不老不死の少女
雨が降る。
石畳を打つ雨音だけが、静かな路地に響いていた。
「あなたが悪石平さん?」
声をかけてきたのは、十五、六歳ほどに見える少女だった。
金色の髪は雨空の下でも淡く輝き、その姿はまるで女神を思わせる。
「……」
平は一瞥しただけで、そのまま歩き出す。
「え、無視!?」
「ひどいよ!」
「……俺と関わるな」
低い声には、相手を遠ざけるような威圧があった。
それでも少女は怯まない。
「だってあなた……いや、平くんは『忘却の英雄』でしょ?」
平の足が止まる。
「……俺は英雄じゃない」
その一言だけを吐き捨てるように言う。
どこか、触れられたくない傷を隠すような声だった。
「あっ、忘れてた!」
少女は勢いよく両手を合わせる。
「自己紹介してなかったね!」
「私の名前は諏訪之瀬宝!」
満面の笑みで胸を張る。
「常世神。不老不死の神だよ!」
平は数秒黙った。
そして小さくため息をつく。
「……病院行け」
「平くん、ひどっ!」
宝は頬を膨らませる。
「私は正常だよ」
「……」
平は無言のまま見つめる。
「あ、その目。疑ってるでしょ?」
図星だった。
(そりゃ疑うだろ)
自分から「不老不死の神です」と名乗る人間を信じるほど、お人好しではない。
「本当に不老不死なのに……」
平は小さくため息をつく。
「……お前、エルフみたいな長寿種じゃないのか」
「違うよ」
宝は首を横に振る。
「私は本当に不老不死なんだ」
平が初めてまともに返事をしたことが嬉しいのか、宝の表情が少し明るくなる。
そして、その笑顔のまま。
「平くん……いや、英雄さん」
その呼び方だけは、どこか真剣だった。
「あなたが、私を常世神――不老不死にしたんだよ」
雨音だけが響く。
平の表情が、わずかに固まる。
「……は?」




