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09 土エルフは皆に情報を伝える


 ティントは奥側中央の椅子にトンと座り、両腕を大きく広げ、皆を促す。


「皆さん席についてくださーい。はーい、ちゅうもーく」


 それぞれが席に着く、ロイゼルはテーブルに座っているが。思春期はそういう場所を好むものだ。

 ティントは満足げに頷くと話し始める。


「ジジババの話は長くて苦痛だったけど、魔神を実際に見たジジイがいたから、しっかり聞いておいたわ。魔神は身長3m前後、力が強くて空から降りて来ては騎士を他の騎士に投げつけたりしてたそうよ。魔法で吹雪を起こしてたけど、精霊の力は使ってなかったから、おそらく古代魔法みたいね。人型だから発声器官は備わってるみたいで、なんかよくわからない言葉で喋っていたって。他には【防壁】の魔法で攻撃を防いでいたみたいで弓矢は弾かれていたそうよ。ジジイは途中で話が変わるから聞くの苦労したわ。疲れた疲れた」


 ティントは褒めてほしそうな顔をして体を揺すっているので、頭を撫でておく。ティントは「お姉さんを子ども扱いするんじゃない」と言いつつ、目を細めて口元を緩めた。

 その姿勢のまま、私は戦闘の作戦について議論を始める。


「【防壁】の魔法は少し厄介だな、シェーラの一撃を防ぐほど強固なことはないだろうけど。JJ、【解呪】できる?」


「【防壁】は俺も使えるから理論上は【解呪】できるんだが、相手の技量次第だな。まあ、簡単ではない。それに魔神が【吹雪】を使ってくるのだから、俺は【防壁】と【抗魔】を使う必要があるだろう。全員に使うと魔力を大部分持っていかれるぞ。Lの方は【治癒】をどれだけ使える?」


 JJは見た目の通り強固な肉体を持ち、またそれに比例するように強大な魔力を持っている、素質の塊みたいな男だ。それでも全力で味方の護りを固めると消耗する魔力は甚大だ。


「私は皆に広域化した【治癒】をかけるのは2度でもきついな。2度目は全員には使えないだろう」


 私は鍛えた肉体を持ち、賢く美しい少女だが、魔力は人並み程度しかない。私の数少ない弱点である。魔法に限らず、神の奇蹟をこの地に呼び込むためには、やはり魔力を必要とするのだ。


「私は戦闘に参加しないわよー。ちゃんと人数から除いてるでしょうね?

 私の嫌な予感は当たるから、絶対に参加しないんだからね」


 ティントはテーブルにむにゅむにゅと突っ伏しながら念を押す。実際のところティントが【吹雪】に耐えるのは厳しいかもしれない。体が小さい方が凍傷にもなりやすいし。


「そうなると、短期決戦でやるしかないから、如何にシェーラが魔神に致命傷を与えるかの勝負だな。僕はうまく魔神の注意を引いて、シェーラが一撃を決めやすいように動くよ」


「魔神は肉弾戦も強いようだから捕まらないように、無理をしないこと」


 注意を促す私に、ロイゼルは当然だという様子でいつもの調子を崩さない。


「【防壁】の魔法がかかっている間は魔神に僕の短剣は通らないだろうし、無理なんかしないさ」


 ロイゼルはテーブルの上で胡坐(あぐら)をかき、ナイフをくるくると(もてあそ)ぶ。

 ロイゼルは投擲用ダガーや近接用のボウイナイフなど種々の短剣を使いこなすが、どれも魔神に致命傷を与えるのは難しいだろう。今回は攪乱に専念してもらわねば。


「魔神は3mの巨体なのも単純ながら問題だな。魔神の体の構造は正確には分からないが、ティントの話からも、やはり首を落とせば倒せるとみていいと思う」


「……(私が魔神の脚を切り落として、それから首を刎ねればいい)」


 穏やかな湖面のようなシェーラの瞳は静謐(せいひつ)(たた)えながら、そう語る。


「それがベストだね。おそらく飛ばれないとは思うけど、万一に備えて弓も持っておこう。【防壁】を解除できれば通るんじゃないかな?」


 シェーラは武芸百般に通じている。自分の肉体とパーティーでの戦い方に合っている両手剣を主に用いているが、場所や状況に応じて武器を持ち替えることもある。強弓を射れば鉄板も容易く貫く。


「……(分かった、一応持っていく)」


 シェーラは頷きつつ目で語る。


 基本的な方針は決まったか。

 JJに封印のホールの図を出してもらい、テーブルの上に置く。


「具体的に作戦を立てていこう。月が頂点に達するとき、魔神が出現すると分かっていても、タイミングをピッタリ合わせて護りの魔法をかけておくのは無理だろう。効果時間の問題がある。

 ビードは魔神が出現する寸前にその場所に陣が浮かぶと言っていた。それを合図に動く」


 私はティントのさらさらした髪を撫でるのをやめ、立ち上がると、バンッとテーブルに手をつく。

 その音にティントがびくりと震える。

 JJは私の言葉を継ぎ、顎を撫でながら会話を続ける。


「最初に【抗魔】からかけるぞ。【吹雪】を使われたら、かわしようがないからな。魔法を受けたら意志を強く持て。体内の魔力が魔法による体の変調を阻害する。【抗魔】はそれの手助けだ」


 私たち冒険者にとっては周知の事実だが、JJは敢えて言うことで、より意識をするよう促す。


「その次に【防壁】をかける。だから魔神の攻撃を受けないように注意しろよ」


「……(出現した瞬間は魔神にも隙があるはず、そこは(のが)せない)」


 皆を見回し目で伝える、シェーラの信条は先手必勝。

 真剣勝負では先に傷を負った方が不利になるのだから、当然の考えともいえる。


「僕が魔神の最初の状態を見て、ナイフを投げるなり、シェーラより先に突っ込むなりして注意をそらすよ。大丈夫、安全策をとるから」


 ロイゼルはニッと白い歯を見せるとそう言い、シェーラに賛同する。

 指は二人の動きを想定するようにホールの図の上をなぞる。整った顔立ちとは対照的な、苦労の見える武骨な指だ。だが、こういう指こそ美しいと私は思う。


「私は今回は積極的に前には出られないな。【治癒】の奇蹟を使うのが最優先だ。魔神が『芸術の神』の神官たちに襲い掛かるようなら止めに入るが」


「……(絶対に私が魔神を後ろに行かせはしない)」


 私の発言に対し、シェーラが炎を噴き出さんばかりの力強い視線を向けてくる。頼もしい限りだ。

 

「『芸術の神』の神官たちのことは気にしないでいいぞ。歌や演奏の間それが魔神に対する障壁になるそうだから。魔神はそうそう有効打を与えられないはずだ。

 だから俺たちは魔神を倒すことに集中すればいい!」


 JJの言葉に皆が頷く。

 私はホールの図を指し示し、皆の位置取りや動きをいくつものパターンで確認する。


「よし、これでいいな! あとは状況次第で臨機応変に行くぞ!」


 私たちは長い付き合いだ。子供の頃から様々な連携を取ってきている。なので、きっちり動きを指定するよりも流れに任せた方が万事うまくいく。


「……(バウディス先生の道場で調整させてもらおう)」


 シェーラが瞳で語りかけると、皆賛同し立ち上がる。


「おー、決まったわね。私は参加しないからあなたたちで頑張るのよー」


 ティントが片方の頬をテーブルに付けたまま、もにゅもにゅと言ってくるので、私は「ボーノォォォ!」と言いながら、ぷにぷにした柔らかい逆の頬を人差し指でぐりぐりと押してやった。




6/15 ラノベの基本ルールに反した書き方をしていることに気付いたので修正しました。

  ルール、文章の誤りなどをご指摘いただけると大変ありがたいです。

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