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第八幕…「宝珠」

小鳥の囀りで僕は目を覚ます。

傍にはまだアング・レカムがいるようで、僕が目を覚ましたことに気づくと、ふっと優しく微笑む姿を見た。


「おはようレナグ」


「あぁ、おはよう。ずっと居たのか?」


僕の問いに、アング・レカムは左右に頭を振る。


「お前が眠ってから、この街を少し見て歩いてからはずっとここにいたぞ」


「ふーん」


「さて、お前も起きたことだし、私はここらで失礼しよう」


ベッドから立ち上がり、くるりと回りながら離れたアング・レカムは最後に、僕の方を見て再び優しく微笑む。

僕はどうしてもその微笑みが不気味に感じて、なぜ笑うのか、尋ねることが出来ずに姿を消すのを見送る。

 一人になった部屋で、僕は時刻を確認する。


「……五時か」


まだ日が昇って間もない時刻。

シオンを起こすのも早い時間。

何をして過ごそうかと考えるまでもなく、昨日は確認できなかった部屋に備え付けられたシャワー室を見に行く。

部屋に入ってすぐ真横に扉があり、そこを開ければ目的の場所だった。

浴槽付きで、僕は赤色のタイルが張られた蛇口と青色のタイルが張られた蛇口の両方を捻り、お湯の温度を指先で確認して調整していく。ある程度お湯を貯めれば、後は入る支度をする。


「タオルは、クローゼットの中か?」


僕はそう呟きながら、部屋の壁に設置されたクローゼットを開ける。

服をかけられるハンガーが五個、部屋着が二着。タオルは見当たらない。

さて、次に探す場所は脱衣所だが、それらしい場所は見当たらなかった。もしかしたら、分かりづらいのかもしれない。


「……あ、ここ開くのか」


壁をペタペタとくまなく触れば、二箇所だけ少しカコッと音が鳴って開く。思わぬ発見に、声を漏らすが、今は風呂に入りたい気分が強く、必要なタオルだけを取って、閉めた。

これでようやく風呂に入ることができた。

温度もちょうどよく、備え付けられた石鹸はいい香りで、気分が安らぐ。

そこでふと思い出したのは、シオンはこの温度調節が苦手かつ、タオルの置いてある場所を探すには意外と骨が折れる。

シオンが突撃してくる前に、先に上がって少し休もうと考えた後の行動は早く、体がポカポカした心地のいい状態で寛ぎ始め、温かさでうたた寝をしていた時のことだった。

ダン! ダン!と強く扉が叩かれて、僕ははっと目を覚ます。

時刻は六時半。あれから少しの間眠っていたようだった。


「この叩き方はシオンか?」


まだ眠る頭で、思い浮かんだ人物の名前を呟きながら、僕は部屋の扉を開けた。

するとすぐに中に入ってきたのは、案の定シオンだった。


「温度調節って、どうしたら良かったっけ?」


「……ふ、その様子だとタオルの置いてある場所もまだ見つかってないか?」


「え、タオルもどっかにあるのか?」


「ふふ、いいよ……僕の方に風呂に入りな。少し調節してくるから、準備して待ってな」


僕はそう声をかけてから、風呂場に移動して今のお湯の温度を確認する。少し冷たい。

少し湯を捨ててから、赤いタイルの蛇口を捻る。

何度か青いタイルも捻って調整を終えれば、シオンに声をかけた。声のかかったシオンは、嬉しそうに笑いながら脱衣所に向かった。


「全く……さて、シオンが上がってくるまでに、これからの事を考えるか」


僕はそう呟きながら、空間収納でしまっていた紙とペンを取り出し、これからの動きを考えていく。

今の手持ち金はそんなに多くは無く、僕とシオンのお金を集めても一週間分のご飯を買うので、精一杯だ。何とかしてお金を稼がなきゃならない。


「一定収入を得られる場所って無いのか?」


「何考えてるんだ?」


ひょいと顔を覗かせてきたシオンに一瞬驚くが、すぐに別のことに視線が向き、ため息を漏らす。


「髪、濡れてるぞ?」


「じゃあ拭いてくれ」


僕の言葉に笑みを見せた後、ドカッと僕の前に座ったシオンの肩にかかったタオルを取ってから乱雑に拭いてやる。


「いたたたたっ」


「拭いてやってるんだ、感謝してくれ」


「もっと優しく拭いてくれよ!」


文句の多い。

シオンの言葉を無視することにして、紙に書きだしたことを見つめながら考える。

一ヵ月の間に、お金を稼ぐ方法を考えて、仲間を集めなければならない。

期間は短く、どこから手を付ければいいのかわからなくなる。

とりあえずは、同時進行していくことにして、後で会うリージアにも相談することにする。


「ほら、出来たぞ」


「おー、やっぱレナグに頼むのが速いな」


嬉しそうに笑いながら言ってくるシオンの言葉を素直に受け入れつつ、未だに覚えようとしない風魔法と火魔法の事をこの際だから聞くことにする。


「覚えればいいだろ? 風と火魔法。そしたら簡単に髪とか乾かせるし、戦いでも有利になることはある。使い方次第で、色々便利だぞ?」


「良いんだよ俺は……お前がいるし」


シオンの言葉に思わず僕は黙るが、すぐに今後の事について話題を変えることにする。

突然の話題転換に、シオンは一瞬困惑するが、すぐに聞く体制に入る。

 

「今後のことで、まずは食事代や武具を買うお金を安定的に稼げる場所を探さなきゃいけない。で、僕らが倒した魔物の残った部分、こういった部分が売れる場所が無いか、リアにも確認するけど探そうかと思ってる」


例えとして、空間収納していた魔物の核をシオンに見せながら説明する。

そのお陰で、シオンもすぐに理解し、昨日通った街を思い出す素振りを見せる。


「確かに昨日通った道には、武器屋はあったけど買い取りとかしてるようには見えなかったな」


「だからリアに聞くのさ……さて、時間になる前に街の探索をするか」


チラッと外を見て時刻を確認するが、まだ集まるにしても早すぎるため、僕はシオンを連れて外に出ることにする。

じっとしていることが苦手なシオンだ、きっと部屋に戻しても一分も持たずにまた僕の部屋に来るだろう。

僕の言葉を聞いたシオンは、嬉しそうに笑いながら「じゃあ、着替えてくるな!」と言って部屋を飛び出して行った。


「それじゃあ僕も準備しようかな」


僕はそう呟きながら、持ってきた服を適当に選んで袖を通し、魔物から採取したものを並べて確認する。

多くあるのは赤い玉だ。一、二個程青い玉があるのを見て首を傾げる。


「玉の色が違う……赤い方が多くあるのは弱い魔物だからか? この考えだと、青い玉は強い魔物ってことになる」


腕を組み玉を見つめていると、扉が強く開かれる音に自然と僕の視線はそちらに向けられると同時に、魔物の玉をしまう。


「着替えてきたぞ! 早速見て回ろう!」


「そうだね……少し気になることもあるから、それも調べながらになるけど」


「気になること?」


僕の言葉にキョトンとした表情で見つめてくるシオンに、僕は「歩きながら話すよ」と返してから部屋を出る。シオンも僕の後に続いて部屋を出てくる。





「まずはどこから見て行く?」


宿を出たシオンが、きょろきょろと周囲を見ている。僕は昨日のリージアと交わした最後の言葉を思い出す。

 __「この道を真っ直ぐに進むと、今日シオンとレナグが通ってきた道の大通りに出ます。教会とかがある道ですね」

彼女が指していたのは、左。そして昨日通って来たのは、目の前の道。となると、まだ行っていないのは右の道になる。


「右の道に行こう、そっちはまだ見てないからね」


「右の道か、オーケー」


左の道は大通りで、店が多くあったが、どうやら右の道は住宅が集まっているようであることがわかった。

家の形は様々だけど、どれもこの街に溶け込むように作られている。

まだ朝は早いというのに、家の中で忙しなく働く女性の姿も何軒かで見た。

 

「こんな朝早くから動くんだな」


隣で呟くシオンに、僕は頷きながら歩みを進める。しばらく歩くと、街の外と内を分けるアーチ門が見えてくる。その付近に二人の衛兵が立っているのがわかる。

僕とシオンが近づくと、二人の衛兵から声を掛けられる。


「そこの二人、この向こうは危険だぞ」


「危険、ですか?」


二人の前まで歩き、僕は首を傾げながら問う。

その問いに、女性の衛兵が答える。


「この先は魔物が生息している森があるの。だから、ここを通るには、許可証が必要になるわ。許可証が無いまま、通ると自己責任になるわ」


「その言い方だと、許可証があった場合は保証されてることになるけど」


女の衛兵の言葉で、今度はシオンが首を傾げる。

僕はシオンが会話に参加してきたことに驚いたが、二人の衛兵は僕が驚いたのは許可証の有無の方だと勘違いし、今度は男の衛兵が口を開いた。


「そうだな。許可証があれば、万が一大怪我をした時は治療してもらえるし、費用も出る。けど、許可証が無ければ、大怪我をしても、治療はして貰えないし、費用も出ない」


「なるほど、それなら許可証がある方がいいですね」


男の衛兵の話を聞き、僕は頷きながらそう返した。

それから少し話した後、僕とシオンは引き返すことにした。

一応この辺りに魔物の落とす玉を売る場所がないか確認したが、無いと答えられていた。

つまり、この街自体に魔物の玉を売れる場所がない可能性が非常に高くなった。


「魔物の玉が売れないとなると収入源が難しいな……」


「そうだな……手持ち金が底をつく前に何とかしないとな」


僕の呟きにシオンは頷きながら同意する。

これからの事をもう一度考え始めた時、遠くの方から誰かが何かを言いながら走ってくる姿が見えてくる。自然と僕とシオンの視線は、声がした方へと向けられた。

走る度に揺れて、長めのベールから覗く柔らかな金髪。僕とシオンの姿を見た宝石のような深い青の瞳が、遠くからでも分かる程に煌めいたように見えた。


 「__っ、探しました! レナグ、シオン」


 「リア」


 「リア、何でここに?」


目の前まで来たリアは、苦しそうに肩で息をし続ける。そんなリージアに僕が尋ねると、少し頬を膨らませたリージアが、最後にもう一度深呼吸をしてから答える。


 「二人に会うため宿に向かったら、既に二人は外に行ったと聞いて探していたんです!」


ぷんぷんと怒る姿が可愛く、僕は思わず口元を隠しながら笑う。

そんな僕の反応に「笑うなんてひどい」と更に膨れる。既にリージアの頬はぱんぱんで、風船のように膨らんでいた。


 「そうだリア、聞きたい事があるんだけど」


 「? なんですか?」


 「この街って魔物の玉を売る場所って無いの?」


 「……魔物の玉、ですか?」


僕の質問を繰り返した後に首を傾げる仕草に、僕は空間収納から魔物の玉を取り出してリージアに見せる。赤と青の両方の玉を見たリージアは左右に顔を振る。


「このような物は初めて見ました……魔物を倒すと、このような物が出るのですね。わたくしは、街の外にまだ出たことがないので、お力になれず申し訳ありません」


しゅんと小さくなるリージアに、僕は慌てて気にしなくていいことを伝えた後、玉について少し話す。


「色についてはついさっき気が付いたんだ。赤は数が多くて、青は少なかった。これは多分、魔物の強さに比例するんだと思うんだけど、そうか……リアでも知らないとなると本当に売る場所が無いのかもな」


「あ……武器屋には行きましたか?」


「いやまだ。まだ早いと思って行ってないし、昨日見た限りでは売れそうもなかったけど」


「では行ってみましょ! もしかしたらあまり広まっていないのかもしれませんし」


微笑みながら提案してくるリージアに僕もシオンも頷き、僕らは武器屋に向けて歩き出す。


「そういえばリアって教会で暮らしてるの?」


僕の問いに一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに頷き答える。


「そうですよ……聞きたいことは、子供たちですか?」


今度はリージアからの問いに、僕が頷く。


「子供たちは元気に暮らしていますよ。今は、神父様のご指導を受けていますし、休憩時間や自由時間には剣術を訓練する子や魔法の練習をする子で分かれてますね……ひょっとして、シオンやレナグの影響ですか?」


「まぁ、そうなるな……ここに来る道中、魔物に襲われたから俺とレナグで倒したのを間近で見てたからな」

 

シオンの話を聞いたリージアが僅かに眉を顰めるのを僕は横目で確認し、何か気になることでもあるのかと聞く前に、リージアが頬に手を添えながら口を開く。


「やはりここ最近、街の周辺に魔物の出現率が高くなっているんですね……また街を守る騎士様が減ってしまいます」


リージアの言葉に僕もシオンも首を傾げた。


「騎士が減るって、どういうこと?」


「……」


僕の問いに、リージアは答えるか否か、立ち止まって少し考えたが、僕とシオンを交互に見た後に再び歩き出すのと同時に口を開く。


「この街を守っているのは、国の騎士様です。街の周辺は衛兵に警備を任せてもいいのですが、遠くに行く場合、もしくは魔物関連は騎士様に仕事が行くんです。なので、今回も騎士様が出ることになるのは間違いないかと……」


「リアはやけに詳しいな」


「全ては神父様から聞いた話ですからね。わたくしはその話を聞いて、これからも街が無事であるか……不安になる時がありますが」


不安そうに瞳を揺らすリージアに僕は少し考えていると、シオンが立ち止まり口を開く。


「あ、着いたみたいだ」


「ん? あ、本当だ」


「いつの間に」


シオンの言葉でリージアは視線を向け、僕は顔を上げた。

リージアの話を聞いている間に、知らないうちに武器屋の前に到着していたみたいだ。


「とりあえず中に入って、玉が売れるか確認しようか」


僕が二人にそう提案すると、シオンもリージアも同時に頷き、僕らは武器屋に入った。

中に入るとチリ〜ンとベルが鳴り、客が入ったことを知らせる。ベルを聞いて、店主が奥の方から出てくる。

昨日と同じ人物の店主に、リージアが店主の圧に畏怖する様子に気づいたシオンは、庇うように前に立ち、僕は店主に声をかけた。


「おはようございます」


「……」


店主は一度僕の方をチラッと見た後、シオンたちの方を見てから口を開く。


「リージア嬢を連れてきて、ここに何しに来た」


「リアのこと知ってるんですか?」


僕の問いに、店主は一度めんどくさそうな表情になる。


「この街じゃあ有名人みたいな人だからな、まだ十代なのに神官様見習いになったってな」


「へー、リアはそんなに有名人なのか」


「わたくしも初めて知りました……」


僕の後ろでコソコソ話す会話に耳を傾けていたが、店主の「次はこっちの質問に答えろ」という言葉で、僕は店主に意識を向ける。


「ここに来た理由は、魔物の玉が売れないか聞きたくて……リアについては、仲間になったから一緒に行動してる感じかな」


「魔物の玉だ?」


僕の言葉に店主はギロッと睨んでくる。

睨まれると圧を更に感じるが、僕は平静を装いながら店主に近づき、空間収納にしまっていた二種類の玉を取り出した。


「本当ですよ……まぁ、玉に色が着いていたのは今日知りましたが」


「……」


ゴドッとカウンターに玉を乗せ、店主に見せつける。店主はじっと玉を見た後、はぁとため息を吐く。


「奥に入りな……それをどうしたいか聞こうじゃねーか」


そう言って店主は先に奥に入っていく。

僕は玉を持って、シオンとリージアの方を振り返れば、二人は嬉しそうにニヤケていた。


「やったなレナグ」


「やりました!」


「まさか、奥で取り引きしてるとは……さて、じゃあさっさと売ってご飯でも食べに行こうか」


僕の言葉にシオンは嬉しそうに頷き、リージアは楽しそうにしている。そんな二人を連れて、店主が入っていった奥へと進む。

奥に入ると、広々としており、部屋の中心には木でできた長机が置かれ、壁には戸棚が沢山付いていた。

僕らが部屋を見渡していると、長机にいくつかの道具を置いたあと店主から声をかけられる。


「ここに魔物の玉、宝珠を置け」


「これ宝珠って呼ばれてるのか」


僕は言われた通り、長机に今まで貯めてきた玉を乗せていく。次々と出てくる玉を見た店主は、口の端を引き攣る。

まさかここまで出てくるとは思ってもいなかったような表情を見せる。出している最中、いくつか転がり落ちそうになったのをシオンとリージアがキャッチしてくれた。


「……多くないか?」


全てを出し終える頃には店主から呟くような言葉が聞こえてきた。


「僕らがいた所は森が近くにあって、よく魔物が襲ってきていたし、このディスペリアに来る途中に魔物の大群が襲ってきたので、普通なんだと思っていました」


「んな馬鹿なことがあってたまるか! 宝珠を持つ魔物はレアなんだよ」


「え、魔物の核じゃないんですか?」


「核と宝珠は別もんだ……ったく」


僕の言葉に腕を組み、呆れ返ったように息を吐き、戸棚から小さなケースを取り出す。

中には、一色だったり、七色だったりと様々で形もまた様々な石が、僅かに当たる光によってキラキラと光る。


「これは?」


僕と一緒に覗き込んだシオンが尋ねる。


「加工はされているが、これが魔物の核だ」


「? どこかで見たことがある気がする」


僕が思ったことを口にすると、リージアが箱の中を覗き込み、少し考えた後口を開く。


「これ、宝石に似ていませんか? 教会の中の装飾に使われていますが、こんな感じに輝いていた気がします」


「宝石……?」


リージアの言葉に首を傾げるシオンに対し、僕はもう一度加工された魔物の核を見て確かにと、思った。店主はリージアの言葉を聞いた後、顎に指を添えていた。

 

「リージア嬢は中々鋭いですね」


店主はリージアを褒めてから、箱の中から適当にいくつか取り出して机の上に乗せ、説明をしてくれる。


「リージア嬢の言う通り、これは宝石になる前の魔物の核だ。宝珠とは別物で、基本装飾やアクセサリーとかに使われている」


「店に並んでいた商品にも使っている物がありましたね」


「そうだな。ああすることで、公式の場で腰にぶら下げるための物だと、貴族の使用人にも分かりやすくなっている。そこで疑問に思うのは宝珠とは何か、何に使う物なのかだが」


店主はもう一度、戸棚からいくつかの瓶を手に取り、机に並べる。

僕もシオンもリージアも、店主が持つ瓶にくぎ付けになっていた。


「宝珠とは、魔物の体内で生成される魔力の塊であり、魔物の強さによって色が異なり、作れる魔術具も変わる」


机に置かれた瓶の中身に何かが入っているのか、細かなきらめきが見える。

僕らがじっと中身を見つめていると、店主は瓶の中身について話し出す。


「この中には、魔術具に必要な液が入ってる。材料は、メインが宝珠。他は星砂と黒白の実の三種類で出来るのがこの液だ」


「……星砂と黒白の実って、水辺と森に行けば普通にありますよね?」


店主の言葉に、僕は視線を上げて尋ねる。

僕の問いに店主は頷き、この液の難所について話し始める。


「二種類はそこら辺で手に入るが、宝珠が手に入りづらく、尚且つ作るのに魔力が必要になる」


「魔力? 宝珠があるのにか?」


「普通に混ぜてはいけないんですか?」


店主の言葉に今度はシオンとリージアが反応する。


「確かに宝珠にも魔力はあるが、それは魔物が溜めたやつだ。昔の賢人もお前と同じことを考えて、実際に人の魔力を入れずに混ぜたことがあった。……結果」


「……っ」


「……」


「……それって確か」


店主が言葉を区切り、リージアとシオンが息を飲む隣で、僕は昔に読んだ本のことを思い出していた。

店主の話を聞いていて、どこかで読んだことがある気がしていたのだ。

全く同じじゃなくとも、似た何か……


「何もできない、ただキラキラした液が生まれただけだ」


「人の魔力が無いだけで……?」


店主の言葉に思わず僕が呟くと、「そうだ」と返しながら力強く頷いた。


「話は戻るが、そんな魔術具に必須な宝珠がこんなにあるんだ、盗みとかはしてないな?」


「してないし、これは僕とシオンが辺境の地・リベリエで狩った魔物とここに来るまでに襲ってきた魔物から取ったヤツだよ」


「この辺に魔物が? それって危険じゃねーのか?」


「リアも同じようなことを言ってたよね?」


「はい。シオンとレナグの話を聞いて、また騎士様が遠征に行ってしまうと考えています。これ以上、騎士様が街から減ってしまうと不安が強くなります」


リージアの言葉に、店主も難しい表情をして頷く。

深刻な表情をする二人になんて言葉をかければいいか悩んでいると、「まぁなんだ」と店主が前置きをしてから口を開く。


「とりあえずは、この宝珠をどうするか話すか……お前ら、この宝珠をどうしたいんだ?」


「え、あ、買い取りを」


僕の言葉に、ぎょっと驚いた表情を見せた店主に、宝珠の価値について理解した今の僕は、一つの赤い宝珠を持って口を開く。


「貴重な宝珠を買い取りといった形で、提供するんだから、今度ここで僕らが何か買う時は安くしてくださいよ」


ニッと笑ってみせる僕に対し、店主の内心はきっと「このクソガキ」と思っているだろう。

けど、ここは譲るつもりはない。


「__わ」


悔しそうに口を開いた店主が答える寸前、怒涛に鳴り響く鐘の音に、誰もが言葉を失い、僕たちはただその鐘が鳴り止むのを待った。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次回の投稿予定日は、8月16日になります。

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