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第六話 贈り物とお守り

 皇帝が妻・李后の閨を離れないと、後宮どころか王城にまで激震が走った。

 それを多くの者が喜んだ。

「李后様、陛下からの贈り物ですわ」

 うきうきとした様子で、丹が他の女官とともにたくさんの箱を運び込んだ。

 あの夜、丹はたまたま僅かな時間、離れてしまっていたのだ。

 罰を覚悟していた丹だったが、武徳も桂麗も咎めるつもりはなく、あくまでその場を離れたことについての注意に留めた。

「まぁ、見事な紗帔(肩掛け)ですわ。こちらの箱には、髪飾り。翡翠に、珊瑚、瑪瑙……こちらも綺麗ですわね」

 皇后の格に相応しい仕様ではあるものの、まるで寵妃に与えるかのような贈り物の多さに、桂麗は戸惑いを隠せなかった。

 結ばれた後で知ったことだが、これまで武徳は後宮には立ち寄りこそすれど、特定の女に入れ込んだ記憶はないらしい。

 即位してから寝るのは、もっぱら執務室だったという。

 妃の一人である花花は、寵妃であると吹聴していたが、その事実はないと武徳は語った。

 もっとも、彼女が身につけているものは武徳からの贈り物ではなく、家から送られてきたものだと桂麗は知っていた。

「……良いのかしら」

「李后様?」

「こんな贅沢な品ばかりいただいてしまっては、他の后妃たちに示しが……」

「いいえ、李后様。慎み深いことは大事でございますが、あまりに飾り気がないのもよろしくありません」

「丹……」

「全てを一度に飾る必要はないのです。そう、今日はいただいた紗帔をまといましょう」

 丹がいそいそと、贈られてきたばかりの紗帔を桂麗に着せた。

 強風に煽られただけで破れてしまいそうなほど、薄くて透き通るような生地だ。

 しかし、まるで金剛石をちりばめたような輝きを放っている。陽のもとでは、どれほど美しく光るだろうか。

「簪は翡翠を。この鮮やかな緑は、本日の白梅の宴に、よく合いますわ」

 盆に乗せられている簪は、翡翠で装飾されている。これも届いたばかりのものだ。

 今日はこれから、昼食会を兼ねて白梅を眺める宴を開くことになっている。

 元々後宮の女たちだけで予定していたことだが、武徳も顔を出すと言ってくれた。

 そのことはすぐに、后妃たちにも伝えた。

 体調不良だと言っていた者からは、具合がよくなったので伺いたいという返事があった。后妃は全員が揃うことになる。

「はい。李后様は、ごてごてに飾り立てるよりも、このように気品良くなさるのが一番。これは贅沢ではありませんよ」

「丹……ありがとう」

「これが私の仕事ですわ。さぁ、紅はこちらを」

 鏡に映り込んだ自分の顔が、以前よりもずっと艶やかに見える。

 ふと、桂麗は机のうえに置いている紙に視線をやった。

 それは、武徳と初めて結ばれた翌朝に、木簡に記した詩を清書したものだった。

(この詩が、陛下と私を繋いでくれた。まさに、お守りだわ)

 もう清書をしてしまったので、試行錯誤の痕跡がある木簡は処分した。

(でも、皇后が艶歌を好むなんて、他の者にはまだ言えないわ。もっと皆から信頼されてからでなくては)

 桂麗は紙を手に取ると、丁寧に折って胸元にそっと仕舞い込んだ。

 そろそろ刻限だった。桂麗は、悠然とした足取りで庭園へと向かった。

次の更新は、5/2 12:00を予定しています。

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