古城 作戦確認2
杖を小気味良く、指先で弄ぶ。
クルクルクルクル。ピョイ。ぼふん
ルインは猫になった。
「…………にゃあ?」
不動!動じない、少しの動揺も見せない。
ルインは無口だ。しかし一度スキルを使えば怪力を誇る巨大な拳を操り、或いは巨大な剣を操り、パワフルな戦闘スタイルを取る。滅多な事では怒らないし、それ以外の感情も表に出さない。
だが決して不潔だったり根暗だったりはせず、いつも小綺麗で、クール系のスマート女子である。
アゴを撫でてみる。大人しくなった。前言撤回、元から大人しい。かなりな。
しかしスレンダーで小柄な黒猫になったもんだ。どっかの中身おっさんなデブネコと違って、何だか艶やかですらある。
「……ダグさんよぉ?何か言いたそうですね?お聞き致しましょうか?え?」
「おっさんとは違うなと」
「ほほう」ゴキリパキリ
「握り拳は止めたまえ」
毛繕いを始めた。おませな猫だな。ルインの、油断すると昼寝を始めそうなマイペースぶりも健在と。しかし実際に眠りはしない。何せ、彼女も今は魔王城攻略のメンバーなのだ。気合いの入った鋭利な視線がダグを捕らえる。
「ルインお前……めっちゃ綺麗だな」
「…………にゃあ」
ツンとそっぽを向いてしまった。せっかく真面目モードだったのに、申し訳ない事をした気になる。
「ごほん。ルインよ、最初の魔将にはお前のスキルが有効だ。〈上手くすれば〉一撃で決まる……かもしれんぞ」
「……旦那ァ、上手くすればっていうと?」
「説明する。下手をしたら全滅必至だ。よく聞いておけ」
6魔将。最初に戦うのは〈ギガントナイト伯爵〉とかいう剣士型のモンスターだ。強力な対魔性能を誇るプレートメイルで全身を固めてあり、ローズの攻撃はほぼ無効化される。魔法で氷柱や岩石をばら蒔いて足場を悪くする戦術もあるが、それは味方の動きも阻害してしまう。
中身はアンデッド。確認済みだ。だが、対魔力により光魔法はあまり効かない。せめて光魔法の照明効果で目潰しだけでもしようにも、目など元より腐り落ちているのだ。ローズは、回復アイテム等をメインに後方でサポートをして貰う事になるだろう。
サミダレの剣は有効だが、力も技術も互角の為、決定打に欠く。スピードならサミダレが上だが、飛ばし過ぎるとスタミナで負ける。そんな相手だ。ならばどうするか。開幕から決着まで、正面から斬り結んでいて貰う事になるだろう。そうして、奴の動きを止める役割を受け持つ。
ダグのゴーレムも波状攻撃をしかけつつ、他のメンバーが危ない場面には庇いに入る。こうして奴が手一杯になる所に、ルインの遊撃で確実に削ってゆく。これが最も安定するサイクルなのだ。
だが凡ミスで一人脱落すれば、押し負ける。全滅だ。実際、それで何度か全滅している。猫ルインには今回、隠れて貰う。そして遊撃の初手を奇襲にする。これが、「上手くすれば一撃」の作戦だ。
ダグはアイテムを取り出した。
【カゲロウ草のお香lv.V】
魔力関知を阻害するお香だ。動物型の使い魔に香りをつけておくと、それが魔力を持つ存在には見えにくくなる。アイテムレベルが高いと、上等な魔法使いからも気付かれなくなる。
ふわりふわり。お香の香りがルインを隠す。ちゃんと目の前にいるはずなのに、ルインという存在が何処にもいなくなってしまったかの様だ。不安になったダグは、首元のスカーフを目の前の黒猫に付けた。母の手作り、兄の形見。世界にたった一つの大事な大事なスカーフだ。しかし、ただの汚い布切れだ。魔力などない。これでダグにだけは見分けが付く。
ルインはこのスカーフの大切さを知っていた為、驚き、少しだけ目を見開く。目を閉じ、愛おしそうにスカーフの匂いを嗅ぐと、やがて鳴いた。
「…………にゃあ」
気の抜けるような声色だが、ダグには分かる。
気合いは十分のようだ。
さあ、いざ。
ギガントナイト伯爵が立ち塞ぐ〈玉鋼の間〉へ。
この魔将との戦いは、避けられそうにない……!
「サミダレも構って欲しいです。しょんぼり」
「旦那はたまに、ルインの姐さんと桃色空間を展開しやすからね。なんだか魔術師のスキルみたいだぜ」
「ローズ?サミダレ?置いて行くぞ」
「にゃあお」




