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『善』の鎖が切れる音―憎しみの焔

 男たちの体に火がつく。悲鳴と共に逃げ惑う彼ら。それがどうした! 私はもっと怖かった。私はもっと痛かった、もっと苦しかった!

「燃えろ、燃えろ!」

 私は感情のままに叫ぶ。いつの間にか私の隣には、真っ赤な髪の毛をした男の人が立っていた。

「そうだ、燃やせ、燃やしちまえこんな奴ら!」

「くっ!」

 全ての黒幕――結城をにらむと、彼は怯えたように後ずさった。

「な、なんだよ、その眼、その眼は! ば、バケモノ!」

「ならそのバケモノを犯したお前たちはなんだ! そのバケモノを好き勝手に嬲ったお前たちはなんだ! 人間か! バケモノか! それよりも業の深い何かか!」

 私は左手を一閃させる。それだけで壁に火が付き、家具が燃え盛り、天井が灰になる。

 闇が私の心を体現する。炎が私の心を爆発させる。もう止まれない。もう止まらない。坂道を転がり落ちるように、一度堰を切った感情はとどまることを知らない。すべて吐き出すまで、この暴力は、止まらない。

 だがそれは悪いことか? 私は今まで何をやっていたんだ? 彼らが幼い子への暴力をためらったか? 私への暴力を躊躇したか? 


 違う!


 なぜ私だけが我慢しないといけない。なんで私だけが心を痛めないといけない。

 悪になるんだ。闇に落ちよう。

 殺してやる。復讐してやる。私の心を汚したこいつらを、ラインの腕を奪った結城を、小さな子を搾取したこいつらを、赦しはしない。


「皆殺しにしてやる!」


 私が叫んで、逃げ惑う男の一人を灰にする。武器を取ろうとした男の腕を燃やす。

「ぎゃああああああああああああああああああああ!?」

 叫び声が耳に痛い。肺を焼いて、叫べなくする。

 カタカタと怯えて震える男の両手両足を焼く。叫び声と共に、彼は床に倒れた。私はゆっくりと彼に近づく。

「どうだ。どんな気分だ。怖い? 苦しい? でもお前らに殺された子たちはもっと苦しかった! もっと怖かった! 今までお前たちが薄汚れた欲望の、報いだ!」

 どうせ、この人は何もできない。放っておこう。私は次の男に向かう。右目が熱い。もっと、もっと。まだまだ足りない。

「ひ、ひい! わ、悪かった、や、やめて、やめてくれ!」

「さっき私がやめてって言った時、やめてくれた? 助けてくれた? 許してくれた!? お前だけ私を好き勝手したのに、なんで私はお前を好き勝手しちゃいけないの!」

 燃やそうとしたところを、誰かに後ろから切りかかられて邪魔される。私は後ろからの斬撃を交わすと、その攻撃を放った人物……さっきまで私をマワしていた男たちをにらむ。いち、にい、さん、よん、ごう、ろく、なな……七人。まだこんなに残ってる。辟易とも歓喜とも似つかないよくわからない感情を抱いた。

「お、お前、道具の癖に、ご主人様に逆らうんじゃあない! この女を殺すぞ!」

 そう言って、ラインの首筋に剣を向ける男が一人。

「み、ミオ様、私に構わず!」

「本当に構わないよ。いいの?」

 私が聞くと、ラインは目を見開いた。そして、そのあと、しばらく考えた後、うなずいた。

「ミオ様、思う存分暴れてください。私になんてかまわずに!」

 私は右目に力を込める。剣を握る男の手をじっと、じいっと見つめる。

 どろりと、男の手が溶けた。

「ぎゃああああああああ! お、おれの、俺の手がああああああああああああああああ!」

 どさり、ぼとり。

「まだ、一本。もっともっと、『穴が空くほど』見つめてやる。覚悟しろ、このロリコンどもめ。私にした分だけ、そっくりそのまま返してやる」

「ひ、ひいいいいいいいいいいい!」

 男たちはいっせいに扉に向かう。私は金属部分の熱を溶解ギリギリまで上げて溶接し、扉を閉鎖する。

「あ、あかない、あかない、あかない! なぜだユウキ! 開けてくれ!」

「わ、私にも何が起こっているのか……」

 私が一歩近づく。大の男が七人、無様に怯えて後ずさる。

「怖い? それが、愛しの護衛が感じた恐怖だよ。私の大切な部下が感じた絶望だよ。わかった? 自分が他人にどれだけのことをしてきたか!」

 私は左手に炎を集める。なぜか自然に、そう言った不思議なことができるようになっていた。不気味で素敵。

「せ、正義の使者にでもなったつもりか。こんなことしても誰も助からないぞ。下のガキたちは行く当てもないんだ、ここがつぶれたらいったい誰が」

「この国の王が保護する。保護させる。それに、私は正義の使者じゃない」

 ゆっくりと、男たちを熱であぶっていく。蒸し焼きにするかのように少しずつ固まっていく体は、とても恐怖を煽るだろう。怖くて辛くて苦しくて。でもちっとも罪悪感は抱かない。


「私は今、闇に堕ちるんだよ」


 ゆっくりと男たちに近づく。

「怖い? 人間のタンパク質って四十度ぐらいで固まるんだよ。なんで固まるかって? そんなの知らない。お肉だって焼いたら固くなるでしょ? それと一緒。人間なんて肉の塊なんだよ。そんなのお前たちが一番よくわかってるよね。たくさんの子供達で遊んで、壊して、殺して。きっとここにいる何人かは実際に食べたこともあるんだろうね。最低だよね。お前たちもそうなるんだよ。お前たちがやってきたのとおんなじように殺されるんだよ。

 ――ああ、そうだ、聞いておかなくちゃ。私ね、理不尽にお前らみたいなロリコンに殺されること結構あって、その時めちゃくちゃ怖くて痛くて苦しくてとっても絶望したんだけど……さんざんに悪事をやって、その被害者に復讐されるのってどんな気分? 私、今世はそんな死に方目指してるからさ、参考までに聞いておきたいの。


 ほら、自分の感じてることを実況してよ。さっきまでやってたでしょ? 気持ちいいぞ、あそこがこすれてどうのこうの、って。そんな感じで、ほら、早く。今どんな感じ? 体の動きは鈍くなってきた? 熱くて暑くて仕方ない? 知ってた、今そんなに熱くしてないんだよ。お前らの温度が四十五度くらいになるようにしてるの。本当は強火で一気にやりたいんだけど、そんなことしたらあっという間、でしょ?」

 にっこりと笑うと、男たちはぶるりと身体を震わせた。

「だからね、ゆっくりじっくり、生きたカエルをゆでるように、お前らが気づかないくらいの速度で、熱してるの。ほら、実況は? 仲間一人燃やされないとわからない? 早くいいなよ。さっきまで聞いてもないのにしゃべってたじゃん。私の胎内がどんだけイイとかどうでもいいこと延々と。ほら、後学のためにも重要なんだから、早く答えてよ。


 自業自得で復讐されるのって、どんな気分?」


 私が聞いても、男たちは叫んだりするだけで、何も話そうとしなかった。

 ため息を吐くと、私は切り落とされたラインの槍の穂先を拾う。

「刺されるのって、どんなに痛いか、わかる?」

 適当に見繕って、入れ墨を入れている男の腕に思い切り槍を突き立てる。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ……」

 槍を引き抜くと、血液が流れるそばから沸騰して蒸発した。じゅうじゅうと音を立てて、男は真っ黒に焼け焦げた。

「一人。あと、六人。さ、話そう? まずは、あなたたちの経営から」

 なんとなくで、拷問に変えてみる。

「け、経営?」

「そ。あの数の子供達、どこで調達してきたの? この町の子、ってわけじゃないよね?」

「か、街道を歩く家族連れとかを護衛のふりして近づいて、攫うんだよ。王都で子供を攫ってくることもある。貧民街なら金で買えるしな」

「……昨日も仕事に出た?」

 私が聞くと、皆が頷いた。

「王都とこの町の間の街道?」

 同じように、うなずいた。

 冷えかけていた感情が、また沸点を通り越した。

「お前らが、お前らがエヴァを、穢そうとした奴らか。お前らの、せいで! お前らがいたから! 楽しいはずの旅行が全部台無しだ!」

 怒りにまかせて炎を振るい、一人、消失させる。骨の髄まで蒸発させてやった。

「友達増やしにルンルン気分でやってきたら、これだ! お前らみたいのはいっつも私の邪魔をする! これじゃ友達増えても、ダウナーで、むしろマイナスだ! お前らが存在したからこうなったんだ! お前らみんな、殺してやる!」

 一人、また一人と叫び声さえあげさせずに燃やす。あと、三人。

「はあ、はあ、はあ……。お前らは、どうして子どもに手を出すの? なんで無理矢理じゃないとだめなの? 普通にラブラブいちゃいちゃするんじゃだめなの? 相手がいないなら娼館行きなよ。こんなアンダーグラウンドなんじゃなくてまともな、大人のお姉さんがいるところね。なんで?」

 男の一人に指を突きつける。

「答えろ」

「え、えっと、お、おれは、おれは」

 じっと、見つめる。私の目を見た男は、狂ったように大笑いした後、大声で言った。

「あ、あははははははは! 俺がガキをやってたのはなぁ! 大人じゃ味わえない味がひゅ」

 視線に込めた力はあっという間に、男を溶かした。

「お前ら二人は、重要参考人だ。生きたまま地獄に突き落として情報絞り出してやる。たとえ何も知らなくても、国家レベルの拷問を味わせてあげる」

 私は二人の頭を思い切りなぐりつける。これでも半分はロードドラゴンなのだ。力がでさえするのなら、人間になんて負けない。さっきは完全に取り押さえられていたからだ。

 私は振り向いて、結城をにらむ。

「わかる、結城。お前は参考人ですらないの。なぜかわかるかしら」

「わ、私が領主だからか?」

「お前がもうすぐ死ぬからよ。死人からは、何も聞けないでしょう?」

 バキン、と私の周囲一帯が凍りついた。魔法でも使ったのだろうか? 私の後ろにいた二人は、氷の柱に閉じ込められたようだ。口封じ、これが狙いか。

「な、なぜだ。なぜ氷が効かない! ほ、炎には氷だろう!? なぜだ、なぜ!」

 違ったようだ。まるでゲームの連想ゲームのような選択に、思わず笑いがこみあげてしまう。

「なぜって。氷は私のお友達なの。さあ、燃えなさい。炎を死ぬまで踊りなさい!」

 ボウ、と結城の四肢の端から火が生まれ。

「ひっ! ま、待ってくれ私が悪かった謝罪する! もう金輪際悪事には手を出さない! あの児童には保障も行う! だから、だからたす、助け、助け、助けて!」

 私は鼻でその命乞いを嗤う。

「『もういや、やめて、許して、何でもするから助けて』。あなたたち、この言葉を山ほど聞いてきたでしょ? 死に際私も言った覚えあるからわかるわ。でも、やめなかった。何の罪もない子たちの命乞いが聞き入れられないのに、なんで薄汚れたお前の命乞いを聞かなきゃいけないの? よくわからないわ、お前の言葉は」

「待て、もう二度と、二度としませんから」

「二度してるじゃない。前の世界で何かがあってまあそういうことしてたんならま、百歩譲るとしても、この世界でお前は綺麗な仕事だってできたはずよ。それをしなかったのは、お前の魂が邪悪だからよ」

 だんだんと、火が胴体へと回ってくる。

「ゆ、許し、ゆる、ゆるし、許してえええええええええええええ!ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 私は結城が息絶えるまでずっと、悲鳴を聞き続けていた。


 復讐が、終わった。

 胸に穴が空いた、そんな気分になった。

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