第7話 クラス代表戦、開幕
今回は初めてのバトル回です。
まずは入場とバトルスタートです。
side天音
クラス代表戦当日。
今日は授業は無く、代わりにこの日一日はアーティファクト・バトルに費やされる。
朝食を軽めに食べ、軽く素振りをした後に戦いの舞台である『アーティファクト・アリーナ』に向かう。
アーティファクト・アリーナは星桜学園の敷地内に設立された円形劇場型の闘技場で、星桜学園で行われるアーティファクト・バトルはここで行われる。
観客席は全校生徒全員と教師全員が入ってもまだ余裕があるほどたくさんあり、さながら古代ローマの剣闘士の戦いのような光景を彷彿とさせる。
今回は一年生のクラス代表戦なので、観客席には全一年生がクラス毎に座っている。
そして、選ばれたクラス代表はそれぞれ控え室に案内されてそこで着替える。
白蓮は悟空の宴会で遊び疲れ、持ってきたバスケットに置いて試合までゆっくりと寝かせる。
アーティファクト・バトルの服装は基本、制服以外の選手の持つ服を着ることになっている。
大体の人は私服ですませるが、俺は守護者・蓮宮の当主なのでそれに見合う戦闘服を持っている。
蓮宮神社に代々伝わる戦闘服は綺麗な蓮宮の紋が描かれた白蓮の花のように白い小袖に、紅蓮のように赤い紅袴……いわゆる、神子装束を着用する。
更に手の甲から腕を守る手甲を両腕につけ、白い足袋と自分で編んだ藁草履を履く。
戦闘になると長い髪が少し邪魔になるので、『妹』に去年誕生日プレゼントに貰った自分で編んだ赤い紐で髪を纏めてポニーテールにする。
そして、愛刀の蓮煌を帯に帯刀し、最後に昨日配布されたアーティファクト・バトルの必須道具である魔法陣や色々な言語の文字が刻まれた銀色の腕輪の『シールドリング』を左手首につけて戦闘準備完了だ。
「よし……!」
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえる。
「天音、準備出来たー?」
それは千歳の声だった。
俺が着替え終わるまで待ってくれていた。
「ああ。準備出来たから開けていいよ」
「では、失礼しま……うっひゃああああああーっ!?絶世の超絶美少女の黒髪巫女さんキター!!!」
神子装束に着替えた俺を見るなり目をキラキラと輝かせてテンションマックスで俺に近づく。
「絶世の超絶美少女って……千歳、今の俺は男だからね?まだ夜じゃないからね」
「そんなのは今どうでもいいの!いやー、外国人が巫女さんに憧れる理由がよく分かるわ〜。それよりも天音、写真撮らせて!携帯の待ち受けやパソコンの壁紙にするから!!」
制服のポケットからこの前のデートの時に買った最新式の高性能デジカメを取り出した。
俺の写真を撮りまくる為だけにそのデジカメを買ったと言っていた。
「あはは……全く千歳は困ったもんだな。良いよ、数枚だけだぞ?」
「うんうん!じゃあ、まずは自然体で、その後は蓮煌をかっこよく構えたのをお願い!!」
下手に断ると色々と面倒だと思い、ここは素直に何枚か撮らせて会場に向かう事にした。
そして、何枚かポーズを取って写真を撮らせると千歳は満足したように笑みを浮かべる。
「もう、良いか……?」
「うん!ありがとう、天音。そろそろ会場に行くんだよね?」
「ああ。最初の一回戦は一組とお隣の二組だからな」
「そっか。ねえ、天音。戦いに行く前にちょっと腰を下ろしてくれるかな?」
「え?何で?」
「良いから、すぐに済むから」
何をするんだろうと思いながら千歳の言う通りに千歳の前で跪くように腰を下ろすと、何故か俺の頭に両手を添えた。
「千歳……?」
「あなたに……祝福がありますように」
そして、呆然としている俺にそっと額にキスを落とした。
「…………えぇえええええっ!?いきなり何するんだよ!?」
唇の次は額にキスをされ、驚いて立ち上がって額を抑えながら叫んでしまう。
「祝福のキスよ。天音の女神様のキスだからこれで試合はバッチリよ♪」
「だからってキスを無闇にするんじゃありません!」
「出来れば……天音からして欲しいな……」
「っ……ああもう!俺からキスはしません!白蓮!!」
『ん〜?あぁ、はーい……』
白蓮は眠たそうにしながらバスケットから起きて俺の肩に乗り、千歳と一緒に控え室を出て鍵をかける。
「天音!」
「な、何だよ?」
「この試合で優勝したら……」
「優勝したら……?」
え?なんかすごく嫌な予感が……。
「私と結婚を前提にお付き合いします!!!」
「何でそうなるんだ!?普通そう言うセリフはこっちから言うもんでしょ!?ってかそれ強制!?」
「万が一負けたら……蓮宮家と天堂家の両家のご両親に頼んで私達を許婚にしてもらいます!!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおいっ!!?それ勝っても負けても俺の人生が強制的に決められちまうじゃねえか!?」
勝っても負けても俺の人生が強制的に決められるってどういう事!?
少しは俺に自由をくれよ!!
「あ、ちなみに両家のご両親は私達を許婚にしてもオッケーと言ってたよ♪」
「いつの間に!?ってか、親父と母さんのバカァアアアアアアアアアアアッ!!!」
息子の俺が言うのもなんだが親父と母さんはどこか抜けているとこがある年中イチャイチャしているバカ夫婦で、きっと俺が知らない間に千歳が挨拶に行ったのだろう。
蓮宮の当主である俺の婚約者が日本でも指折りの名家である天堂家のご息女なら将来安泰だろうと思ったのだろう……。
千歳め……色々と手を回して外堀を埋めて俺を逃げられないようにするとは恐ろしい子だ……。
「と、とにかく……その話は後でな……行ってくる」
「はい!行ってらっしゃい、あなた♪」
「はぁ……勘弁してくれ……」
千歳とのやりとりで試合前の緊張がなくなったのは良いけど、精神的にかなり疲れたのはキツイ。
とにかく、クラス代表を背負っているんだ。
クラスのみんなの為にも頑張らないとな。
そう気合を入れながら会場へ歩みを進める。
☆
アーティファクト・アリーナのフィールドに俺と白蓮が入場口で待っていると、実況席にて三人の実況者がクラス代表戦の開催を宣言する。
『レディース&ジェントルメン!これより星桜学園、一年生クラス代表選のアーティファクト・バトルを開催します!』
待ちかねた観客席で一年生の生徒達は「「「オォーッ!!」」」と騒ぎ始める。
『実況は私、放送部部長二年の神楽坂当夜がお送りします!!』
放送部部長の神楽坂先輩は星桜学園の名物実況者で放送関連の仕事を請け負っている。
『解説は我が星桜学園が誇る生徒会長、雨月雫さんです!』
『よろしくお願いします、神楽坂さん』
二人目の実況者は星桜学園の生徒会長の雨月雫先輩だった。
雨月先輩は医学界の名門、雨月家のご息女で文武両道を備えた完璧なお嬢様。
学園の人気者でファンクラブがあるほどだった。
『そして、もう一人は雨月生徒会長をお守りする鉄壁の盾!御剣迅さんです!』
『……よろしく頼む』
その隣にいるのは生徒会副会長の御剣迅先輩だった。
雨月先輩を支える副会長だが実は雨月家に使える執事で、雨月先輩の専属執事らしい。
そのかっこよく、鋭い名前に合った物静かな感じの先輩だった。
『それでは、代表戦第一回戦第一試合のバトルのカードは注目の対戦です。一年一組代表、蓮宮天音さんです!』
「行こうか、白蓮!」
『うん!』
白蓮を頭に乗せ、蓮煌に左手を添えながらフィールドに入場する。
これほど大きな舞台に出るのは初めてで、大勢の観客の視線が一斉に集まり、人生で最大の緊張感が訪れる。
『続いては一年二組代表、鳴神雷花さんです!』
俺の対戦相手は二組代表の女の子、鳴神雷花さんだった。
俺と同い年とは思えない小さな体で、最初に廊下ですれ違いで見た時に俺の妹と同い年かと思ってしまった。
そして、見事な綺麗な金髪が揺らめき、その身には雑誌やテレビでしか見たことがない派手なゴスロリのドレスを纏っていた。
「こんにちは……蓮宮天音さん……」
「ああ。鳴神さん、よろしく」
お互いに簡単な挨拶を済ませると鳴神さんはポケットから契約媒体を取り出すが……。
「ピ、ピコピコハンマー……?」
それは子供の時に一度は触った事のあるプラスチック製の中が空洞になっているハンマーの形をしたおもちゃ、ピコピコハンマーだった。
まさかピコピコハンマーが契約媒体だとは思いも寄らなかった。
「ところで、鳴神さんの契約聖獣は……?」
「今、呼ぶから……」
右手に持ったピコピコハンマーを空に向かって掲げると、突如空に黒い雷雲が浮かび上がり、ゴロゴロと雷の音が鳴り響く。
「雷神招来……トール!!!」
ゴロゴロビッシャーン!!!
派手な落雷が鳴神さんの背後に落ちると大きな黒い人影が立っているのを見えた。
『ガハハハハッ!ようやく出番が来たか、ライカよ!!』
大笑いをして煙の中から現れたのは赤い瞳と髪と髭を携えた大男で、その手には雷を発する大きな鎚を手にしていた。
「北欧神話最強の軍神……雷神・トール……!?」
「うん、そうだよ」
鳴神さんの契約聖獣は最強クラスの神で、よっぽど召喚者の能力が高く、尚且つ神を呼び出せるほどの運がなければ召喚する事が出来ない。
そう考えると御仏である悟空を召喚した恭弥も凄いけどな。
雷神トールを呼び出した鳴神さん……やはり『あの一族』の末裔なのは間違いなさそうだな。
「白蓮、気合を入れていこう」
『もちろん!』
白蓮は雛から鳳凰の姿となり、上げた腕の上に止まる。
『さあ、両者の契約聖獣が揃いました。アーティファクトの契約をお願いします!』
俺は鞘から蓮煌を抜刀して構え、鳴神さんはピコピコハンマーを上へ掲げる。
そして、二人同時にアーティファクトの契約を執行する。
「契約執行!白蓮!」
「契約執行……トール!」
白蓮とトールの体が光の粒子となり、それぞれ蓮煌とピコピコハンマーの中に入って一つになり、アーティファクトが誕生する。
「アーティファクト!鳳凰剣零式!!」
鳳凰の大剣、鳳凰剣零式を軽く手の中でまわしながら肩に担ぐ。
この一週間……大剣で素振りと型をしてきた甲斐があって難なく鳳凰剣零式を振るえることに成功した。
そして、鳴神さんのアーティファクトは雷を纏う柄がかなり短い鉄製の鎚へと変化した。
「アーティファクト……ライトニング・トールハンマー!」
なるほど……あれは恭弥のアーティファクトと同じ、契約聖獣であるトールを象徴する武器、『打ち砕くもの』と呼ばれるミョルニルと同じ形をしたアーティファクトだな。
ミョルニルは神話の最強クラスの武器の一つで、雷神であるトールの力も秘めているから雷を宿しているようだな。
「これは中々手強い……」
「蓮宮君……全力で戦ってください。私も全力で戦います……」
「もちろん、最初からそのつもりだ」
『さあ、両選手のアーティファクトの準備が完了しましたので、次はシールドリングを起動させてください!』
互いに左手首に装着したシールドリングに埋め込まれた小さな透明な石に手を触れると、石が光り出して体に薄い膜のようなものが貼られる。
『シールドリングも無事に起動したところで、いよいよバトルが始まります!』
バトルの開幕は実況者の神楽坂先輩の合図によって始まる。
緊張感が更に高まり、鳳凰剣零式を握る手の力が強くなる。
今の状況を言葉を千歳風に表すならこうだ。
「さあ、イッツショータイムだ……!!」
『アーティファクト・バトル!!レディ……スタート!!!』
遂にアーティファクト・バトルが始まり、先手を打ったのは鳴神さんだった。
「雷霆……招来!」
鳴神さんはトールハンマーを掲げて雷雲から落雷が降り注いだ。
落雷はトールハンマーに直撃し、雷のエネルギーを充電するが、落雷はトールハンマーだけでなく鳴神さんの体にも降り注いだ。
俺だけでなくこの会場にいる誰もが一瞬目を疑ったが、雷を受けた鳴神さんは平然としていた。
「ライトニング・チャージ……轟雷装神、完了!」
鳴神さんの体は膨大な電気を宿しており、ビリビリと放電して綺麗な金髪がキラキラと輝いていた。
「行くよ……雷光流星」
トールハンマーを軽く振るうと鳴神さんの周囲に幾つものの雷の球体が作られて宙に浮かべられる。
「サンダー・シューティング!!」
雷の球体は名前の通り流星群のように一斉に放たれ、俺に向かってくる。
「白蓮!」
『うんっ!』
鳳凰剣零式に自分の霊力を込め、刀身に炎を纏わせる。
「蓮宮流神霊術!!」
蓮宮流とは蓮宮神社に代々伝わる殺人剣と活人剣の二つの剣を併せ持つ蓮宮流剣術があり、その他にも邪悪な存在に対抗する霊力を駆使して使う霊操術。
そして、アーティファクトに霊力を込める事で通常よりも大きな力を発揮する霊操術……神霊術を使う。
「鳳凰紅蓮撃!!!」
鳳凰剣零式を振り下ろすと同時に炎が膨れ上がり、大きな爆炎を起こして雷の球体を全て吹き飛ばす。
「……流石ですね」
「まだまだこれからだ。『鳴神一族』の末裔……鳴神雷花さん、いざ尋常に勝負!!」
鳳凰剣零式の纏う僅かな炎を振り払い、切っ先を鳴神さんに向けて小さな笑みを浮かべた。
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アーティファクト・ギアではなかった天音と雷花のバトルです。
本格的なバトルは次回からなのでお楽しみに。




