「張り切りリフレッシュ」
無事にトリル含めた『席連れ』を倒すことの出来たセイジ達。意識を取り戻したセイジと共に、構成員を警察隊へ引き渡すことにした。
無論、カシルも入団していたので一緒だ。例外はなく、見逃すことは不可能だ。が、それはカシル自身も理解しており、腹はくくっていたようである。
いざ事情を説明してみると、脅されていたことや害をなしてはいなかったことから拘束されることはなかった。
『席連れ』という組織自体が違法であるので、その一員だったというのは褒められたものではないが。
警察隊もそれを念押して言った。カシルについての処分はこうして終わる。
セイジらは一息つけるということで、何処かへ出掛けようと画策した。カシルも楽しませるような場所、と一考してセイジはとある場所へと皆で向かうことにするのだった。
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「というわけで!今日は楽しむぞ!」
「元気いっぱいだねセイジ…」
「こいつ、日が昇る前に起きて支度してたからな…」
張り切るセイジにケイヤはげんなりと言う。何せ、朝から物音がすると思ったらその主はセイジだったのだ。
常日頃、朝食の用意や朝練で早く起きてはいるが、今日ほどドタバタと喧しかった日はない。
そんなに張り切るセイジが訪れた場所は累進贈与型施設、即ち『旅乗り』である。
施設と名はつくものの、一種のテーマパークでありセイジとクロお気に入りの場所だ。
「えっと、セイジさん。その、かけてるサングラスは一体…」
「よく聞いてくれたなカシル!これは『旅乗り』マスコット、ノリちゃんのサングラスだ!どうだ愛らしいだろう!」
「う、うん可愛いと思う!」
「セイジ、子供に気を使わせないで下さい…」
得意げにセイジがかけているのは『旅乗り』のマスコット、ノリちゃんのサングラス。ノリちゃんは白い狼を模しており、サングラスは丁度ノリちゃんのふわふわとした目元をモチーフにしているのだ。
『旅乗り』内で掛けるならまだしも、セイジは『旅乗り』へ入園する前からサングラスを装備していた。
あまりの元気に、カシルはもはや気後れすらしている。果てには小さな子供というのに、気を使って返事までしている様だ。
「早く入るぞ!行くぞ!」
「はぁ…この人、なんでこんなに元気なの…はぁ…はしゃぎすぎだよ…」
「だよなぁ。………オメェ、その頭についてんのはなんだよ…?」
「はぁ…何って…ノリちゃん帽子だけど…はぁ…郷に入れば郷に従えでしょ?」
「案外楽しみにしてるんですね…」
あいも変わらず溜息をついてる人形は、ノリちゃんが縫い付けられた帽子を着けていた。
ノリちゃん、と呼んでいることからも思ったよりかは『旅乗り』に対して乗り気なのだろう。
よく巻かれた金色の髪と白いノリちゃんは予想よりも相性が良い。代わりに、人形の材質である陶器とはミスマッチであるが。
セイジに半ば強制的に貰ったノリちゃん帽子を被った人形はハクエに抱えられて、『旅乗り』へと満を持して入るのだった。
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受付を済ませて『旅乗り』へ入った一行はとある場所へ向かった。その名も『迷いの森』。
明らかに薄暗くて湿っぽそうな名称通り、陰険な森である。セイジは何も、暗がりの森が好きというわけではない。
お目当ては別にある。『迷いの森』は施設内でも特殊で、森に入った人間は皆等しく狼の姿となるのだ。
以前訪れた時には、残念ながら踏み入れることの出来なかった場所へ胸を馳せながらセイジは歩く。
『迷いの森』の入り口にて注意事項を聞き、いざ先の真っ暗な木々へと体を委ねに行った。
「!凄いぞ!本当に狼になったぞ!」
「おぉ!何だか変な感じですね!」
「はぁ…やっぱり私はそのままだ…はぁ…」
「そう落ち込むな!特別にお前を背に乗せてやろう!」
聞いていた通り、足を踏み入れた瞬間に2人は狼へとなった。銀色の毛並みはふわふわで、鋭い瞳は森の影と相まって金色に光っているようだ。
やや不慣れなセイジとは違い、既に適応しつつあるハクエは狼の嗅覚で森から抜けようとしていた。
クロ達3人とは逸れてしまったようだが、どちらにせよ森を抜ければ合流出来るだろうという考えである。
姿が変わっても頼もしいハクエは快活な足取りで草木をかき分けて進む。
「そう言えば知っていますか?『旅乗り』がある土地は元々森だったそうですよ?」
「はぁ…森からこんな施設を建てるなんて…すごい大変そうだね…」
「む。ということは、この『迷いの森』は手抜きということか。」
「確かに森のままだしね…まぁ私、人形だから何か作れたりはしないんだけど…」
「そうか…?砂に顔を埋めればサンドアートくらいにはなると思うぞ!」
「サンドアートをなめてますねセイジ…」
四方八方に話題を飛ばしながらも、2人と一体は静かな森の中、音をたてて歩いていく。
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セイジ達とは離れてしまったクロ達。彼らもまた例外なく狼になっていた。
落ち着いていた彼らとは違って、クロ達は狼となったことで何やら騒いでいた。
「ねぇケイヤ、トイレってやっぱりそこら辺の草むらでするのかな…!?」
「えぇっ!?そういうの、お行儀悪いってママ言ってた!」
「……………まぁ、今の俺達は狼なんだ。人間の尊厳は捨てて用をたせ。」
「「そんなぁ~。」」
下の事情は悲しいかな、人間としての矜持を打ち捨てなければならないようである。嫌がるクロとカシル。その気持ちは流石のケイヤも分かる。
頭を下げて項垂れる3頭の狼。手触りの良い毛並みも、心なしか気持ちと共に垂れている気がした。
まだ人でありたい3人、もとい3匹は急ぎ足で森を駆ける。無論、出口の目処がたっているわけではないが急がなければいずれ尿意が迫ってくるのだ。
運動神経の良いケイヤはともかく、クロとカシルは慣れない四足歩行に苦戦している。後ろ足はまだしも、前足で地面を蹴る感覚に慣れない。
不慣れな状態であるため、3人はしばし休憩をとることにした。幸い、休むのに最適な木漏れ日が差し込む場所を発見したのだ。
薄暗い空間とは打って変わった空間は、3人に温かな安らぎを提供する。
あまりのぽかぽか具合に、カシルに至っては意識がふねを漕ぎ始めていた。
「!おい!カシル!漏らしてんぞ!寝てる場合じゃねぇ!」
「ご、ごめんなさい。でも、ぼく、ねむく、て、」
「あー!?さらに漏れちまってる!おいクロ…ってオメェは何で木に小便かけてんだ!?」
「ご、ごめん。何かこの木気に入ったから…あっ、これも良いかも。」
「馬鹿野郎!マーキングしてんじゃねぇ!オメェは人間だ!」
狼の姿に引っ張られていく2人がどうにか人としてのプライドを保ってくれるように、ケイヤはただ一人必死に叫び続けるのだった。




