第二十話呪いの凶衣(アサシン・スーツ)と、全裸の「価格破壊(デフレ・ショック)」
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神聖インド帝国の中心、皇帝直轄の「天上の庭園」
世界最高の魔力濃度を誇るこの場所で、新任の「終身名誉・全裸顧問」佐藤太郎は、皇室専用の噴水で無邪気に水浴びをするSSS級幻獣ポチを眺めながら、備え付けの最高級マスカットを呑気に頬張っていた。そこへ、恭しい足取りで近づく一団があった。帝国の衣服市場を牛耳る「黄金裁縫師ギルド」の重鎮たちである。
1. 殺意のオートクチュール
ギルド長♂
「お初にお目に掛かります、佐藤太郎顧問。我々は黄金裁縫師ギルド。本日は陛下より賜った『全裸礼装』の特権を祝し、顧問に相応しき『見えない糸』で織り上げた特注のタキシードを持参いたしました」
佐藤太郎
「ん? 見えない糸? なんだそれ、結局全裸ってことじゃねぇか。まあいいや、最近朝晩は冷えるから、ちょっと羽織ってみるか」
タローが何気なくその透明な衣服に腕を通した瞬間――ギルド長たちの顔に、邪悪な哄笑が浮かんだ。
ギルド長♂
「愚かな! それは深淵の魔蜘蛛の糸を圧縮した『絶対拘束の呪衣』! 着用者の魔力と生命力を際限なく吸い尽くし、その肉体を永遠に社会の『常識』という名の檻に閉じ込める凶悪な魔具! 貴様の全裸神話も、我がギルドの利権の前には無力よ!」
ギリギリィッ! と、目に見えない糸がタローの鋼の肉体に食い込み、周囲の空間すら歪むほどの超高密度の重圧が彼を襲う。
2. 「不快感」という名の規格外
ディセクター♂
「チィッ、暗殺か!? しまった、あの糸は物理切断を反射する結界機能を持っている……タロー、無理に動くな! 肉が削ぎ落とされるぞ!」
帝国最強の戦士ですら青ざめる必殺の呪い。しかし、当のタローは眉をひそめ、己の脇の下をポリポリと掻いていた。
佐藤太郎
「……おい、おっさん。この服、脇のところがすっげぇチクチクするぞ。あと、肩幅がキツすぎてポチにフリスビー投げらんねぇんだけど。サイズ測り間違えてねぇか?」
ギルド長♂
「なっ……!? 深淵の呪縛を『サイズ違いの不快感』で済ませているだと……!? ええい、構わん、最大出力で締め付けろ!」
佐藤太郎
「あーもう、鬱陶しいな。ちょっと洗えば縮みも取れるだろ。おいポチ、俺もそっち入るわ!」
タローは拘束を気にする素振りすら見せず、無理やり腕を振り上げると、ポチが泳ぐ「皇室専用の魔導噴水」へと豪快にダイブした。
3. 呪いの「洗濯」と概念の溶解
バシャァァァン!!
その瞬間、化学反応は起きた。皇室の噴水に満たされた「極大の浄化魔水」、ポチの毛穴から溶け出した「SSS級幻獣の皮脂」、そしてタローの規格外の筋肉が発した圧倒的な摩擦熱が一堂に会した結果、タキシードを構成していた深淵の魔蜘蛛の糸は、耐えきれずに分子レベルで分解されてしまったのである。
ギルド長♂
「ば、馬鹿な!? 帝国の歴史上、決して破られなかった究極の呪衣が……ただの水浴びで溶けていく!?」
ジョイス♂
「……いや、ただ溶けただけじゃない! タロっちの肉体が放つ生命エネルギーと結びつき、糸が『不可視の極小魔装甲』へと再構築されている!」
噴水から上がったタローの身体は、完全に全裸であった。しかし、その肌の表面には、あらゆる物理・魔法攻撃を無効化する透明なベールが薄く定着していた。
4. アパレル産業の「終焉」
佐藤太郎
「おお、なんか肌がスベスベするぞ! しかもチクチクしなくなった。やっぱ新品の服は一度水通ししねぇとな!」
ジョイス♂
「(震える声で)……タロっち。君は今、衣服における『摩耗』という物理的制約を完全に破壊したんだ。それは永遠に損耗せず、着替えも洗濯も不要な『見えない概念礼装』。……これにより、定期的な買い替えを前提としていたアパレル産業の【計画的陳腐化ビジネスモデル】は、たった今、終焉を迎えた!」
ジョイスの残酷なまでの経済分析に、ギルド長は膝から崩れ落ちた。衣服の概念そのものが上位互換へとアップデートされた今、彼らが独占してきた布の市場は、文字通り「紙切れ」以下の価値に暴落したのだ。
ティリー♀
「ああ……! 刃向かう者には暴力ではなく、産業構造の根本的破壊をもって報いる……。血の一滴も流さずに巨大ギルドを完全敗北に追い込む、全裸の冷徹なる経営戦略……!」
佐藤太郎
「ん? おっさん、どうしたんだ? 泣くほどこの糸高かったのか? ごめんな、ポチの背中洗う時のスポンジ代わりに使っちまった」
ギルド長♂
「……完敗だ。我々が着飾っていたのは、己の弱さを隠すための『布』に過ぎなかった。真の美しさとは、圧倒的な力で紡がれた己の肉体そのもの……!」
黄金裁縫師ギルドは、その日のうちにタローの傘下に入り、「タロー・メタル」を使った装飾品部門への事業転換を余儀なくされるのであった。
5. 皇帝の憂鬱
一方、宮殿の最上階。
望遠鏡で一部始終を見ていた皇帝は、深く息を吐き、玉座に背を預けた。
皇帝♂
「……もはや奴の経済支配は、軍事や通貨の枠を超え、『概念』にまで及んでいる。帝国の根幹が、あの男の『生活習慣』一つで書き換えられていくとはな……」
しかし、皇帝の口元には、隠しきれない歓喜の笑みが浮かんでいた。停滞していた帝国が、数千年の時を経て、未曾有のインフレーションへと突入しようとしていたからだ。
次話予告:
「肉ばっか食ってたら野菜も食いたくなってきたな」
タローの一言で、今度は大陸の『農業流通チェーン』が崩壊の危機!?
帝都最大の地下迷宮に眠る「世界樹の種」を求め、全裸の男が鍬を握る!
佐藤太郎の現在の資産:
現金: 100,000,037€(帝都の経済顧問報酬に、黄金裁縫師ギルドの全資産が吸収合併により追加)
新装備: 『概念礼装・エンペラーズ・ニュー(透明な絶対防御ナノ装甲)』
フォロワー: 黄金裁縫師ギルド(全裸を究極の美と崇め始めた熱狂的ファンクラブに豹変)
全裸の男が歩けば、世界経済がその足跡に傅く。タローの覇道は、いよいよ帝国の深淵へと迫る。




