「守りたいもの」
「よぉセイジ!今日は俺と特訓だ…ってどうした?」
「…いや、何でもない」
朝早くから元気なケイヤの声が響く。彼とは裏腹に、朝食を作り終えたセイジは覇気がない。
「…オメェもクロも昨日から様子が変だし何かあったのか。」
「何もないさ。何も出来なかったからな。きっと俺もクロも数日で様子は戻る。」
「?そうか。」
「特訓なんだろう?朝食をとって早く行くとしよう。」
「おう。」
これ以上の答えが見込めないと思ったケイヤは、言及をやめて大人しく朝食をとる。
クロとハクエは未だ眠っているらしい。
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「よーし!そろそろ休憩だ!」
ケイヤの声を皮切りに走っていたセイジは、クールダウンに向けて足を遅める。
2人は体力づくりのため、以前と続いて平野でトレーニングをしていた。
「ふぅ。なぁケイヤ、最近体中痛いんだが、解決方法はないか?」
「あ?そーだなぁ。ちゃんと飯食って、ちゃんと寝ろ。そんぐらいだ。」
「………筋肉痛を治める魔法なんてのは……」
「んなピンポイントでねぇよ。つぅか、すぐに直しちまったら付く筋肉も付かねぇぞ。」
「そうか…」
希望虚しくこれからしばらく、筋肉痛とよろしくしなければいけないようだ。
「セイジ、今日の特訓だけどよ、早めに切り上げてもいいか?」
「…?構わないが、何か用事でもあるのか?」
「あぁ。依頼みてぇなもんを受けてな。」
「………俺も手伝えるなら行ってもいいか。」
「うーん、まぁ、調査みてぇなもんだしな。よし、一緒に来い。」
依頼の内容を聞かずについて行くと決めたセイジ。
平野でのトレーニングを終えて、ケイヤと共に依頼をこなしに行くのだった。
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2人が向かった先は、以前も足を踏み入れたカラフルな密林である。
ここには人を襲う植物やどぎつい色をした鳥が生息している。
「……や、やはり帰ろうかな…」
「おいおい!ここまで来たんだ!行くぞ!」
「ぐっ。」
密林から踵を返そうとするセイジの首根っこを掴んで、ケイヤは前に進む。
ずるずる引きずられたセイジは諦めて、大人しく手伝うしかないようだ。
恨むべきは依頼内容を聞かずに、ほいほいついてきた自分自身だろう。
「それで、依頼の内容はどんなものなんだ?」
「最近ここら辺で不審な奴を見かけるみてぇでな。ま、要はパトロールごっこをすんだよ。」
「そういうのは警察隊に任せた方が良いんじゃないか?」
「……………あいつらじゃ、駄目だ。つぅか、ここに住む奴らも警察隊は信用してねぇ。」
「?何故だ?」
「………ちっと長くなるぞ。」
「構わない。頑張って聞くさ。」
前を進むケイヤは声のトーンを抑えて、ここの場所について語るのだった。
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俺の生まれ育ったここは、七林っつう名前の場所だ。
まぁ、生き物も植物もカラフルなもんで、こんな名前になってんだ。
勿論、人間も住んでる。ただ七林に住む人間は、他とはちっと違う性質もっててな。
ここで産まれた人間は草波族って言われてる。
背中に這うように草が付いてんだ。俺もそうだ。けど、服さえ着りゃあ分からねぇ。
特徴っつう特徴は、それに加えて魔導具と呪文無しで魔法を使えることぐらいだ。これも、わざわざ魔導具使っちまえば草波族だなんて分かんねぇ。
七林は変なとこだからな。魔法を使うのに必要なエネルギーが大気中に溢れかえってんだ。
そのせいで昔は人なんか住みづれぇの住みづれぇの。
だからご先祖さんは思いついた。七林の植物は大気に適応してる。つまり、この植物と一体化すれば、人であれども七林に住めんじゃねえかってな。
そんで今の草波族になったわけだ。でも他の人間との違いなんてそんだけ。
だってのに国は草波族を恐れて嫌った。
あげくの果てには、浄化だなんだっつって七林を草波族ごと燃やしやがった。
てことで草波族は国もとい、警察隊や認定ギルドを敵視してんだよ。
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話を聞き終えたセイジは迷っていた。何と声をかければ良いのか分からなかったからだ。
大変だったなと労うのか。なるほど、そういうことかと理解を示すのか。それは許せないなと共感するのか。
ぬくぬくと育っていたセイジには分からない。言葉が出せない。
「あ?そんな深刻そうにするこたぁねぇよ。」
あまりに黙っているのを不審がって、ケイヤは後ろを振り返った。
そこには眉尻を下げたセイジがいた。
「起きたことはどうしようもねぇんだ。だから、今はとにかく進むしかねぇ。」
「……どこに?」
「そりゃあ認定ギルドだ。もう二度と浄化だとかふざけたことをさせねぇためにもな。」
「……そうか。なら、俺ももっと強くなって認定ギルドを目指そう。」
「はっ!その意義だ!ほら、見回り続けるぞ!」
ケイヤの覚悟を聞いて、再び歩き出す。
少しでも役に立てるように。
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「この辺りで怪しい奴が発見されたらしい。気ぃつけろよ。」
「了解した。」
ケイヤの忠告を受けつつ、草の根が地面を這う場所を慎重に歩く。
この場所は以前、特訓として来ていた場所だ。食人植物がいるはずなので警戒しなくては。
怪しい奴、と言っていたが一体どんな人間なのだろうか。
やはりひと目で関わったら不味いと分かる風貌をしているのか。そうだといいのだが。
キョロキョロ辺りを見渡しつつ、ケイヤの後ろをついて行く。
視界にはケイヤの背中、色とりどりの草木、そして鳥、白い着物を着た男、
「ん?」
「どうしたセイジ?」
「………いや、少し戻ってもいいか?」
「構わねぇが何かあったのか。」
「………あぁ。何か居たような…」
ケイヤと共に来た道を戻る。一瞬のことだったから見間違えかもしれない。
再び同じ場所を歩く。色とりどりの草木、そして鳥、白い着物を着た男、
「何だぁ!?こいつ!?」
「………やはり、見間違えではなかったか…」
ケイヤにも白い着物を着た男が見えているようで安心した。
いや、一概に安心出来はしないが。何せ件の男は薄すぎる着物を着て、坐禅を組みながら瞳を閉じているのだ。
「あ、怪しい人間とはこいつのことではないのか…?」
「その可能性はデカいな…。取り敢えず起こすか」
浮浪者のような格好の男を揺らして起こす。流石にこんな場所で深い眠りについていることはないだろう。
その予想も的中し、着物の男は直ぐにパッチリ目を開ける。そして、セイジと目が合う。
と思えば、
「うわっ!?何をするんだっ!?」
「大丈夫かセイジ!」
「あ、あぁ。」
目を覚ましたと思うと、着物の男はいきなりセイジ目掛けて刀を振るってきたのだ。
咄嗟の出来事でもケイヤは見事に反応し、着物の男の攻撃を凌ぐ。
「お、落ち着いてくれ。敵意はないんだ。話をしよう。」
「不要。我が壱心流には対話の型はなし。」
「何だその野蛮な流派は!?」
「……壱心流っていえば勝負しか頭にねぇ連中で有名な奴らだ…」
驚くセイジにケイヤは説明をしてくれる。説明を受けても、納得に繋がりはしないのだが。
「その壱心流の奴がこんな所で何をしてるんだ?修ぎょ、なっ!?」
セイジが言い終わる前に、着物の男はまた剣を振るう。
「セイジ!目を合わせんじゃねぇ!壱心流の奴らは目が合ったら最後、勝負がつくまで戦い続けんぞ!」
「も、猛獣か何かなのか!?」
「そんなもんだ!取り敢えず下がれ!」
ケイヤの忠告通り、後ろへ下がる。
今現在、彼を挟んで着物の男と向き合う形になっている。
「……貴様の型は不愉快だ。」
「はっ!そりゃあ育成学校でお行儀よく習ったもんだからなぁ!」
着物の男は不満気に刀を振るい続ける。一撃は重く、距離をとっていても圧迫される。
攻撃の際に生じた風がケイヤの頬を撫でる。
彼の攻撃は実にパワフルで荒々しかった。それは使う刀にも起因しているのだろう。男が握る刀は刃が広く重さがある。
故に攻撃の度に空を切る音が聞こえるのだ。
対してケイヤの攻撃はバランスが良い。男の重たい攻撃にも真っ向から立ち向かいはしなかった。
男の攻撃を見切ったケイヤが狙うのは刃の中央ではなく、端である。
そこを狙って刀を当てることで、最小の力で攻撃を躱すのだ。
「小賢しいな…。仕方がない。壱心流の奥義を見せてやろう。」
奥義を見せる、と言った男の雰囲気は異様なものへとなった。
男とケイヤの戦い、セイジには全く見えてはいなかった。目に追えないのだ。
感じ取れるのは音のみ。それでも、役に立つ為に頭を回す。
やや焦るセイジの視界には小石が入った。これはきっと使えるはず。
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「ゆくぞ。壱心流奥義、地伏し!」
男はそう言うと手に握っていた僅かな砂を、ケイヤ目掛けて勢いよくかける。
「狡くないか…!?あれが奥義なのか…」
「勝てれば何でもいいんだよあいつらは…!」
目を狙われた攻撃にも、ケイヤは対応して反撃へと出ていた。
しかし、躱されようとも男の様子は変わりなかった。むしろほくそ笑んでいるようで。
「我が奥義は他者と違ってな。」
瞬間、ケイヤが避けて地面へ落ちた砂に変化が起きる。
物理法則を無視した砂は、地から再びケイヤ目掛けて飛んでいったのだ。
予想外のことで、流石に避けられず砂を浴びるケイヤ。
着物の男は魔法を使ったに違いない。だが、呪文を唱えているのは聞こえなかった。
もしや彼も草波族なのだろうか。
そんな疑問など、今はどうだって良かった。それより今はケイヤの窮地を救わなくては。
男から顔を背けるケイヤは隙だらけだ。そこを、狙われないはずがない。
事実、男は大きな刀をケイヤの首目指して振るう。
その前に、
「壱心流の男!気をつけたほうが良いぞ!さもなくばこの地の栄養分となるからな!」
「…?何を言って、」
動きが鈍った男に構わず、小石を拾って林へ投げ込む。
小石が横を素通りしたのを感じて、ケイヤはセイジが何をしようとしているか理解した。
直ぐにその場から離れて、小石が飛んできた場所。つまりセイジの下へと行く。
一連の行動に戸惑う男。しかし、攻撃をする選択は変わらない。続けて剣を振るう。
その瞬間に、小石が着地した林から蔓が勢いよく伸びてきた。
この蔓はセイジとケイヤの知る蔓だ。つまり食人植物のもの。
「小癪…!こんなもので壱心流を破れは…」
「これだけだと思うなよ!エッフル!」
間髪入れず、男めがけて斧を投げる。その斧はエッフルによって増える。
2つの斧は弧を描いて男の下へ。彼には食人植物と斧、2つの脅威が襲いかかる。
だが、それだけではない。
「でかした!セイジ!」
一度下がったケイヤは、隙の出来た男の下へと駆け寄る。これで脅威は3つ。
そして、七林はケイヤの独壇場と言える。
凶暴な食人植物を物ともせず、むしろ利用していく。蔓に乗って速度を上げたケイヤは、そのまま剣を男へ振るう。
対処も出来ぬまま男は、攻撃を受けて倒れてしまうのだった。
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「よし、これだけ縛れば問題ないだろう。」
「だな。」
気絶した男を縛りあげて2人は一息つく。
「にしても良い縛りっぷりだなぁ!」
「雑誌を束ねる術が役立ったようだな…」
日頃の雑務のお陰だ。実際に関係あるかは不明だが。
「縛ったのは良いがどうする?顔に落書きでもしておくか?」
「やらねぇよ!ガキかテメェは!」
「……………分かった………」
「んなしょげる程か!?」
提案を却下されたセイジ。何はともあれ、七林に現れる不審者の正体は分かったのだ。
無事に一件落着。
「………はっ!我は、一体何を…」
「おっ!目ぇ覚ましたみてぇだな。」
2人で話をしていると、件の男は目を覚ました。随分早い目覚めだ。
一応警戒をしてケイヤに話しかける。
「……目は合わせないほうが良いか…?」
「縛ってっから大丈夫じゃねぇかな…」
目を合わせると斬りかかる奴らだ。念の為気をつけたほうがいいか聞いたが、きっちり縛りあげている。
その問題はないかもしれない。
安心してセイジは目を合わせる。どうやら暴れる問題は生じなかった。が、別の問題が生じた。
「………こんな縛り方をして…。我をどうするつもりだ…?」
「「は…?」」
「とぼけるなよ…我に辱めを受けさせるつもりだろう…くっ…」
「くっ、じゃねぇよ!何でオメェにんなことしなきゃ何ねぇんだ!?」
「言っておくが俺もそんな趣味はないぞ!?」
とんでもない勘違いをしている男に、必死に2人は否定を重ねる。
考えてもみてほしい。この場には野郎3人しか居ないのだ。
そこで、男が男を縛りあげて辱めを、なんて最悪の絵面でしかない。
「……と、我を安心させて、」
「だからしねえって言ってんだろ!?」
くどい男にケイヤは怒鳴る。どうして頑なに考えを変えないのか。
その疑問に答えるように、男は困惑を見せて口を開く。
「ならば何故我に手加減をした?」
「…あ?」
「貴様の攻撃は全て鞘のままであった。何故刀を抜かなかったのだ?」
見つめられるケイヤ。彼はさも当然だと言いたげにやすやすと語る。
「何故って、人相手に、んな物騒な考え持つやつはオメェ達、壱心流の輩ぐれぇだぞ。」
セイジも是には同意だ。魔物ならいざ知ららず、人を相手に殺傷沙汰というのは恐ろしい。
「俺達ぁ、この辺に怪しい奴がいるっつうんでここに来たんだ。オメェの流儀を否定はしねぇが、他所でやってくれ。」
「………そうか。分かった。」
「随分すんなり聞くのだな。」
驚くセイジに男は続ける。眉尻を下げて、肩をすぼめつつ2人を見る。
「……貞操は守りたいのでな…」
「オメェ話聞いてたか!?」
とんでもない勘違いは依然健在のままではあったが、何はともあれ、ケイヤの受けた依頼達成だ。




