェイトさんは綺麗だった。
日本人とは異なるアメリカ人特有の顔立ちは見惚れても仕方ないと思う。
だけど……。
「天音、マスターが綺麗なのはわかるけどデレデレしないでね?」
もし仮に見惚れていたら千歳に何かされるのは確かなので心を強く保つ。
改めて見るとフェイトさんを見ると日本人とアメリカ人の美しさの違いがあるなと思う。
蓮宮神社に住む俺の母さんと叔母さんは今の日本に失われつつある古き良き日本の大和撫子みたいな人達で俺と同じく長い黒髪で和服中心の服装をしている。
日本の和とアメリカの洋と例えればいいのだろうか、大きな海を越えた国でこれだけの違いがあるのは不思議だなと常々感じる。
それから出演者達や監督の映画に対するトークをそこそこにいよいよブレイカーズの先行上映が始まる。
ブレイカーズは二時間半にも及ぶ超大作でストーリーも俺好みなヒーローもので見所はアクションだった。
派手でスタイリッシュなアクションで次々と敵を打ち倒し、CGも素晴らしく見ている観客達に感動を与えていた。
そして、二時間半の時間はあっという間に過ぎてエンディングとスタッフロールが流れ終えて会場に明かりが灯されると観客が一斉に席を立って再びの拍手が沸き起こった。
俺と千歳も立ち上がって拍手をすると再びフェイトさん達が会場に上がってお別れのトークをする。
そして、計三時間近くの舞台挨拶と映画鑑賞が終わり、興奮の熱が冷めないまま映画館を出た。
「マスター本当にカッコよかった〜!やっぱり私のマスター世界一!」
「ああ。本当に最高の映画だった。後でもう一度映画館で見て、DVDが発売されたら買おう」
ブレイカーズの映画は俺のお気に入りの映画に入り、パンフレットをもう一度見ていると白蓮と銀羅も興奮したまま話していた。
『凄かった!もっと色々な映画を見たくなった!ねえねえ、確か映画が見られる円盤は本屋にあったよね?』
『女優とは凄いな……まるで本当に存在する人間のように演じるんだからな。フェイトの演技も素晴らしかったぞ』
白蓮と銀羅は映画の素晴らしさにハマってしまい、今度学園の本屋で映画のDVDを借りる事になった。
契約聖獣の中には人間界の文化に触れて趣味が増えるものが多く、特に映画は上位に入るほどの人気がある。
「さて……とりあえず、帰りにハンバーガーでも食べて学園に帰るか?」
「うん!ハンバーガー大好き!」
千歳は俺の腕に抱きついてそのまま近くのハンバーガーショップに行こうとしたその時だった。
「チトセさん。お待ちください」
「えっ?」
眼鏡をかけたスーツ姿のアメリカ人の女性が話しかけると千歳は「あっ!」と驚いて口を開けたら。
「あ、あなたはケイリーさん!?」
「え?知り合い?」
そのアメリカ人女性のケイリーさんは微笑むと俺たちにしか聞こえないような小さな声で話しかける。
「皆さん、こちらへどうぞ。フェイトさんが待ってます」
「「えっ!?」」
ケイリーさんは驚く俺たちの手を取り、映画館の奥へと案内される。
.
フェイトさんは私の中で今まで一番出したかったキャラでアメリカ編の主要人物になります。
契約聖獣は次回判明します。




