第四十八話 粘土板の学校『エドゥブバ』と27のテストカバレッジ
旧支配者『ティアマト・エンジン』の残骸から抽出された莫大なリソースを用いて、佐藤太郎は次なるインフラストラクチャの構築を瞬く間に完了させた。漆黒だった暗黒領域は浄化され、今やブルー・ファイアンス(古代の鮮やかな青彩釉)のような透き通る仮想の空の下に、ビアンコ・サントリーニを思わせる純白の巨大な学舎がそびえ立っている。
魔法使いマーリン
「おお……なんという壮麗な建物じゃ。これが新規ユーザーに魔法を教えるための学校だというのか?」
佐藤太郎
「ええ、新世界のチュートリアル領域にして、巨大な教育用サンドボックス……粘土板の学校『エドゥブバ』です。ここでユーザーたちは、システムを破壊するリスクを負うことなく、安全に魔法の基礎を学ぶことができます。」
そう語る佐藤太郎の服装は、いつもの現代的な出で立ちから変化していた。腰には羊毛の房飾りを何層にも重ねた古代メソポタミアの伝統衣装『カウナケス』を纏っている。
魔法使いマーリン
「太郎よ、お主のその妙なスカートのような服はなんじゃ?」
佐藤太郎
「カウナケスですよ。初期装備として実装しました。房飾りの隙間から風が抜けるので、長時間のコーディングによる脳の処理熱を逃がすための『水冷ヒートシンク』として極めて合理的なデザインなんです。見た目も悪くないでしょう?」
佐藤太郎が指を鳴らすと、白亜の学舎の内部に、ネロ・カルボニオ(深い漆黒)の色合いを持つ無数の「粘土板(仮想端末)」がズラリと整列した。
佐藤太郎
「この世界にログインした新規ユーザーは、まずこのエドゥブバに送られます。彼らはこの漆黒の粘土板に向かい、楔形文字(プログラミング言語)を使って、初歩的な火起こしや水出しの魔法から記述していくことになります。」
魔法使いマーリン
「ふむ……しかし、ただ学ばせるだけで皆が真面目に勉強するじゃろうか? 魔法の習得は過酷じゃ。途中で投げ出す者も多いぞ。」
佐藤太郎
「そこは『ゲーミフィケーション』と『トークンエコノミー』で解決します。ただの苦行じゃモチベーションは続きませんからね。」
佐藤太郎はコンソールを開き、エドゥブバのカリキュラム(実行環境)に新たな評価アルゴリズムを実装した。
佐藤太郎
「生徒たちが粘土板に魔法のコードを記述し、提出すると、システムが自動で『静的コード解析』と『単体テスト』を実行します。コードの美しさ、処理の軽さ、バグの有無……これらを総合的に採点し、基準である『27pt』を上回った者だけが、その魔法の実行権限を得られます。」
魔法使いマーリン
「27ポイント……! なぜ27なのじゃ?」
佐藤太郎
「初心者が基礎を身につけ、システムに負荷をかけない美しいコードを書けるようになるための、絶妙な評価閾値です。そして、この27ptの壁を越えて課題をクリアしたユーザーには、報酬としてプラットフォーム内の基軸通貨『シェケル・トークン』が自動でマイニング(給与支給)されます。」
魔法使いマーリン
「な、なんと!? 学校で学ぶだけで、金が貰えるというのか!?」
佐藤太郎
「『Play to Earn(遊んで稼ぐ)』ならぬ『Learn to Earn(学んで稼ぐ)』です。彼らが書いた美しいコードは、ゆくゆくはウルクの公共ライブラリの肥やしになる。つまり、彼らは学んでいるようで、すでに俺のプラットフォームのシステム開発(下請け)に貢献しているわけです。」
マーリンは、学習と労働を完全に一体化させ、ユーザーの成長すらも自らのシステムの一部として組み込む元ニートの恐るべき設計思想に、すっかり圧倒された表情を浮かべていた。
佐藤太郎
「ちなみに、このエドゥブバを卒業し、一人前の『魔法開発者』としてウルクの市街へ出るための最終課題……卒業制作の総コード量は、厳密に『30万文字』に設定してあります。これだけの圧倒的な論理構築をこなせば、誰でも神の如き魔法使いになれますよ。」
魔法使いマーリン
「さ、30万文字以上じゃと……!? なんという途方もない修練の量じゃ……!」
佐藤太郎
「継続こそが最強のアルゴリズムですからね……さあ、間もなく第一陣のユーザーたちがログインしてきますよ。」
佐藤太郎は、自らが創り上げた完璧な教育・経済システムを見下ろし、まるで世界を掌で転がすかのような、ひどく悪役めいた笑み(ヴィランズ・スマイル)を浮かべた。古代の叡智と最新のITテクノロジーが融合した学び舎に、新世界の神々(クリエイター)の卵たちが、今まさに足を踏み入れようとしていた。
教育用サンドボックス『エドゥブバ』を設立し、ユーザーを育成しながらプラットフォームを発展させるエコシステムを構築した佐藤太郎。27ptの評価基準と30万文字の卒業課題という過酷なカリキュラムの中、果たして新世代のユーザーたちはどのような魔法を生み出すのでしょうか。




