表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風が吹いたら  作者: 和林
1/42

第一話

 風が吹いたら、彼女が現れた。


 ふわりと髪が風になびく。


 浜代(ハマヨ)架維(カイ)は、その姿を見つめていた。


 とても、綺麗だった。




 宇美床(ウミユカ)舞耶(マヤ)は、受験生だった。


 中学三年生。いわゆる思春期だ。


 マヤには、多くの友達がいた。


 でも、それは上辺だけのもの。


 友達、というより、知り合い、というものだった。


「マヤちゃん、おはよう」


「おはよう」


 黒く長い髪に、澄んだ瞳。


 マヤは、男女共に人気だった。


 背は高く、肌は白い。


 初夏の強い日差しに、その容姿はよく似合っていた。


「やっぱり綺麗だねぇ」


「急にどうした……」


「いや、なんとなく思って」


 いつものようにマヤの隣を歩いているのは、小さい頃からの幼馴染の、幹田(ミキタ)菜々華(ナナカ)だ。


 ナナカは、完璧な容姿のマヤを、とても羨ましがっていた。


 昔から関わっているだけあって、マヤのことをよく知っている。


「ナーちゃんはさ、好きな人いないの?」


「え、マヤこそ急にどしたの」


「いや、なんとなく」


「同じこと言ってるし」


 二人は明るく笑い合った。




 受験生という壁は、思ったよりも高いものだった。


 三年生になった途端、急に勉強が難しくなり、課題も増え、そのせいか、塾に行き始める生徒は多くいた。


 それでもマヤは、塾に行こうとしなかった。


「マヤ、塾、本当に行かなくていいの?」


 少し問い詰めるように、ナナカが言う。


「……うん」


「なんで?」


「ナーちゃんには、分からないかもしれない」


「……教えて」


 ナナカは、今度は優しい口調で言った。


「私は精神が弱い。誰よりも弱い。だから、みんなについていけない。小学校のときも、みんなに追いつけなくなって、自分の殻に閉じこもって、不登校になった」


「それは、マヤの責任じゃない」


「……いや、私の責任。お母さんもそう言ってた。不登校は、良くないことよ。って」


 ナナカは急に立ち上がり、マヤの肩を掴んだ。


「何言ってるの! マヤは考えすぎ。人の意見を鵜呑みにしすぎ! マヤは、マヤの考えを大切にすればいい。行きたくなければ、行かなくていい。そうしないと人間は、追い詰められるんだよ」


「……だから、学生の自殺が増えてるのか」


 マヤはポツリと嘆く。


「マヤ……」


「ナーちゃん、私は……私は、強くない。そして、誰にも頼れない。そういう積極性がない。だから一人で考え込む」


「それが、マヤの唯一の弱点だ」


「……私の弱点か」


 マヤは、不登校気味の生活を送っていた。


 小学校のときに理不尽な理由でいじめられ、それは酷くマヤの心を傷つけた。


 そしてマヤは、殻に閉じこもったのだ。


 それを救ってくれたのは、ナナカだった。


「私は、マヤの味方だから」


 その言葉が、マヤのお守りだった。





 カイは、塾の課題に追い込まれていた。


「終わらん……解いても解いても終わらん!!」


 頭が爆発しそうになり、課題のプリントを空中に投げる。


 プリントは、付けていた扇風機の風に揺られながら、床に着地した。


「扇風機付けてても、暑いな……」


 静かな一人部屋に、扇風機の機械音が響く。


 カイは、関西で生まれた。


 そして、小学校時代を、関西で過ごした。


 こっちへ越してきてからは、標準語を喋るようにしているが、家にいるときや、独り言を言っているときなどは、無意識に関西弁になっている。


 母親はカイが通っている学校の隣にある事務所で、秘書をしていた。


 父親は、大手電機メーカーで働いており、今は海外赴任のため、イギリスに行っている。


 カイには姉がいる。柚衣(ユイ)という大学生の姉だ。


 少し歳が離れているためか、あまり話すことはなかった。


 まず、姉は流行に疎いため、話が合わないのだ。


 名門大学に行っているだけあって、頭はいいのだが、勉強に没頭しすぎるが為に、テレビやネットを全く見ないのだった。


「カイ~、ご飯出来たって」


「今行きます」


 カイにとってユイは、自慢の姉だった。





「……というわけよ、ナーちゃん」


「なーるほどねぇ」


 マヤはナナカに電話をしていた。


 急に相談したいことがある、と言われ、ナナカは戸惑ったが、後に共感した。


 その内容は、志望校が決まらない、という話だった。


「どうすればいいのさ!」


「でもまだ、夏休みも始まってないし。焦らなくていいんじゃないの?」


 ナナカはそう言うが、マヤには最も不安なことがあった。


「だってさ、みんな、大体の人は、塾で志望校を決めるでしょ? でも私は塾に行ってない。つまりは、詰みって事よ」


「いやいやいや、塾に行ってる人がみんなスムーズに志望校決めてるわけじゃないから。逆に、欠点もあるし」


「……その欠点とやら、聞いてやろう」


「はぁ……塾では、模試を受けるにあたって、第一志望、第二志望、第三志望……までは模試によるが、志望校を決めなくてはならない。先生に、決められないと言うと、適当にその辺の偏差値のとこを設定される。だから、自由ではない」


「う……ん?」


 マヤは若干納得し、自分は有利な立場なのかもしれないと思う。


「だから、マヤ。焦る必要はない。みんなまだ、全然志望校なんか決まってない。大体、先生がちゃっちゃと設定しちゃう」


「それ、だめじゃん」


 マヤがふふっと笑う。


 それにつられて、ナナカも笑った。




 朝起きて、身支度をする。


 カイは、朝が苦手だった。


 家族に叩き起されるし、まだ眠いのにアラームは容赦なく鳴るし。


 カイは、自由を求めていた。


「はい、お弁当」


 母親は先に家を出てしまう為、ユイがお弁当を作っている。


 カイは、手伝いたいと思うものの、自分の料理の実力にゾッとする。


 それほど、カイは料理が下手だった。


 時間が迫り、家を飛び出す。


 学校までは、自転車通学だ。


「やべっ、間に合わないやん……」


 急いでペダルを漕ぐカイの前に、自分と同じ制服を着た、女子生徒が現れた。


 それは、この前見た、あの彼女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ