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検死役の娘は、死体に嘘をつかせない。  作者: 雨音 穹
第一部 検死役の娘

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第一章 河灯の謎 ep.25



昼を少し過ぎた頃だった。

市場はいつも通り賑わっている。






魚を並べる声。

野菜を売る声。

行き交う人々の足音。






私はその中を歩いていた。

頭の中には、まだあの糸が残っている。

死体の爪に絡んでいた繊維。

そして斑が持って行ったもの。

あれは何なのか。

ただの糸とは思えなかった。






河。

灯り。

死体。






考えれば考えるほど、何かが噛み合っていない気がする。

私は歩きながら、河の方角を見る。

ここからでは見えない。

だが、確かにそこにある。

その時だった。






「こっちだ!」






子どもの声がした。

路地の奥。

数人の子どもがしゃがみ込んでいる。






私は何となく足を止めた。

子どもは三人ほど。

石を並べて遊んでいるようだった。

一人が地面を指す。






「ここが河!」






別の子が小石を置く。






「これが死体!」






私は思わずそちらを見る。

子どもは真剣な顔で続けた。






「ほら、ここに流れてくるだろ」






石を転がす。

もう一人の子が声を上げる。






「そしたら灯りが出る!」






その言葉に、一瞬胸の鼓動が止まったような気がした。

私はゆっくり近づく。

子どもたちはまだ遊んでいる。






地面に並べられた石。

小さな河の形。

そして、その石の位置。

私はそれを見て、息を呑んだ。

死体が上がった場所と、ほとんど同じ位置。

私はしゃがみ込んだ。






「それ、何の遊び?」






子どもたちがこちらを見る。

一人が答える。






「河灯(かとう)ごっこ」






私は言う。






「河灯(かとう)?」

「知らないの?」






子どもは不思議そうな顔をする。






「夜になると出るんだよ」

「河に灯り」






私は静かに聞く。






「見たことあるの?」

「あるよ」






あっさりした答えだった。






「綺麗なんだ」






別の子も言う。






「ふわーって光る」






私は石を見る。






「それって、死体が流れた時?」






子どもは首を振った。






「違うよ」






私は少し驚く。






「違う?」






子どもは石を指で弾いた。






「灯りは流れてこない」

「河の中から出るんだ」






私は言葉を失う。

河の中から出る?

子どもは続ける。






「こうやって.....」






地面の石を指で持ち上げる。






「ぴかって出て_____」

「それから流れる」






私はその様子を見つめていた。

子どもは無邪気に笑う。






「でも、触るとだめなんだ」






私は聞く。






「どうして?」






子どもは肩をすくめる。






「死ぬから」






一瞬、風が止まった気がした。

私は静かに言う。






「それ、誰が言ったの」






子どもは答える。






「みんな知ってるよ」

「河灯(かとう)は触っちゃだめ」






私はさらに聞く。






「じゃあ、誰が触るの」






子どもは石を転がしながら言った。






「斑って人」






その名前に、私は凍った。






「.....斑?」






子どもは頷く。






「うん」

「灯りを捕まえる人」






私は思わず聞く。






「捕まえる?」






子どもは嬉しそうに身振りをする。






「そう!」

「灯りが出るとさ」

「白い服の人が来るんだ」






胸の奥が静かに鳴る。






「それで、灯りを取るんだよ」






私は、あの日の夜のことが浮かんだ。

河で、斑が糸のような物を回収した夜。

私は何も言えなかった。

子どもが続ける。






「でもさ、灯りはすぐ消える。だから大変なんだ」






別の子が言う。






「でも斑は取れるんだよ」






私はゆっくり聞く。






「どうして?」






子どもは少し考えてから言った。






「慣れてるから」






それから笑う。






「灯りを捕まえる人だから」






市場のざわめきが戻ってきた。

魚を売る声。

人の笑い声。

だが、私の耳にはほとんど届いていなかった。






私は立ち上がる。

子どもたちはもう別の遊びを始めていた。

地面の石を崩しながら笑っている。






私はその場を離れた。

足は自然と河の方へ向く。

斑。

灯りを捕まえる人。






_____河の件は俺の管轄だ。






管轄とは、そういうこと?






子どもたちは当たり前のように言った。

つまり。

この街では、それが普通のことなのだ。






私は立ち止まる。

遠く。

見えない河の方を見る。

夜になると、河に灯りが出る。

そして。

斑がそれを回収する。






私は静かに思った。

糸の先にある何か。

斑は何を捕まえているのだろう。






そして、灯りは。

いったい何なのか。




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