三題噺「駅 銀河 果物」
三題噺「駅 銀河 果物」
「林檎をひとつください」
彼女はそう言った。白磁のように白い頬に差した朱、華奢な指で手にした林檎よりもなお赤い唇が、微笑みの形に歪んでいる。
「どうぞ」
林檎を彼女に手渡す。濃い藍に染まった空を背に、彼女は笑みを深めた。
「ありがとう」
彼女が手にした花束が揺れた。やっとこちらでも栽培できるようになったばかりの、僕らの故郷にしか咲かない花だ。懐かしいなと、僕は目を細めた。
「お墓参りですか」
「そうなんです。明日は地球の命日ですから」
科学技術が進歩するのに伴い、地球の有用な資源は枯渇し、なくなった。地球ではもう人間は生きていけないと判断した政府は一年前の明日、地球を捨て人類すべてをこの星に移住させたのだ。
現在、地球にあった家はすべて壊されており、地球は死者の遺体を埋めるためだけにある、広大な墓場と化している。
「そっか、もう一年になるんですね」
「はい」
儚げな笑みを浮かべて、彼女は小さく頷いた。地球から帰ってきた銀河列車がホームについたことを知らせる音楽が流れる。うつむき気味だった彼女が顔をあげた。
「もう行かなきゃ」
僕に背を向ける彼女。これから彼女は一日掛けて列車に乗って、銀河の果てに隔離された墓場に向かうのだ。
捨てられた地球の最後を思って、僕は目を閉じた。




