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02 幸運、不運は表裏一体


 4頭立ての乗合馬車は面白い形をしていた。(ほろ)馬車ではなく箱型で天井にも人が多く乗れるようにしてある。新たに開発したモデルで、人の往復が多いオウルシティとテトラフォルカ間専用に試運行しているんだ、と青年の御者は言う。

 その分1階部分は狭く天井も低く窮屈だ。体の大きいシェーラとJJはいくら縮こまっても席に収まらず、天井の上に部分に乗るしかない。天井は天井で手すりは付いているとはいえ、大きく揺れたときなどは振り落とされないように気を付ける必要がある。

 物珍しさに()かれて乗ってみたはいいものの、乗り心地は最悪だった。効率を求めるのはいいが、それだけでは駄目だっていう好例だな。


 最初は天井上からの景色を楽しんだものの、砂埃(すなぼこり)は酷いし自由に動ける幅はないし、すぐに閉口した。街道の宿場に泊まる際、ここまででいいと御者に告げ、そこから半日の行程は歩いていくことにしたのだ。


「全くLがあんな馬車に乗りたいなんて言うから、ひどい目に遭ったわ」


 整地された街道をとことこ歩くちっちゃなエルフ。吹きつける風に美しい緑がかった金髪をかき混ぜられて、大きな目をしばたたかせたティントは不服そうに唇を尖らせる。

 空は青く澄み、すじ雲が走る。最近は雨が少なかったせいか、街道周辺の草花は例年に比べるとまばらに思える。今日は少々風は強く、砂の匂いがするが、歩くには良い天候だ。


「初めて見たものを試さない人は『知識の神』の神官失格だから仕方ないね」


 おざなりな返事をした私は、自分が扱いやすいように持ち手を調整した赤い魔法の盾を、様々な角度で構え動かし確認する。非常に重心が取りやすくスムーズに動く。かなり大きさに差があるのに普段使っている小型盾と負担がほとんど変わらない。

 いやあ、魔法の武具ってやっぱりすごいなあ。その辺の冒険者では手を出せない値段をしているだけのことはある。


「いや、きちんと知らべればそれでいいだろ。ってか盾に夢中だな。そんなに気に入った?」

「すごくいいよ。まあ高く売れるなら売るけどね」


 両手を頭の後ろに回しリラックスした姿勢を取りながらも、ロイゼルは視線を細かく動かし周囲の警戒は怠らない。


「そんなことより歌おうZE! 歌う門には福来るってな!」


 JJは巨体を揺さぶりターンを決めて提案する。

 ティントは長い髪を指に巻き付けながら、呆れた顔でJJを見る。


「そんな言葉ないわよ」

「HEY! ワーンダリング、ワーンダリング」

「「「「ヤッホー、ヤッホー」」」」


 おお、綺麗にハモった。思い思いの音階で歌った結果、高音低音といい感じに散らばったな。とても気持ちがいい。

 なんだかんだで皆歌うのであった。シェーラも目で歌ってた。間違いない。

 今日もいい日になりそうな予感。


「ちょっと待て、向こうから何か来る」


 ロイゼルが道の先を指さす。こちらに向かって土埃を立てて走ってくる人と豆粒ほどに見える飛んでいる魔物。ワイバーンか? 街道のワイバーンはもう退治され、安全宣言が出されたはずだが。


「助けるわよ」


 ティントの声が街道に響く。言われるまでもなく皆走り出している。

 風を切る心地よい感覚と共に走って来る人が大きくなってくる。年若い男性のようだ。目立った武装等はしていなそうだ。

 飛んでいる魔物も全形が見えてきた。迫りつつあるともいう。竜に似た姿の空を舞う爬虫類。ワイバーンに間違いない。

 竜によく間違われる生き物だが実際は全く違う。知能は低くでかいだけの空飛ぶトカゲだ。まあ、そのでかくて飛ぶというのがとても厄介なのだが。


「うわあぁ、助けてくださいぃ!」


 手足を振り乱し、必死に逃げ惑う青年。青年がワイバーンに追いつかれる前になんとか辿り着くと、彼を私たちの背後にかばう。

 シェーラが前に躍り出る。重心を低くし、攻撃を受け流せるよう両手剣をどっしりと構える。その後ろにロイゼルが続き、あらゆる動きに対応できるよう軽快に身構える。

 ティントとJJは詠唱を始め、私は青年を庇うよう盾と戦槌を構える。


 ワイバーンはシェーラを無視し私の方に突っ込んでくる。やはり青年に狙われる原因があるのだろうか。

 シェーラが咄嗟にワイバーンの尾を斬り飛ばすも、その動きは止まらない。

 私は青年を抱えて転がる。ごおと風が唸り私に叩き付けられる。衝撃に着衣が波打つが、すんでのところで体当たりはかわせた。私は追撃を警戒し、急いで起き上がる。

 ワイバーンは無数の傷を作りながら転ぶように地に降り立つ。そして再び羽ばたきながらこちらへ向かってくる。


 なんて無茶な攻撃をしてくるんだ! ワイバーン自身も傷だらけじゃないか。こんな戦い方をする生物だっただろうか。

 追うシェーラに腹を裂かれながらも、ワイバーンはその鉤爪を私に振るう。私は死に物狂いでその爪を盾で受け止める。重い衝撃に肩が外れそうだ。


 JJとティントに【呪弾】と【石弾】を撃ち込まれ、ワイバーンの肉が弾け血が飛び散る。さらにロイゼルのダガーがその目に突き刺さる。

 だがワイバーンは痛みに苦しみながらも、その頭を私に向けてぶつけてくる。正面から盾で受け止めた私はその威力に跳ね飛ばされ、天がひっくり返る。

 受け身を取らなければ! 視界が回転する中、体を丸め頭を庇う。右肩から大地に落ち、ゴギリと嫌な音がする。

 痛みに目がチカチカする。だが次の攻撃に備え、急いでワイバーンを探す。

 視界に捉えたワイバーンはその伸ばした首をシェーラに斬り飛ばされていた。 


「いったたた、肩外れた。シェーラ入れてもらえる?」


 シェーラは急いで私に近づき、ゴギリと鎖骨をずらし肩を入れる。

 私は痛みに苦悶し、大地に足裏を叩きつけながら、【治癒】の奇蹟を神に請う。

 柔らかな光に包まれ、痛みが引いていく。私は「よっ」と跳ね起き、肩が完治しているのを確認。取り落した戦槌を拾う。


「いや、危ない所だった。いつもの小型盾だったら耐えられなかっただろうな。それにしても青年は何でここまでワイバーンに狙われてたんだ?」


 あわあわと震えている青年の肩に私が手を置く。するとJJが頬を掻き苦笑を浮かべて話しかけてくる。


「あー、言いづらいんだが……。今の戦いを後ろから見ていて分かったんだ。盾からワイバーンに向けて魔力が放たれていてな、それでLが狙われたみたいだ」


 …………。


「……お前のせいかーい!」


 私はワイバーンの攻撃でも傷一つ付いていないその赤い盾を、大地に思い切り叩き付けた。



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