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黒曜石の呪縛  作者: 紗 織
本編
14/129

<第14話> 町の定食屋さん

「注文は決まりましたか?」

 女性がメモを手に持って、人の良さそうな明るい声で注文を聞いてきた。


「鯖の漬け丼定食を1つお願いします。」

 僕は、迷わず注文をした。



「鯖の漬け丼定食1つ入りました。」


 女性は、メモを取りながらカウンターの奥にいる女性に注文を大きな声で伝えていた。




 定食を待つ間に、海の水面がキラキラと輝き、島が見える風景をのんびりと眺めていた。


 そして近くに見えるあの島に行こうと思うと、やはり船が必要なんだよなぁと改めて思っていた。




「やっぱりなっちゃんの漬け丼は上手い。


仕事終わりに、ビールと漬け丼を食うのは、いつでも最高の組み合わせだな。」



 隣のテーブルの男性二人の会話が聞こえて来た。


「今日の鯖は、脂がのっていて漬けがキラキラ輝いているよな。


大きな鯖が大量に取れた実に気持ちの良い漁だった。」



「ああ。


 今日は天気も漁場も良かったよな。

 あのポイントは、お前の読みが的中したな。」


「そうだな。」


 そう答えると男は、気持ち良さそうに、ビールをグイっと飲んでいた。



「お待たせしました。

 鯖の漬け丼定食です。」


 僕の席に定食を女性が運んで来た。

 先程の注文を聞いてきた女性では無かった。



「おう、なっちゃん。こっちに出て来られるようになったんだな。

 落着いたのかい?」

 

 隣のテーブルの男が女性に声を掛けていた。


「そうね。

 それに今日の漬けも残りが少しになったから、ランチ自体がもうちょっとでおしまいなのよね。


 義夫君。今日の鯖、すごく良かったわよ。いつもありがとうね。」


 なっちゃんが笑顔で言った。



「義夫は、いつもなっちゃんの店の分の魚を別に取り置いているからな。


 他の魚のように市場に卸してしまったら、あの鯖をあの値段で手に入れるのは難しいと思うよ。


 まぁ、義夫の船位大きな漁船じゃないとそんな事は出来ないよな。」


もう一人の男性が言った。



「義夫君、ありがとうね。本当に助かっているわ。


でも、達也君の船も十分大きいじゃない。

二人とも市場の期待する若手の漁師なんだから、これからもがんばってね。」



「俺らが若手かよ。


もう40過ぎだぞ、全く。」

達也が笑いながら答えた。




「うわ、美味しい。」

僕は、一口食べた後に、つい声に出して感想を言ってしまった。



「だろっ、兄ちゃん。良く分かってるな。」

笑顔で義夫が話しかけて来てくれた。



「はい。甘いみりん醤油にゴマ油や生姜の味も染みていて、漬けが本当に美味しいですよ。」


「あら、お兄さん食レポが随分上手ね。そんな風に褒められると、なんだか照れちゃうわ。」

なっちゃんがそう笑顔で答えて、義夫に軽く会釈をしてカウンターの中に戻っていった。



「おや。兄ちゃんは旅行者かい?


恰好がお洒落だ。」

義夫が僕に話しかけて来た。


「あっ、はい。

今、大学の卒業旅行でこの辺りを旅行しているんです。


いい所ですよね。」

僕は答えた。



「ははは、ありがとうよ。


兄ちゃん、卒業旅行ってことは、春から社会人か?」



「はい。

おかげ様でなんとか希望の職場から内定を頂きました。」


「そうか、そりゃあ良かったな。

それは家から通える所か?」


「はい。」


「そりゃぁ、親孝行したな。


兄ちゃん、うちの町は若い者が働きたい所が少ないらしいんだよ。


最近、若い奴らは、うちから出て行くばっかりだからな。


住みにくい田舎なんだとよ。



兄ちゃんのようにたまに旅行に来る位がちょうどいいのかもしれないな。」

義夫が寂しそうに答えた。


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