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05 雑貨屋の中の戦争


 人で混雑する商業地区の大通り。その中の一つに雑貨屋はあった。

 ここに着くまでに鳥のフンが直撃したアンラックは洗った髪がまだ濡れている。濡れ髪のアンラックによる誘導で到着したその店は、店前にかわいらしい小物が並べられていた。そこでは少女たちが小物を手に取り意見を述べ、笑い合っている。


 採光に気を使ったと思われるその店内は、明るくかわいらしい印象を与える。

 私たちは露店で購入したバナナをもしゃもしゃ食べながら店内を軽く一回りした。目を引くものは入り口付近に置かれ、奥に行くほど売れ残りなのだろうか、統一性がなくなり、雑多で混沌とした印象になっていく。

 全体としては女性客をターゲットにした店なのだろう。


 ちなみにバナナは何故か犬に追いかけられたアンラックがぶつかって崩してしまったものを、犬の飼い主と折半で購入し分け合ったものだ。傷のついたバナナは傷みやすくなるから仕方がない。すぐに食べれば大した問題もないしな。

 

 アンラックとロイゼルは店主に話しかける。落とし物がなかったかという問いに対して、店主は閉店後の清掃時にはなかったと言う。

 ふと中央に飾られた光の五大神の彫像が視界に入る。それぞれの神像は手のひら程の大きさで、Vの字に並べられている。先頭に『正義の神』、2列目に『戦の神』と『豊穣の神』、後列に『水の神』と『知識の神』。


 全く分かっていない配置である。好戦的な順かな? 偉大な順に並べるべきだろう。


「オイ! この配置はおかしいZE。『芸術の神』が置かれてないYO!」

「まあ『芸術の神』は小神だからな」


 興奮して鼻息の荒いJJに対して、私は冷静に答えを返す。JJは納得のいかない様子で、売り物の木材を掴み「これを売ってくれ」と店主に代金を支払うと、プンスカと体を揺らしながら店の外に出ていく。

 ティントはバナナを(くわ)えたままJJを無感情に見上げていた。肉食の鳥が獲物を飲み込むときみたいだ。ティントは飲み込んでいるわけではないけど。


 私は『知識の神』の像を先頭に置き、2列目に『豊穣の神』と『水の神』、後列に『正義の神』と『戦の神』を置く。


「こうかな? いや、まだしっくりこないなあ」


 偉大さを考えるなら『正義の神』と『戦の神』は『知識の神』の台座ぐらいでいいな。

 台座は仰向(あおむ)けと(うつぶ)せ、どちらが良いだろう? 私は色々と置き換え、思考錯誤を繰り返す。

 背後からは冷たい視線を感じる。バナナを咥えたティントは既に私から距離を取り、別の商品棚を見ている。

 となると、この視線は誰だ?


「こういった行為は褒められたものではありませんね」


 疑問を持ったのとほぼ同時に、よく通る爽やかで、私にとっては不快な声が耳元で発せられる。振り向くとパリッとした『正義の神』の神官衣を着こなす、髪をぴっちりと整え鼻筋の通った好青年が一部の隙も無く立っている。

 人間臭さのない不快な男だ。


「何か触れるような法が新たにできたのかな? センティモ」


 私は挑発するようにセンティモに顔を寄せるが、センティモは後ずさり私を手で制する。


「法には触れませんが礼に失した行いです。そのようなことが争いの火種になるんですよ。それに女性がチンピラみたいに挑発するものではありません、きちんと自覚を持ってほしいものですね」


 まるで私が『知識の神』の神官たちの品位を下げているかのような言い草だな。

 ……それはさておき、こう言われると像を元に戻したくない気持ちは強まる。でも台座にするのはさすがに大人げないというか、まあ、あまりよろしくないので『知識の神』を先頭に置くだけにしておく。


「なぜそこまで『正義の神』に敵愾心(てきがいしん)を抱くんですか?」


 教師が聞き分けのない生徒に呆れたような口振りでセンティモは尋ねてくる。その様子に私はさすがに腹が立ってきた。


「『正義の神』の信者が焚書(ふんしょ)するからに決まってるでしょうが! 前にも言ったことあるから。ちゃんと覚えておけ」


 センティモは細い顎に軽く手を当て、ゆっくりと思案する。


「確かに前にも聞きましたね。こちらの意見も以前と変わりません。邪悪な考えは人の目に触れるべきではないですからね。〈邪書〉と認定されたものは焚書されても仕方のないことです。魔神との大戦のような事態を二度と招くわけにはいきませんから。信者個人の判断で焚書が行われるのは由々しき問題なので対処しています」


「だから焚書自体が解決策にはならないんだよ! 人の目に触れさせたくないなら、開示せずに秘匿しておけ。焚書は実際に在ることを無かった(てい)にするだけだ。在ることを認めて対処しない限り解決なんてないんだよ」


 焚書は恥ずべき行為だ。人が進もうとする意志に対し、逆行する行いだ。

 これをやめない限り、私が現状の『正義の神』の神殿の方針を認めることはない。


「それでも人々の安全を守るため、リスクを減らすために、必要な措置だというのが私の意見です。以前と変わらず平行線ですね。半年ぶりだというのに挨拶が遅れました。お久しぶりです、L」


 センティモはそこで表情を緩め、爽やかに微笑みかけてくる。柔らかな眼差しに輝く白い歯、実に私の不快感を煽ってくる。

 だがまあ、こいつ自身が悪い奴という訳ではない。私の好みの問題だ。


「お前みたいな頭のクソ固い不愉快な奴がいるから、この国の政治が腐敗しないということは認めてやる。久しぶりだな、センティモ。順調に出世してるみたいだな」


 神殿同士の付き合いの関係でセンティモとは10才の頃からの顔見知りだ。当時から爽やかな好青年然としていたが意見が(ことごと)く合わなかった。

 それは今でも変わらない。


 センティモは頭のクソ固い『正義の神』の神官共が牛耳っている司法庁で執行官をしている。正義の神の神殿でも最も清廉潔白で悪を許さない、高位の司祭であり司法長官でもあるフェルディナント卿のお気に入りのようだ。

 賄賂などクソの役にも立たない『正義の神』の狂信者は、こういう仕事に向いている。人情が無いわけではないしな。


「上から言ってきますね。一応私の方が2つ年上だったかと思いますが。LもJJも神殿の有望株だと思っていたのですが、そちらは出世ではなく明後日の方向に突き進んでいるようですね」


「主流派じゃないからな。だが私自身は分かっている、『知識の神』に愛されていることを。それで万事問題はない」


 重要なことは神を愛し、愛されていること。それに自分が何を求め、何ができるのか。地位などは目的のため必要となることはあっても、それ自体が目的とはなりえない。

 私の目的は世界中を巡り知識を得る事なのだから、過度な地位はむしろ足枷だ。まあ地位を上げたいと思っても、上げられないけどな。


「よし、できた!」


 店の入り口から深みのある低い声が響き、JJがこちらに向かって駆け込んでくる。その手には精巧に彫られた木像が握られている。


「お、センティモもいるのか。気付かなかったZE! 調子良さそうだな、お前の記事読んだZE」


「木を彫るのに集中していたようなので、声はかけませんでした、失礼。それと私の記事ではないですよ。司法庁の見解を話せる人間で手が空いているのが、私しかいなかっただけです。」


「へー、そっかー」


 謙遜するセンティモを軽く流し、JJは彫った木像を並ぶ神像の中央に置く。

 置かれた木像は『芸術の神』の神像だ。朗々と歌う姿を(かたど)ったその像は並ぶ神像の中でも際立つ。


「それはずるくない?」


「まあまあ、他の神々にも用意したから」


 私の苦言にJJは明るく答えると、木で彫られた様々な楽器を取り出す。そしてそれらを神像の手に持たせていく。

 楽器は神々の手にぴたりと収まっていく。最初に見たときに手の位置や幅をしっかり確認していたんだな。


「って、オイ! 五大神をバックバンドみたいにするな!」

「そうですよ! これでは光の五大神を讃える像だったのが、『芸術の神』を讃えるための物になってしまうではないですか!」


 顔を赤くして興奮するセンティモと私に、JJは鼻の穴を広げて勝ち誇った顔を見せてくる。


 こいつ、許せねぇ。


「いや、お客さんお客さん」


 そこに抑えてはいるが、怒気を孕んだ声が響く。振り返ると腕を組んだ店主が青筋を立てていた。


「商品なんで、勝手に(いじ)るのはやめてもらえませんかねえ」


 勢いを失った私たちは「すみません」と店主に謝って、五大神の神像を元の位置へと戻した。



8月多忙につき、次の投稿は遅れてしまうかもしれません。申し訳ありません。

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