表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

そして、朝が来る

 教会の鐘の音が街中に鳴り響いた。

 エスパニャ風の衣装も化粧も戸惑う部分はあったが、マリンチェは嫌いではなかった。紅を引き、まぶたを開ける。そっと、自らの腹部に手を置いた。この衣装ではあまり目立たないが、手のひらに感じるのは確かな丸みとぬくもりだった。

 長い戦いの末、この教会はテノチティトランに建設された。そして今日、この教会は初めて人々に開かれ、マリンチェはそこで式をあげることになった。

 新しいエスパニャの、初めての結婚式だ。

「マリンチェ」

 控え室にアギラールが来た。彼はマリンチェを見るとふわりと微笑んだ。

「よく似合う。結局その色にしたのか」

「ええ。色々迷ったけれど、空の色がいいと思ったの」

 マリンチェの衣装はそれほど華美ではないが、抜けるような青空の色が眩しかった。すっと、アギラールの手が耳元に触れた。

「……大事だな」

「ええ」

 片方だけの耳飾りもまた、空の色をしている。それは大切な友からの贈物だ。

「苦しくはないか?」

「おなか? 大丈夫よ」

 アギラールがそっと腹部に触れた。まるでそれを喜ぶかのように、もう一つの生命が動く。

 それは紛れもなく、新しい命だ。

「行くか、マリンチェ。オルメード神父がお待ちだ」

「ええ、そうね」

 マリンチェはゆっくりと立ち上がった。アギラールの手を取る。

 メヒコとエスパニャの間に新しい生命が間もなく生まれる。そうしたとき、また世界は混じりあっていくのだろう。それがいいことなのかそうでないのかまでは、マリンチェには判らなかった。今でも、メヒコの民から裏切り者と声がかかることもある。だが、マリンチェはこの道を選んだ。それを悔やんではいない。

「行きましょう、アギラール。共に」

「ああ――行こう」



 その日、誰の涙もなく明けた空はどこまでも青く、生まれたばかりの花嫁を鮮やかに彩った。



――Fin.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ