【外】愛しき海の王妃
ちょっとエッチい後日談みたいなの。
今や私エリザベスの夫となった海王クラーケン。
彼は複数の触手を持つ海の王だ。
最近はすっかり見慣れてしまったためかこちらの姿の方が自然に思える。
それに彼の大きな身体は、私をいつも優しく包み込む。
これがなかなか居心地が良い。
彼が地上で見せる人間の姿は『端正な顔立ちの若者』だと思ったものだったが、よくよく見れば彼は正体のままでも十分にハンサムだな。
……と思ってしまうのは私が彼に心底惚れてしまっているからなんだろうか。
「私が再婚なのは知っているだろうが、おまえはどうなんだクラーク。
長く生きているのであれば何度か結婚もしたのではないか?」
私……エリザベスは夫クラークに対し、ふとそんな質問をしてしまった。
自分が再婚であるという負い目があったのか。
それとも私がクラークのことを愛し過ぎて過去の異性関係が気になってしまったからなのか。
『いえ、僕は初婚です。
エリザベス以外の人とは結婚していません』
「そうなのか?
だが過去に関係があったことくらいはあるんだろう?」
うーん、夫の過去の女性遍歴について問いただすなど……。
これでは本当に夫に執着する妻そのものではないか私は。参ったな。
『気になります?』
「それはまあ……。その、率直にいってクラークとの交わりは気持ちが良すぎる。
経験がないとは思えない」
そうなんだ。
クラークの巨大な触手に触れられていると、良い歳だというのにとても理性など残らない。
これでは、私でなくてもクラークに愛されたらみな虜になってしまうのではないだろうか。
『確かに、正直に言えば、経験自体はありますけど……』
そう言って再びクラークの触手が動き出すと私を覆った。
「こ、こら、またか……?」
『もっともっとあなたを感じたいんです』
「まだ、質問に、答えてない…」
それどころではなくなってしまった……。
クラークはどうも興奮すると泡のようなものを出すようで、すでに私の周囲は泡でいっぱいになっていた。
_____________
ああ、エリザベス、僕の愛するヒト……。
彼女には内でも外でも全てで、包んでいる僕を感じて欲しい。
エリザベスの滑らかな肌に触れると、僕は興奮が止まらなくて泡を大量に吐いてしまう。
長く生きていて、今までこんな風になってしまう経験はなかったな。
ちなみにコレは生物でいうところの生殖行為に当たるもののようだけど、僕のように長い寿命を持つ生き物は滅多に子どもを授かることはないみたい。
先ほどはなんとかうやむやに出来たけど、エリザベスに過去の経験を聞かれて正直焦ってしまった。
実を言えば、僕の女性遍歴はあまりエリザベスには知られたくない。
周囲の者達にも口止めをしている。
エリザベスと出会うずっとずっと昔から、側近達からは事あるごとに妃をめとることを求められていた。
僕はといえば特に興味はなかった。
でもまあ周囲の勧めもあることだし?
出会いがあればひょっとしてと……。
そりゃもうね、いろんな相手と交わってみたんだよ。
何せ長い間だったから数も種類も多かったと思う。
数は千はいたんじゃないかな?もっとかも。
多くは僕と同じ海の者だったけど、人間もいた。
その頃は、本当に僕は相手に全く興味がなくて。
「交わればいいんだろ」くらいの感じだったんだ。
そのつもりはなかったけど凌辱したと言われても仕方ない。
気持ち良くさせれば僕のものになるかな、くらいの気持ちで。
僕の触手で刺激を与えれば、大抵の女は快楽を感じているようだったよ。
でもね。やっぱり僕って怖いみたい。
相手はいつも、嫌悪感と恐怖心と快楽の渦に飲み込まれて……壊れちゃうんだよ。心が。
いつもいつも。
何匹も、何人もの相手が壊れてしまった。
壊れちゃったらもちろん妃としては使えない。
面倒くさいからみんな食べてしまった。
もともと僕って好き嫌いないし。
だから誰とも続かなかったんだ。
こんな過去、とてもエリザベスには言えない。
エリザベスに会ったとき、初めて『絶対壊したくない』って思った。
今までは壊すことしか知らなかったから、触ると壊しそうで怖かった。
だから、怯えさせないために普段なら滅多にやらないけれど人間の姿を取った。
自分の正体を隠すなんてプライドが許さなかったハズなのに、そんなのどうでも良くなってしまったから。
そして何も考える間もなく、自然に求婚していた。
エリザベスのことが欲しかったけど、無理やり手に入れたら今までのように壊してしまう。
気高く凛々しく美しいエリザベス。
その美しさを僕の手で壊したくなかったんだ。
それまでの僕なら、相手に夫や子供がいたところで関係なかった。
浚って自分の好きにするのがやり方だった。
だけど、それではエリザベスにとって僕は恐れる敵になってしまう。
僕はエリザベスに愛されたかったんだ。
身体だけじゃなくて心も欲しかった。
彼女を大切なものと切り離したら、心が壊れてしまうかも知れない。
だからあのときは何もせずに手放すしかなかった。
だけど、もしもエリザベスが今の生き方から逃げたいと思うのならいつでも連れ去るつもりで、ずっと様子は伺っていた。
夫が病で亡くなったと知ったとき、僕はすぐにエリザベスに求婚に行ったけど、それはもう『怖がらせないように』気を遣った。
いきなり現れて驚かせないよう、キチンと謁見の申し入れもしたし。
とにかく無理やりなことはしないようにした。
滞在を許され一緒に過ごすうち、僕は以前より一層エリザベスのことが好きでたまらなくなってしまった。
そして、ますます怖くなった。
エリザベスは僕の正体を知っているけれど、本当の姿を見せたら怖がらせてしまうんじゃないかと。
せっかく少しずつ好意を持ってもらったのに、全部台無しになるんじゃないかと。
だから傍にいたのに、触れることすら出来なかった。
知らなかったよ。
誰かを好きになるってとても怖いことなんだね。
エリザベスと晴れて結ばれたとき、エリザベスは最初こそ僕の姿に驚いていたようだったけれど『僕』を見てくれた。
そして僕を受けれてくれた。
そして、壊れないでいてくれた。
嬉しかった。
すごくすごく嬉しい。今も嬉しい。
特定の相手にこんなにも深く受け入れてもらったのは初めてだから僕も知らなかったけど、僕と交わることにより相手は僕と僕の世界に順応していくみたい。
初めの頃は壊れ物のように優しく触れていたんだけど、今はその頃より激しく愛してもエリザベスは悦んでくれるようなった。
ああ、エリザベス、エリザベス……。
大好き。もっともっと触れていたい。
もっと愛したい。もっと交じり合いたい。
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私はクラークに抱かれたまま眠っていたようだ。
彼はまだ眠っているのかその複数の触手は意志なく波に揺らめいている。
クラークとの交わりは気持ち良すぎて、どうも溺れてしまうな。
私が彼の妃となってから毎日こんな自堕落な生活を送っているが……いいのだろうか。
今までは女王として日々執務に追われている毎日であったから、自分への褒美というか休暇と思いこの生活を受け入れてきたが、さすがに少し心配になってきた。
『エリザベス……? 起きてるの?
まだ疲れてるならもうちょっと二人で寝てよう?』
「いや、もう大丈夫だ」
『そう? かなり激しくしてしまったけど』
「……そうだな」
なんだろう。慣れてきたのか。
最近どうも身体が調子が良いというか。回復が早い。
以前はこの身が若返っているのではないかと思ったが、ただ若返っているのとも少々違う。
いや、そんなことは今はいい。
「それよりクラーク、おまえは曲がりなりにも王なのだろう?
毎日こんな風に私との睦事に明け暮れていいのか?」
『え? ……うん、まあ大丈夫。
人間みたいに毎日あくせく働くような生き物じゃないんですよ僕ら』
「そうなのか?」
『そうです。それよりもうちょっとだけ……』
「え!? こら、またか……!?
おまえちょっと好きもの過ぎるんじゃないか?」
エリザベスは後から知ることになったが、『大丈夫』というのは嘘だった。
クラークはエリザベスとイチャイチャしたくて、かなり仕事をサボっていた。
後日側近からその話を聞いたエリザベスは、クラークを叱りつけ仕事をするように促した。
そして少しでも仕事が早く終わるよう、エリザベス自身も執務にかかわるようになっていった。
数十年後……。
元人間の美しき海の王妃は、海の王を補佐し続け
事実上海の全てを取り仕切るようになっていた。
『王妃様がいなければ回らない』と、側近たちは口々に言う。
「おかしいな。私は退位して老後を楽しんでいたはずなのに……」
おわり
ちょっと趣の異なる小説をいくつか書いてみています。
今回は
「よし!女性向けテンプレ『人外に人間の女の子が溺愛される』パターンで行ってみよう!」
「おっさん主人公はよく見るけどおばさんは見ないな。おばさんでいこう!再婚熟女!」
「そういえば触手ネタ書いてみたいな」
「というか触手なのにエロ行けないってなによ!くそ、しまった…!」
という流れで出来ました。いかがでしょうか。
他の作品も宜しければどうぞ。これ以外はほとんど『一見マトモなのに話が進むほどサイコ』な主人公です。
↓とりあえずひとつリンクあります。