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5.「あくむふたたび」

 芽衣が「歪み」を感知し、撃退に出ていた頃。王子も芽衣から距離をとって着いて来ていた。

 大体400メートル位離れているだろうか。芽衣から遥か後方に陣取り、その猫位しかない背丈の小さな体で幾つものビル郡を越えて、彼女よりも優れた魔法感知能力で芽衣の位置を感知し続ける。念の為の保険だ。

 思えば魔法少女になったばかりの頃から王子と芽衣は戦闘中ずっと離れた距離を保っていた。王子としてはいざと言う時に王子が助ける行動にでれないので反対していたが、これは芽衣が言い出した事で彼女曰く「戦力が固まっていると纏めて攻撃される可能性がある」との事。

 この言葉に王子は一理あるとしぶしぶ頷いていた。

 しかし、現在その取り決めが裏目に出てしまったのかもしれない。


 敵を発見し、サーチ&デストロイの考えの下に芽衣が一撃で「歪み」を霧散させてしまおうと某ビルの屋上にポジションをとったので、王子もいざと言う時に自身が反応出来る限界の位置で待機する。初代魔法少女の時は何も出来ない木偶の坊だった王子も今では地球でもそれ相応の魔法を使う事が出来るのだ。芽衣のピンチが来た時に王子が敵を牽制しつつ、かの魔王の前ですら敵前逃亡位ならわけない。

 じっとお行儀良く座りながら油断無く、芽衣を見守っていると遂に芽衣の唯一にして一撃必殺の特攻が成功したのを確認する。王子は安堵し、現在の戦闘スタイルに間違いが無かったと確信を得た。

 実の所、芽衣は魔法少女として才能あり、自分自身が自画自賛する天才と言う言葉は彼女に相応しいと王子は考えているのだが、彼女には魔法を使うものにとって致命的な弱点があった。

 魔力を体から放出できない特殊体質。

 地球でもそこ等辺にいる人ですら魔力を有し、毎日魔力を体から垂れ流しにして生きているのだが、彼女の体から魔力を出す事が出来ない。それ故、魔法で張るバリアやビームを撃てないし、体に膜を張って魔力を隠蔽する事すら無理なのだ。

 だから敵の位置まで自分の足を使って跳んで行くし、体を限界まで強化して弾丸の様に突っ込んでいく。魔力が歴代魔法少女の数倍、魔王に匹敵する位ので砲術や投擲などの遠距離攻撃適正があるのだが、体質の所為で近距離戦闘を強いられている。それは魔法少女にとって生まれながらに障害を負って生まれてきた赤子の様なものだった。

 その事実を知った時に王子は芽衣が落ち込んでしまうと考えていたが、芽衣はへこたれなかった。むしろ「ハンデがある方が燃える」とばかりに喜んだ。イージーモードでは退屈でハードモードが標準の生粋なドMだったらしい。

 それから芽衣は弛まぬ努力を続けそのハンデを王子に感じさせる事が一切無く見事に「歪み」を霧散し続け、拳銃からヒントを得て、現在の戦闘スタイルを確立させていったのだ。実際、これまで組んできたどの相棒よりも強いとすら王子は思わせられている。圧倒的才能の前ではハンデの存在など霞むしかないらしい。

 戦闘が終了し、警戒を怠らず、完全に「歪み」が霧散した事を確認すると王子は何かを納得する様に一人頷き、その場から撤収しようと踵を返す。

 

 キヒヒッ!


 王子の脚が止った。

 何か得体の知れない不気味な笑いに王子は聞こえた。

 王子はその笑い声を過去に何度か聞いた事がある。短い足が震えだす。

 頭の中へ急激に過去の記憶が蘇ってくる。

 灰色の空。跡形も無く消された拠点。自分を庇い死に絶えた者達。

 そして空に浮かぶ三日月型の赤い口から漏れる歪な笑い声。


『キヒヒッ!』


 絶望の果て。汚された地球。自分を庇いボロボロになった魔法少女。

 目の前に居るのはやはり三日月型の赤い口を持つ同種族。


『キヒヒッ!』


 何度も聞いた。

 希望を失う時にふと現れる破滅の音。

 希望という魔法少女が打ち砕いた絶望の象徴。


 魔王


 その単語を漸く飲み込んだ時、笑い声が聞こえてから数分の時が既に経過していた。

 何時の間にか微弱になっている相棒の反応に頭が冷える。

 

 変身が解けている?


「芽衣っ!!!」


 王子は跳ねるようにその場から離れ、風の如く疾走し、目的地に向かう。短い手足では遅いので、魔法を使い童話に出て来る王子様へと人化し、コンクリートを踏み砕きながら進む。

 芽衣のいたビルに着くと其処には赤いサマードレスを纏った少女が倒れている。

 近くに着地し、すぐさま芽衣の状態を魔法で確認。手をかざすと赤色の魔方陣が芽衣を中心にして輝き、浮かぶ。

 体の外傷無し。呼吸確認。脈正常。…魔法神経致命傷発見。

 緊急に治療しなければ魔法少女としての活動生命が死ぬ、と判断し王子は何重もの赤い魔方陣を芽衣の体に重ねて発動させる。

 王子は治療しながらも何故こうなってしまったのかと反芻しながら後悔した。

 何度も何度も…


   ■


「あぁ~、くっそっ! 負けた負けた!! 大敗北!!!」


 辺りはすっかり日が昇ってしまった頃。治療が終わり、疲労困憊になって人化の魔法も解けてぐったりしていると芽衣が目覚めてさっそく悪態をついていた。昨夜の負けた記憶が直ぐに蘇ったのだろう。

 いくら治療して応急処置を終えているからといって本来なら昏睡状態になっていてもおかしくないのに平然と起きだした芽衣を見て王子は目を丸くし、思わず化け物を見る目になった。


「大丈夫なのかい? 一応致命傷を受けていたのだけど」


 素直な疑問を口に出すと芽衣はキョトンとした顔する。


「王子が治療してくれたんでしょ? なら当然問題ないわ」

「…そうかい。それはよかったよ」


 その言葉に呆れた。

 まったく。タフというか、何というか。

 思い返せば組んだ最初の頃もヘマをして致命傷を負ったがその時も治療後はこういう風に平然としていた。むしろ自分が負った傷よりも相手にその傷を負わされた事を気にしていたようだったと。

 王子は何処が口か分からないが一旦溜息をつくと思考を切り替える。


「芽衣。もう朝になってしまったから事情がどうであれ早く帰らないと」

「そうね。学校もあるし」

「…行くのかい? その体で」

「机に座って座学を受ける分には問題ないわ」

「まったく、恐れ入るよ」

「ん? ありがとう」


 心の中で密かに「褒めてない」と悪態をつきながら、そんな芽衣の態度にすっかり力が抜け、王子は学校から芽衣が帰ってきたら話をする事にした。

 地球の常識を何故か紳士的に弁えている魔王が明るい内にしかも人が大勢居る学校を襲撃する事は無いだろうと前回の戦いの中で知っているのでその方が安全だろう。

 隠蔽魔法と人化魔法を王子が発動させてと一人と一匹は速やかに帰路についた。


 

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