私を追放した皆様へ。復讐は終わりましたのでご報告いたします
拝啓
私を追放した皆様へ。
お元気でしょうか。
……いえ、そうでもないかもしれませんね。
まずは、ご安心ください。
復讐は、すでに終わっております。
もっとも――私は何もしていないのですが。
さて、どこからお話ししましょうか。
思えば、すべての始まりはあの日でしたね。
皆様が私を“無能”と断じ、パーティから追放した日。
覚えていらっしゃいますか。
王都の酒場で、あなた方は随分と盛大に笑っていましたね。
「役立たずはいらない」「これでやっと足手まといが消えた」と。
あのときの空気は、今でもよく覚えています。
――とても、軽やかでした。
まるで、重石が一つ外れたかのように。
ええ、確かにその通りだったのでしょう。
あなた方にとって、私は“重石”だったのですから。
ですので私は、何も言わずに去りました。
抗議も、弁解もせずに。
ただ一つだけ、言葉を残しましたね。
「わかりました」と。
それで、終わりです。
その後の私については、あまり興味はないかもしれませんが、一応お伝えしておきます。
私は王都を離れ、隣国との境にある小さな町へと移りました。
特別な理由はありません。
ただ、人が少なく、静かな場所だったからです。
そこで私は、細々と生活を始めました。
冒険者として活動することもなく、ただ日々を過ごすだけ。
時折、薬草を摘んで売ったり、簡単な雑用を請け負ったり。
皆様が聞けば、きっと笑うでしょうね。
かつて同じパーティにいた者が、そんな地味な暮らしをしていると知れば。
ですが、不思議と悪くはありませんでした。
静かで、穏やかで、誰にも期待されない生活は、思っていたよりも楽なものです。
さて、本題に入りましょう。
復讐についてです。
先に申し上げた通り、私は何もしていません。
これだけは、どうか信じてください。
ですが結果として、皆様は次々と“問題”に直面することになりました。
まず最初は、前衛の方でしたね。
確かあなたは、巨大な魔物を単独で討伐できるほどの実力をお持ちでした。
その日も、普段通りの依頼だったのでしょう。
ですが――運が悪かった。
魔物の動きが、ほんのわずかに読みと違った。
それだけのことです。
致命的な一撃を受け、重傷を負ったと聞いております。
お気の毒に。
ですが、それは単なる不運です。
私の関与するところではありません。
次は、後衛の方でしたね。
あなたは優秀な魔術師でした。
複雑な術式を扱い、仲間を支えることに長けていた。
ですがある日、魔術の制御を誤ったとか。
小さなミスだったのでしょう。
ほんのわずかな計算違い。
ですが、それが暴発を引き起こした。
結果として、あなたは大きな怪我を負い、長期の療養を余儀なくされたと聞いています。
これもまた、不運と言うべきでしょう。
支援役の方も、大変でしたね。
あなたは交渉や補給を担当していましたが、取引先との関係が急に悪化したとか。
理由はよく分かりません。
ほんの些細な行き違いが積み重なった結果かもしれません。
契約は次々と打ち切られ、物資の確保が困難になった。
これもまた、偶然の連鎖なのでしょう。
そして最後に――リーダーであるあなた。
あなたは最後まで、状況を立て直そうとしていたと聞いています。
仲間をまとめ、依頼を選び、再建を図る。
ですが、すべてが噛み合わなかった。
一つ一つは小さな問題でも、それが重なれば大きな崩れになります。
結果として、パーティは解散に至った。
そう伺っています。
ここまで読まれて、どう思われましたか。
まるで、誰かが意図的に仕組んだかのようだ、と感じたでしょうか。
ですが、繰り返します。
私は何もしていません。
ただ――少しだけ、思い出していただきたいことがあります。
皆様が私を追放する前のことです。
前衛の方。
あなたが無茶な突撃をしようとしたとき、私は一度だけ止めたことがありましたね。
「今日はやめた方がいい」と。
あのとき、あなたは不機嫌そうに笑っていましたが、最終的には引き下がった。
その判断が、結果的にあなたを守っていたことには、お気づきでしょうか。
後衛の方。
あなたの術式に、ほんの小さな誤差があったことを覚えていますか。
私はそれを指摘し、修正を提案しました。
「大丈夫だろう」と最初は軽く流されましたが、最終的には調整されましたね。
あの調整がなければ、どうなっていたか。
……今なら、想像できるかもしれません。
支援役の方。
取引先との契約書を、私は何度か確認していました。
細かい条件や、曖昧な文言を修正し、トラブルを未然に防いでいた。
そのことを、覚えていらっしゃいますか。
リーダーであるあなた。
あなたはよく、私に「全体の流れを見てくれ」と頼んでいましたね。
依頼の選定、移動のタイミング、休息の判断。
私はそれに従って、最適と思われる提案をしていました。
それがどれほどの影響を持っていたのか、当時はあまり意識していなかったかもしれませんが。
……とはいえ。
これらはすべて、過去の話です。
今となっては、関係のないこと。
なぜなら、私はもう、あなた方のパーティにはいないのですから。
最後に、一つだけ。
これは忠告ではありませんし、助言でもありません。
ただの事実です。
“何も起きていない状態”というのは、決して当たり前ではない、ということです。
それを維持するために何が必要だったのか。
それが失われたとき、何が起こるのか。
今回の件で、十分にご理解いただけたのではないでしょうか。
以上をもちまして、ご報告とさせていただきます。
繰り返しますが、私は何もしておりません。
すべては、偶然と不運の積み重ねです。
どうか、そのようにご理解ください。
追伸。
こちらでの生活は、思いのほか穏やかです。
最近は、小さな畑を借りて、野菜を育てています。
不思議なものですね。
戦いとは無縁の生活ですが、以前よりも心が安らいでいる気がします。
皆様も、どうかご無事で。
――もっとも、その願いが叶うかどうかは、私には分かりませんが。
敬具




