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戦士の受難  作者: とんぼ。
第2章 日常編

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「守りたいもの」

「よぉセイジ!今日は俺と特訓だ…ってどうした?」

 「…いや、何でもない」


 朝早くから元気なケイヤの声が響く。彼とは裏腹に、朝食を作り終えたセイジは覇気がない。

 「…オメェもクロも昨日から様子が変だし何かあったのか。」

 「何もないさ。何も出来なかったからな。きっと俺もクロも数日で様子は戻る。」


 「?そうか。」

 「特訓なんだろう?朝食をとって早く行くとしよう。」

 「おう。」


 これ以上の答えが見込めないと思ったケイヤは、言及をやめて大人しく朝食をとる。

 クロとハクエは未だ眠っているらしい。

――――――――――――――――――――――――

 「よーし!そろそろ休憩だ!」

 ケイヤの声を皮切りに走っていたセイジは、クールダウンに向けて足を遅める。

 2人は体力づくりのため、以前と続いて平野でトレーニングをしていた。



 「ふぅ。なぁケイヤ、最近体中痛いんだが、解決方法はないか?」

 「あ?そーだなぁ。ちゃんと飯食って、ちゃんと寝ろ。そんぐらいだ。」


 「………筋肉痛を治める魔法なんてのは……」

 「んなピンポイントでねぇよ。つぅか、すぐに直しちまったら付く筋肉も付かねぇぞ。」

 「そうか…」


 希望虚しくこれからしばらく、筋肉痛とよろしくしなければいけないようだ。

 「セイジ、今日の特訓だけどよ、早めに切り上げてもいいか?」

 「…?構わないが、何か用事でもあるのか?」


 「あぁ。依頼みてぇなもんを受けてな。」

 「………俺も手伝えるなら行ってもいいか。」

 「うーん、まぁ、調査みてぇなもんだしな。よし、一緒に来い。」

 

 依頼の内容を聞かずについて行くと決めたセイジ。

 平野でのトレーニングを終えて、ケイヤと共に依頼をこなしに行くのだった。


――――――――――――――――――――――――

 2人が向かった先は、以前も足を踏み入れたカラフルな密林である。

 ここには人を襲う植物やどぎつい色をした鳥が生息している。


 「……や、やはり帰ろうかな…」

 「おいおい!ここまで来たんだ!行くぞ!」

 「ぐっ。」


 密林から踵を返そうとするセイジの首根っこを掴んで、ケイヤは前に進む。

 ずるずる引きずられたセイジは諦めて、大人しく手伝うしかないようだ。


 恨むべきは依頼内容を聞かずに、ほいほいついてきた自分自身だろう。


 「それで、依頼の内容はどんなものなんだ?」

 「最近ここら辺で不審な奴を見かけるみてぇでな。ま、要はパトロールごっこをすんだよ。」


 「そういうのは警察隊に任せた方が良いんじゃないか?」

 「……………あいつらじゃ、駄目だ。つぅか、ここに住む奴らも警察隊は信用してねぇ。」

 「?何故だ?」


 「………ちっと長くなるぞ。」

 「構わない。頑張って聞くさ。」


 前を進むケイヤは声のトーンを抑えて、ここの場所について語るのだった。


――――――――――――――――――――――――

 俺の生まれ育ったここは、七林っつう名前の場所だ。

 まぁ、生き物も植物もカラフルなもんで、こんな名前になってんだ。


 勿論、人間も住んでる。ただ七林に住む人間は、他とはちっと違う性質もっててな。

 ここで産まれた人間は草波族って言われてる。


 背中に這うように草が付いてんだ。俺もそうだ。けど、服さえ着りゃあ分からねぇ。

 特徴っつう特徴は、それに加えて魔導具と呪文無しで魔法を使えることぐらいだ。これも、わざわざ魔導具使っちまえば草波族だなんて分かんねぇ。


 七林は変なとこだからな。魔法を使うのに必要なエネルギーが大気中に溢れかえってんだ。

 そのせいで昔は人なんか住みづれぇの住みづれぇの。

 だからご先祖さんは思いついた。七林の植物は大気に適応してる。つまり、この植物と一体化すれば、人であれども七林に住めんじゃねえかってな。


 そんで今の草波族になったわけだ。でも他の人間との違いなんてそんだけ。

 だってのに国は草波族を恐れて嫌った。


 あげくの果てには、浄化だなんだっつって七林を草波族ごと燃やしやがった。

 てことで草波族は国もとい、警察隊や認定ギルドを敵視してんだよ。


――――――――――――――――――――――――

  話を聞き終えたセイジは迷っていた。何と声をかければ良いのか分からなかったからだ。

 

 大変だったなと労うのか。なるほど、そういうことかと理解を示すのか。それは許せないなと共感するのか。

 ぬくぬくと育っていたセイジには分からない。言葉が出せない。


 「あ?そんな深刻そうにするこたぁねぇよ。」

 

 あまりに黙っているのを不審がって、ケイヤは後ろを振り返った。

 そこには眉尻を下げたセイジがいた。


 「起きたことはどうしようもねぇんだ。だから、今はとにかく進むしかねぇ。」

 「……どこに?」

 「そりゃあ認定ギルドだ。もう二度と浄化だとかふざけたことをさせねぇためにもな。」


 「……そうか。なら、俺ももっと強くなって認定ギルドを目指そう。」

 「はっ!その意義だ!ほら、見回り続けるぞ!」


 ケイヤの覚悟を聞いて、再び歩き出す。

 少しでも役に立てるように。


――――――――――――――――――――――――


 「この辺りで怪しい奴が発見されたらしい。気ぃつけろよ。」

 「了解した。」


 ケイヤの忠告を受けつつ、草の根が地面を這う場所を慎重に歩く。

 この場所は以前、特訓として来ていた場所だ。食人植物がいるはずなので警戒しなくては。

 

 怪しい奴、と言っていたが一体どんな人間なのだろうか。

 やはりひと目で関わったら不味いと分かる風貌をしているのか。そうだといいのだが。


 キョロキョロ辺りを見渡しつつ、ケイヤの後ろをついて行く。

 視界にはケイヤの背中、色とりどりの草木、そして鳥、白い着物を着た男、


 「ん?」

 「どうしたセイジ?」

 「………いや、少し戻ってもいいか?」


 「構わねぇが何かあったのか。」

 「………あぁ。何か居たような…」


 

 ケイヤと共に来た道を戻る。一瞬のことだったから見間違えかもしれない。


 再び同じ場所を歩く。色とりどりの草木、そして鳥、白い着物を着た男、


 「何だぁ!?こいつ!?」

 「………やはり、見間違えではなかったか…」


 ケイヤにも白い着物を着た男が見えているようで安心した。

 いや、一概に安心出来はしないが。何せ件の男は薄すぎる着物を着て、坐禅を組みながら瞳を閉じているのだ。


 「あ、怪しい人間とはこいつのことではないのか…?」

 「その可能性はデカいな…。取り敢えず起こすか」


 浮浪者のような格好の男を揺らして起こす。流石にこんな場所で深い眠りについていることはないだろう。


 その予想も的中し、着物の男は直ぐにパッチリ目を開ける。そして、セイジと目が合う。

 と思えば、


 「うわっ!?何をするんだっ!?」

 「大丈夫かセイジ!」

 「あ、あぁ。」


 目を覚ましたと思うと、着物の男はいきなりセイジ目掛けて刀を振るってきたのだ。


 咄嗟の出来事でもケイヤは見事に反応し、着物の男の攻撃を凌ぐ。


 「お、落ち着いてくれ。敵意はないんだ。話をしよう。」

 「不要。我が壱心流には対話の型はなし。」


 「何だその野蛮な流派は!?」

 「……壱心流っていえば勝負しか頭にねぇ連中で有名な奴らだ…」


 驚くセイジにケイヤは説明をしてくれる。説明を受けても、納得に繋がりはしないのだが。


 「その壱心流の奴がこんな所で何をしてるんだ?修ぎょ、なっ!?」

 セイジが言い終わる前に、着物の男はまた剣を振るう。

 

 「セイジ!目を合わせんじゃねぇ!壱心流の奴らは目が合ったら最後、勝負がつくまで戦い続けんぞ!」

 「も、猛獣か何かなのか!?」

 

 「そんなもんだ!取り敢えず下がれ!」

 ケイヤの忠告通り、後ろへ下がる。

 今現在、彼を挟んで着物の男と向き合う形になっている。


 「……貴様の型は不愉快だ。」

 「はっ!そりゃあ育成学校でお行儀よく習ったもんだからなぁ!」


 着物の男は不満気に刀を振るい続ける。一撃は重く、距離をとっていても圧迫される。

 攻撃の際に生じた風がケイヤの頬を撫でる。


 彼の攻撃は実にパワフルで荒々しかった。それは使う刀にも起因しているのだろう。男が握る刀は刃が広く重さがある。

 故に攻撃の度に空を切る音が聞こえるのだ。


 対してケイヤの攻撃はバランスが良い。男の重たい攻撃にも真っ向から立ち向かいはしなかった。

 男の攻撃を見切ったケイヤが狙うのは刃の中央ではなく、端である。


 そこを狙って刀を当てることで、最小の力で攻撃を躱すのだ。

 

 「小賢しいな…。仕方がない。壱心流の奥義を見せてやろう。」

 奥義を見せる、と言った男の雰囲気は異様なものへとなった。

 

 男とケイヤの戦い、セイジには全く見えてはいなかった。目に追えないのだ。

 感じ取れるのは音のみ。それでも、役に立つ為に頭を回す。

 

 やや焦るセイジの視界には小石が入った。これはきっと使えるはず。


――――――――――――――――――――――――

 「ゆくぞ。壱心流奥義、地伏し!」

 男はそう言うと手に握っていた僅かな砂を、ケイヤ目掛けて勢いよくかける。


 「狡くないか…!?あれが奥義なのか…」

 「勝てれば何でもいいんだよあいつらは…!」


 目を狙われた攻撃にも、ケイヤは対応して反撃へと出ていた。

 しかし、躱されようとも男の様子は変わりなかった。むしろほくそ笑んでいるようで。


 「我が奥義は他者と違ってな。」

 瞬間、ケイヤが避けて地面へ落ちた砂に変化が起きる。

 物理法則を無視した砂は、地から再びケイヤ目掛けて飛んでいったのだ。


 予想外のことで、流石に避けられず砂を浴びるケイヤ。

 

 着物の男は魔法を使ったに違いない。だが、呪文を唱えているのは聞こえなかった。

 もしや彼も草波族なのだろうか。


 そんな疑問など、今はどうだって良かった。それより今はケイヤの窮地を救わなくては。


 男から顔を背けるケイヤは隙だらけだ。そこを、狙われないはずがない。

 事実、男は大きな刀をケイヤの首目指して振るう。


 その前に、

 「壱心流の男!気をつけたほうが良いぞ!さもなくばこの地の栄養分となるからな!」

 「…?何を言って、」


 動きが鈍った男に構わず、小石を拾って林へ投げ込む。

 

 小石が横を素通りしたのを感じて、ケイヤはセイジが何をしようとしているか理解した。


 直ぐにその場から離れて、小石が飛んできた場所。つまりセイジの下へと行く。


 一連の行動に戸惑う男。しかし、攻撃をする選択は変わらない。続けて剣を振るう。


 その瞬間に、小石が着地した林から蔓が勢いよく伸びてきた。

 この蔓はセイジとケイヤの知る蔓だ。つまり食人植物のもの。


 「小癪…!こんなもので壱心流を破れは…」

 「これだけだと思うなよ!エッフル!」


 間髪入れず、男めがけて斧を投げる。その斧はエッフルによって増える。

 2つの斧は弧を描いて男の下へ。彼には食人植物と斧、2つの脅威が襲いかかる。


 だが、それだけではない。

 「でかした!セイジ!」


 一度下がったケイヤは、隙の出来た男の下へと駆け寄る。これで脅威は3つ。

 そして、七林はケイヤの独壇場と言える。


 凶暴な食人植物を物ともせず、むしろ利用していく。蔓に乗って速度を上げたケイヤは、そのまま剣を男へ振るう。


 対処も出来ぬまま男は、攻撃を受けて倒れてしまうのだった。


――――――――――――――――――――――――

 「よし、これだけ縛れば問題ないだろう。」

 「だな。」

 

 気絶した男を縛りあげて2人は一息つく。


 「にしても良い縛りっぷりだなぁ!」

 「雑誌を束ねる術が役立ったようだな…」


 日頃の雑務のお陰だ。実際に関係あるかは不明だが。

 

 「縛ったのは良いがどうする?顔に落書きでもしておくか?」

 「やらねぇよ!ガキかテメェは!」

 「……………分かった………」

 「んなしょげる程か!?」


 提案を却下されたセイジ。何はともあれ、七林に現れる不審者の正体は分かったのだ。

 無事に一件落着。


 「………はっ!我は、一体何を…」

 「おっ!目ぇ覚ましたみてぇだな。」


 2人で話をしていると、件の男は目を覚ました。随分早い目覚めだ。

 一応警戒をしてケイヤに話しかける。


 「……目は合わせないほうが良いか…?」

 「縛ってっから大丈夫じゃねぇかな…」


 目を合わせると斬りかかる奴らだ。念の為気をつけたほうがいいか聞いたが、きっちり縛りあげている。

 その問題はないかもしれない。


 安心してセイジは目を合わせる。どうやら暴れる問題は生じなかった。が、別の問題が生じた。


 「………こんな縛り方をして…。我をどうするつもりだ…?」

 「「は…?」」


 「とぼけるなよ…我に辱めを受けさせるつもりだろう…くっ…」

 「くっ、じゃねぇよ!何でオメェにんなことしなきゃ何ねぇんだ!?」

 「言っておくが俺もそんな趣味はないぞ!?」


 とんでもない勘違いをしている男に、必死に2人は否定を重ねる。

 考えてもみてほしい。この場には野郎3人しか居ないのだ。


 そこで、男が男を縛りあげて辱めを、なんて最悪の絵面でしかない。


 「……と、我を安心させて、」

 「だからしねえって言ってんだろ!?」


 くどい男にケイヤは怒鳴る。どうして頑なに考えを変えないのか。

 その疑問に答えるように、男は困惑を見せて口を開く。


 「ならば何故我に手加減をした?」

 「…あ?」


 「貴様の攻撃は全て鞘のままであった。何故刀を抜かなかったのだ?」


 見つめられるケイヤ。彼はさも当然だと言いたげにやすやすと語る。


 「何故って、人相手に、んな物騒な考え持つやつはオメェ達、壱心流の輩ぐれぇだぞ。」

 

 セイジも是には同意だ。魔物ならいざ知ららず、人を相手に殺傷沙汰というのは恐ろしい。


 「俺達ぁ、この辺に怪しい奴がいるっつうんでここに来たんだ。オメェの流儀を否定はしねぇが、他所でやってくれ。」


 「………そうか。分かった。」

 「随分すんなり聞くのだな。」


 驚くセイジに男は続ける。眉尻を下げて、肩をすぼめつつ2人を見る。


 「……貞操は守りたいのでな…」

 「オメェ話聞いてたか!?」


 とんでもない勘違いは依然健在のままではあったが、何はともあれ、ケイヤの受けた依頼達成だ。

 


 

 

 

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