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11.朝食

 宮殿内を続けて見て回っていると、そろそろ朝食の時間であることをオフィーリアから告げられた。

 通路に掛けられている柱時計を見ると午前の9時を指している。

 確かに朝食の時間帯だった。


 今日のアーシャの今までの行動を時系列順に説明すると、6時起床、6時~7時入浴、7~9時宮殿内の散策である。

 一見するとかなり自由な行動ではあるものの、しかし、習い事や来客の相手等がない限り、基本はやることも少ないのが貴族の息女の常である。だから、特別に問題がある過ごし方というわけでも無かった。


 余談にはなるけれど、息女の中には、自ら商いを行ったり政務に励む者もいる。ただ、そういった者は少数派であり、そしてそれらのほとんどが本人の意思と言うよりも仕方ない状況ゆえにだった。


 例えば、アーシャの実家であったスタッカード公爵家。次期当主は長女である。しかしこれは、姉妹ばかりが産まれたからというのと、公爵家という家柄ゆえに決まった事であった。


 本来は、男児が産まれない貴族は、娘がいるのであれば婿を取りその方に継がせるものである。

 でも、その方法が取れない家柄もある。

 公爵家がまさにそれであった。

 血筋の格式が高いゆえに、血が繋がらない婿には家督を譲り辛く、かといって、公爵の兄弟に譲るのも親戚全体を巻き込むお家騒動の発端になりかねずに出来ない。


 長女が男児を産むのを待つ方法もあるけれど、それは確実な方法ではなく、ともあれ現状での第一継承権は長女にあり、それを前提にまずは全ての指針を組むのである。


 これは一例でしかないけれど、とかく、女性であっても表舞台に出て行かねばならぬ事態というのは往々にして起きうるのである。


 まぁとはいえ……これらはアーシャには縁のない話である。商売をしようと思ったこともないし、半ば強制に近い形で政務に関わらせられる立場であったことも無いからだ。





 食堂へ向かうと、既に準備が終わっていたところだった。ただ、アーシャ以外の姿が見られなかった。


 ロメオの家族と同席ではないことに違和感はない。太子の身分である場合を除き、一堂に会する周期を決めていたりしない限り、配偶者が出来た場合にはそちらと個別に食事を取るのが通常であるからだ。


 国が変われば風習などが変わる可能性はあるにはある。しかし、案内された食堂がそこまで広く無かったことから、皇子に配偶者が出来た場合を想定した場所であることが見て取れた。そこまで違いがあるわけでは無いようだ。


 ただ、自分という配偶者が出来た皇子――つまりロメオの姿が見えなかった。来る気配も無い。


「お座り下さいませ」


 椅子を引かれたので座る。ロメオはいつ来るのだろうかとアーシャが思っていると、一人の使用人が銀トレイを手にやってきた。トレイに載っていたのは手紙とペーパーナイフである。差出人の名を見ると、ロメオからであった。


「なにかしら……」


 封を切って中身を確認すると、そこに書かれていたのは――



『親愛なる妻アーシャへ。


 突然だが、俺には少し仕事が残っていて行かなければならない場所がある。ゆえに、しばし遠出をするが許してくれ。

 日数は掛かるが、しかし、なるべく早く帰る予定だ。

 俺は君との時間を大事にしたいと思っている。だから、少しでも仕事を早く終わらせられるように、もう夜のうちに出ることにした。

 朝の挨拶が出来ずにすまないが、少しだけ待っていてくれ。

 それと、君の専属の侍女に、色々と結婚式に関わる君の支度の準備も頼んでいる。俺が戻るまでの間に済ませておいてくれ。


 ロメオ』



 ――文章を追っていく中で、アーシャの目が点になった。まさか再会した次の日にいなくなるとは思わなかったのだ。


 まぁ、仕事であるから仕方が無いことなのだろうけれど……。


 アーシャがなんとも言えずに口を歪ませると、後ろで直立待機をしていたオフィーリアが一呼吸を置いて口を開いた。


「……ロメオさまは、決してアーシャさまを蔑ろにしているわけではありません。ただ、第三皇子という立場上ゆえに忙しくされることも多いのです」


「第三皇子だから忙しく……?」


「……皇太子さまや第二皇子殿下といった皇位継承権が上位である方には任せられない、いわゆる危険な役目というものが数多くあります。……ロメオさまも第三皇子ですので、決して立場が低いわけではありませんが、下の皇子殿下がまだ幼すぎるということもあり、どうしてもそうした役目が集中してしまうのです。外国との交渉に出向かれたり、争いが起きれば士気を上げる為と陣頭指揮を執られたり……」


 皇帝陛下と皇后の間の12人の子息の内訳は、男児が5名に女児が7名だと付け加えられた。

 ロメオの下に第四皇子と第五皇子がいるものの、年齢が13と9であるそうで、危険を伴う役目は与えるには若すぎてしまうようだ。


 しかし、理由は分かったけれど、危険な仕事と聞けば心配になる。アーシャは出された朝食を俯き加減で口に運んだ。すると、オフィーリアが薄く笑んだ。


「……ご心配には及びません。ロメオさまはきっと何事もなく帰って来られます」

「そう、なの……?」

「はい。……先の戦争にても、ロメオさまは相手方の騎士団長と一騎打ちにて無傷で勝利を取られました。それ以前からも、負けたという話は一つもありません。つまり強いのです。少なくとも、不意打ちの類で怪我をされたりといった心配はありません。それに、お一人ではなく、供もつけておられるでしょうから」


 ――先の戦争――騎士団長。


 思わず、アーシャは「あっ」と小さく声を漏らした。

 そういえば、ゴードンが重症を負ったという話を終戦後に聞いたのを思い出したのだ。

 どうにもそれはロメオがやったことらしい。

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