表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬葬  作者: えすの人
5/5

再開

 少年ティムは春が好きだ。全ての生命が目を覚まし、植物が芽吹き、小川は息を吹き返したかのように流れだす。止まった時が動きだし、まさに生を象徴するような季節である。

「おいティム。支度はできたか?」

 協会にある少年ティムの部屋にノブヒロは笑顔を覗かす。

「ノブヒロさんもう少し待ってください」

「早くしろよ。皆来ちまったぜ。頼むぜ、ティム神父様よ」

 今日は少年ティムが主役の儀式が行われる。神父代行の儀式だ。亡くなったイーリス神父の意志を継ぎ、少年ティムは神父となるのだ。町の皆が期待する中、少年ティムは神への讃美歌を唱えなければならない。

 それは、決して少年ティムにとって重いことではなかった。少年ティムは学んできた。神父が神父としてなすべきことを。そして感じてきた。死とは何か、生とは何か、真の讃美歌とは何かを。

 聖堂にはすでに人が集まっていた。

 農夫婦の御老体、町長、アツシ、ノブヒロ、その他町人たち。

 皆がざわめき、まだかまだかと主役の登場を待ちわびていた。そこで、2人の農夫がノブヒロに話しかける。

「ノブヒロさん、ティムはまだかね?」

「わしら待てんわい。早くティムの晴れ姿を見たいわい」

 急かす農夫にノブヒロは呆れたように応える。

「それが、野郎まだ準備が出来てないってよ。こんだけの人を待たせやがってまったく……」

 ノブヒロの言葉に農夫たちはピンッと思いつく。

「そういえばノブヒロさん! あんた、秋の収穫に来なかったね」


 ギクリッ!


「わしらがあんたをどれだけ待っていたと思ってるんだい?」

「あんたのおかげで作物はいっぱいで助かったけど、その分収穫が大変だったんだから」

 慌てふためくノブヒロ。額には汗が吹き出始め、焦りを覚える。しかし、彼は最大の武器を持っていることに気がついた。

「いやー悪い悪い。今年はこいつを置いていくから、許してくれ」

 そう言ってアツシの肩を組む。

 農夫婦たちの贄に選ばれたアツシは、冗談ではない、と言わんばかりの表情で否定をする。

「おいおい! 勘弁してくれ!」

「今年の収穫は以前の3倍と思ってくれてもいいぜ」

 ノブヒロの宣伝に集まってくる農夫婦たち。アツシは引っ張りだこ状態である。

「あんた、ノブヒロさんの弟さんじゃろ?」

「ここで働いてくれるのかい?」

「助かるねぇ」

 アツシに蟻の如く群がる農夫婦たち。そこへ、強く手を叩きながら町長が止めに入る。

「皆の者! 静まれ! 主役の登場だ!」

 時は満ちた。


 勢いよく部屋を飛び出し、神父姿の少年ティムが現れた。息を荒げて階段を下りる。

「お、お待たせしましたぁ!」

「遅ぇぞティム!」

「遅刻だ遅刻!」

 ノブヒロと農夫婦たちから解放されたアツシが荒声を上げる。ペコペコと謝罪する少年ティム。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 心の整理が出来なくて!」

「いいから、とっとと始めろ! 皆待ってるんだぜ」

「はい。……では、始めます」

 聖堂の中心、神の彫刻が建つ教壇の前でゆっくりと呼吸を整える少年ティム。静寂が辺りを包み、聞こえるのは緊張と戦っている少年ティムの息づかいだけだ。

 初めは速かった呼吸も徐々に落ち着きを取り戻し、いざ讃美歌を捧げんと少年ティムが口を開ける。

 その時だった。


 少年ティムの息づかい以外にも聞こえる音があった。綺麗に流れる鼻歌。囁くようであり、どこか温もりを感じさせる。日の光が射し込み、明るく輝く教会に似合った鼻歌である。

 少年ティムはその鼻歌をどこか懐かしく、そして愛しく感じた。鼻歌の曲は讃美歌だった。讃美歌が鼻歌として、教会中に輝水のように浸透していったのだ。

 いきなり鼻歌のする方へ駆けていく少年ティム。神父の帽子が落ち、走る風の抵抗でとかしたばかりの髪が乱れる。少年ティムが行き着いた場所。そこは教会の出入口、扉だった。

 そういえば、あの娘と初めて出会ったのもこの場所だった。懐かしさと愛しさが頭の中を駆け巡る。

 次に聞こえてきたのは、ノック音だった。乾いた扉を叩く、弾むような軽い音だ。

「ティム。出てやれよ」

 いつもとは違う、やさしい声でノブヒロは少年ティムに言った。少年ティムはそっとドアノブに手を掛ける。



──そして、あの時と同じく天国の扉を開く。



「まあ、可愛らしいお嬢さん!」

「ありゃティムのガールフレンドじゃないかい?」

 農夫婦たちから声が上がる。背を向けるノブヒロとアツシ。

 少年ティムはいつかと同じく、輝玉の笑顔で迎え、言った。



「──おかえり」



~end~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ