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ニート撲滅戦士  作者: 勇氣
第三章女神編

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第五十二話 負債の巨竜(モノリス)と覚醒する黒き技術者(フルスタック・エンジニア)

 ウルクの防壁の上空を埋め尽くした「名を持たぬ光の剣(無名関数・ラムダ)」の豪雨は、神聖ヨーロッパ帝国が誇る鈍重なオンプレミス十字軍を文字通り瞬殺していた。物理的な装甲ハードウェアをいくら分厚くしようとも、実体を持たずメモリ上に一瞬だけ展開されるサーバーレスの斬撃は、ゴーレムたちの内部ロジックを直接焼き切り、機能停止へと追い込んでいく。


魔法使いマーリン

 「おおお……! 鉄の巨兵たちが次々とスクラップになっていくわい! これが新時代の魔法、クラウドネイティブの力じゃというのか!」


レガシー異端問問官

 『馬鹿なッ! 我らが神聖ヨーロッパ帝国が数百年の歳月と莫大な予算コストをかけて構築した堅牢なるオンプレミス陣形が、こうも呆気なく崩されるだと!?』


 通信モニターの向こう側で、甲冑姿の異端審問官が血走った目を剥く。

 しかし、彼はまだ絶望してはいなかった。むしろ、その青白い顔に狂気じみた笑みを浮かべ、マントのように引きずっていた無数の物理ケーブルを自らの身体に接続した。


レガシー異端問問官

 『だが、オープンソースの簒奪者よ! 貴様らの薄っぺらい分散処理では、我が帝国の真の奥義には耐えられん! 刮目せよ、これぞ何世代にもわたる秘匿された知識の結晶! 召喚領域展開――『単一巨大構造モノリシック・メインフレーム』!』


ズズズズズズッ……!

 十字軍の残骸を喰らい、大地を割って這い出してきたのは、おぞましい姿をした超巨大な機械の竜だった。その身体は無数の規格外ケーブルと、継ぎ接ぎだらけの古い装甲で構成されている。誰が書いたのかも分からない仕様書なしの魔法陣ブラックボックスが全身で脈打ち、動くたびに周囲の空間メモリを異常な速度で食いつぶしていく。


魔法使いマーリン

 「ひぃぃっ! な、なんじゃあの悍ましい竜は!? 存在しているだけでウルクの大気が淀んでいくぞ!」


佐藤太郎

 「……最悪ですね。あれは『技術的負債テクニカル・デット』の塊です。長年の場当たり的な修正スパゲティコードと、特定の魔法使いにしか理解できない属人化されたロジックが絡み合い、もはや開発者本人すら制御不能になった巨大なバグの集合体。IT業界における最凶の魔物ですよ。」


 佐藤太郎は露骨に顔を顰め、コーヒーカップを置いた。


レガシー異端問問官

 『ハハハハハッ! この巨竜の内部ロジックは完全に密結合している! 一箇所でも破壊すればシステム全体が連鎖的に暴走し、貴様のウルク諸共、周囲の空間すべてを道連れに自爆カーネルパニックするぞ! 斬れるものなら斬ってみろ!』


魔法使いマーリン

 「な、なんと卑劣な……! 攻撃すれば我らも無事では済まぬというのか!」


佐藤太郎

 「ええ、あんなものをウルクのメインネットで爆発させられたら、システムが汚染されてしまいます……だから、手は触れません。」


 佐藤太郎は冷酷な眼差しでコンソールに向かい、これまで以上の速度でキーボードを叩き始めた。


佐藤太郎

 「あのような古臭い巨大システム(モノリス)に対する現代の最適解は『隔離』と『廃棄』です……展開デプロイ! 『仮想化コンテナ(ドッカー)』!」


 佐藤太郎がエンターキーを強打した瞬間、暴れ狂うメインフレーム巨竜の周囲に、透き通るような青い立方体の結界コンテナが出現し、巨竜をすっぽりと閉じ込めた。


レガシー異端問問官

 『な、何ッ!? 結界だと!? だが、そんな薄い壁などすぐに……!』


佐藤太郎

 「ただの壁じゃありません。それは巨竜の実行環境そのものをシステムから完全に切り離す『論理的な隔離空間』です。もはやお前たちの巨竜は、ウルクのOSとは何一つ繋がっていない。そして……」


 佐藤太郎の背後に、巨大な船の操舵輪を持つ神聖な光の天使の幻影が浮かび上がる。


佐藤太郎

 「巨大なコンテナの群れを統括する操舵手クーバネティスよ。あの不快なゴミ(技術的負債)を、底なしの虚無(/dev/null)へ投棄ドロップしろ。」


 天使が操舵輪を大きく回すと、巨竜を閉じ込めた青い立方体は、足元に開いた漆黒のブラックホールへと音もなく吸い込まれていった。爆発も、暴走も、一切の痕跡すら残さずに。


レガシー異端問問官

 『あ……ぁ……。我らが数百年の歴史が……こんな、こんな一瞬で……ッ!?』


佐藤太郎

 「新陳代謝を拒んだシステムの末路です。せいぜい虚無の中で、永遠にエラーを吐き出し続けてください。」


 無慈悲なシステム管理者(佐藤太郎)の手によって、異端審問官の通信は強制的に遮断コネクション・リセットされた。


――同じ頃、クノッソス宮殿の入り口。

 神聖ヨーロッパ帝国の脅威が去ったウルクの片隅で、ついに一つの奇跡が起ころうとしていた。


熱血防衛プログラム

 『そうだ……! そのコードだ! 完璧なインデント! 無駄のないメモリ管理! お前の魂の叫び、確かに受け取ったぞおおおおッ!』


♰闇男♰

 「終わっ……た……ッ! これが、俺の、究極の最適化アンサーだぁぁぁッ!!」


ターンッ!!

 ♰闇男♰が最後のエンターキーを叩き伏せた瞬間、クノッソスの巨大な扉を覆っていた複雑怪奇な暗号陣が、眩い光と共に砕け散った。褐色の肌を汗まみれにし、息を荒らげる♰闇男♰の頭上に、システムからの評価スコアが燦然と輝く。

 『限界突破オーバーフロー――ウルク最高位権限ルートの一部を付与』


 チートで楽をして稼ごうとしていたかつてのアウトローは、過酷な熱血指導の末に、自らの技術と情熱だけで最強の防衛システムを打ち破ったのだ。その瞳には、もはや小銭を稼ごうとする卑小な悪意は欠片もなく、純粋な創造者クリエイターとしての誇りだけが宿っていた。


佐藤太郎

 「おめでとう、♰闇男♰いや……これからはウルクを牽引する『筆頭フルスタック・エンジニア』と呼びましょう。」


 モニター越しにその姿を見つめながら、佐藤太郎は満足げに笑った。旧体制レガシーの残骸を払い除け、新たな才能オープンソースが産声を上げる。ウルクの魔法経済圏は、今、真の爆発的成長スケールアウトのフェーズへと突入しようとしていた。

 神聖ヨーロッパ帝国が誇る技術的負債の塊「メインフレーム巨竜」に対し、佐藤太郎はコンテナ化(Docker)とオーケストレーション(Kubernetes)による完全隔離と廃棄で圧倒しました。

 一方、熱血防衛プログラムのしごきを耐え抜いた♰闇男♰は、ついに自らの力で迷宮を突破し悪のハッカーから、純粋な技術を愛する「筆頭フルスタック・エンジニア」へと見事なクラスチェンジを果たしました。旧時代の終焉と、新時代のクリエイターの誕生です。

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