第57話 国王には御見通し?ストーカー犯として即刻逮捕してください!
「薔薇妃様!どちらに行かれてたのですか、こんな時間まで!」
薔薇妃の間に帰るやいなや、カエラからおしかりを受けるジュリア。
「あ・・えーっと、ちょっと他のご側室方と交流を深めていたのですわ。」
その圧に推されて、引くつきながら答えるジュリア。
「本日は陛下の御渡りがあることをお伝えしていたではありませんか!ちゃんと定刻までにお戻りになられませんと、私どもが困ります!!」
「え?でもまだ5分くらいしか過ぎていませんわよ?」
チラリと時計を見るジュリアだがずいと近づいてきたカエラによって時計が見えなくなった。
「5分でも遅刻は遅刻です!既に陛下は10分前に到着され寝室でお待ちです!薔薇妃様をお待ちする間、私どもがどれだけ気をもんだか・・。薔薇妃様がいらっしゃらない事を知った陛下の機嫌の悪さと言ったら、魔王も驚くほどの怖さですよ!」
「えー・・・。あ!わたくし用事を思い出しましたわ。ちょっと出てきますわね?」
機嫌の悪い国王というのを聞き、逃げ出そうと思ったジュリアがクルリと向きを変え、扉に向かおうとするが、行く手をルカとミランダの若手コンビが阻む。
「そうは行きませんよ、薔薇妃様。」
「そうです!1人だけ逃げようたってそんなことさせるもんですか!」
いつになくジュリアに反抗する彼女たちはよっぽどご機嫌斜めなエドワードが怖いのだろう。絶対にここを通す気がないと、顔に書いてある。
「ルカにミランダ、わたくしは薔薇妃なのですよ?わたくしの行く手を阻むなど、無礼だとは思いませんの?」
ここ一番の怖い顔でルカたちを見るジュリア。
「ひっ・・こわい・・。でも、あの陛下に比べたらまだ薔薇妃様の方がましです!」
「私たちにあの陛下の相手は無理ですよ!観念してください!」
自分なりにかなり怖い顔をしたと思うのだが、そんな自分と比べても考えるまでもなく怖いと言われたエドワードになんて、絶対に会いたくないとジュリアは何が何でもここから出ようと無理やり2人を押しのけようとしたが。
「やぁ、薔薇妃。私を置いてどこに行こうというんだい?」
背後から聞こえた脳を震わせるような美声にぴきーんと固まってしまったジュリア。
「私を待たせるなんて、随分悪い子になったなぁと思っていたら、今度は私を置き去りにして外出しようとするなんて・・・。お仕置きが必要かな?」
ゆっくりとジュリアに近づいてきて、そっとジュリアの頬を撫でるエドワード。
「へ、陛下・・。お久しぶりですわね。ご機嫌麗しゅうお過ごしでしたでしょうか?」
表情筋を駆使して精一杯の笑顔を見せるジュリア。
「君に会えていなかったというのに、麗しい訳がないだろう?食事もろくに喉が通らなかったよ。」
「そ、それは大変ですわね。ご気分がよろしくないのであれば、もう今日はお帰りになった方がよろしいのではございませんか?」
というか、お願いだから帰ってほしいと切に願うジュリア。だが、エドワードが大人しく変えるわけもなく、
「今帰ってしまったらますます具合が悪くなってしまうよ。大丈夫、君が優しく口づけしてくれたなら、すぐによくなるから。」
顔を近づけるエドワードを何とか押しのけ、後方に逃げるジュリア。
「いけませんわ、陛下。体調がよろしくない時にそのようなことをなされては。フレイヤ、陛下は体調があまり芳しくないご様子なので、ベッドまでお運びして下さる?」
ここは先に身動きを封じるに限る!とジュリアは後方に控えるガチムチ系のオカマ侍女に声を掛けた。
「えー・・。仕方ねぇなー。」
頭をポリポリと掻きながらフレイムはしぶしぶエドワードに近づき、そしてそれはそれは見事な御姫様抱っこを披露した。
「おい!何をする!?下ろせ!!無礼だろう!」
突然の御姫様抱っこにもちろんエドワードは抵抗したが、ガチムチ系オカマ侍女にかなわず、そのまま寝室へと運ばれていった。
「ば、薔薇妃様。陛下にあのようなことを為さってよろしいのでしょうか?」
呆気にとられていたカエラが心配そうに尋ねた。
「何をでしょうか。わたくしは陛下が具合が悪そうでしたので、気を使ってフレイヤにお運びするよう申し付けただけですわ。後宮に仕える側室として、陛下の身体を心配するのは当然の事ですもの。」
いや、その方法が問題なのでは?とつい言ってしまいそうになる口を頑張って閉じる女官達。
「ではわたくしは陛下とお話して参りますので、今日は寝室の外にパメラだけ控えていて、あとはおさがりになって結構ですわ。」
そのままジュリアは1人、先に行ったフレイムとエドワードの後を追い、寝室へと入っていった。
「薔薇妃、何故このような不気味な生物を作ってしまったんだい?」
ジュリアが寝室に入るやいなや、エドワードがフレイムを指してそう言った。
「陛下、失礼ですわよ!それにアレを作ったのはわたくしではございませんわ!フレイムが変身しただけですもの。」
「おい!俺だって好きでこの格好をしている訳じゃない!もっと美人に化けれるのを、お前がこの格好にしろと言ったんだろう?」
「フレイム、何度も言いますが、今は良くてオカマ。前の姿はよくてゴリラですのよ?いい加減、気づいたらどうなのですか?」
もう何回目だろうか、このやり取りはと、うんざりするジュリア。
「どっちでもいいから、早くその気色悪い姿をどうにかしてくれないか。」
本気で吐きそうになっているエドワードのため、フレイムは元の小さい男の妖精姿に戻った
『あー。やっぱこっちが楽だなー。』
思いっきり伸びをしてプカプカ浮いているフレイムは本当にリラックスしている。よっぽどあの姿は気が張るのだろうか。
「それにしましても陛下、しばらく御姿を拝見できませんでしたのは、やはり政務が溜っていたから、ということでしょうか?」
別にエドワードのことなどどうでもよいのだが、ある程度は状況を把握していないと後手に回ってしまうため、聞いてみた。
「うーん。それも多少はあるけど、ほとんどの仕事は行幸の前に片付けておいたからね。私が手間取っていたのは、王位返納の件についてだよ。」
「え?」
何故もうそのワードが出るのかと、ジュリアは本気で驚いている。
「へ、陛下。それは1年後の計画と伺っていましたが、まだ動くのは早いのではございませんか?」
その1年の間に、ジュリアは先に後宮を出て、エドワードの手の及ばない国へ逃げようとしていたのに。冒険者ギルドは国の管理下にない独立した機関なので、犯罪者でもなければ冒険者ギルドに登録するだけである程度の国へは行き来出来る。ジュリアさえ、先にいなくなり、他国へ逃げ延びれば、エドワードも諦めて、譲位するという馬鹿な考えは改めるだろうと思っていたのだ。
「うん。でも、一応出来るだけ早く動いた方がいいかなと。宰相のダミアンには行幸前に打診はしてあったし、後は草案を完璧に仕上げて提出するだけなんだけどね。有無を言わせず可決させるために色々と試行錯誤しているところだよ。まー、上手くいけば年末までには確定するかな。」
「ね、年末、ですか・・。」
今がもう7月の初め。年末となるとあと5ヶ月くらいしかない。確かにもうその頃にはシャーロットは出産しているころだろうと思うが。
「あ、あまり性急に動かれない方がよろしいかと思いますわ。もう少し、慎重に動いてはいかかでしょうか。」
必死にエドワードの説得を試みるも、エドワードが頷く訳がない。
「そんな悠長なことをしている内に、私以外の不届き物が勝手に籠を開け放ってしまうかもしれないだろう?・・たとえば、薔薇妃が今日密会していた黒装束の男とか。」
獲物を射抜くような鋭い光を瞳に宿し、ジュリアを見据えるエドワードに、ジュリアは思わず息を飲んだ。
「み、密会だなんて、嫌ですわ。陛下と一緒に会う約束をしていたではありませんか。」
「ごまかさなくても知っているんだよ?今日百合妃と藤妃と共にあのシノブとかいう輩と会っていただろう?」
(な、何故知っていますのー?!)
今日シノブと会うことは勿論エドワードも知っていたが、エドワードを同席させて会う、という約束だったので、エドワードが来る前に会っていたことは勿論、誰と会っていたかなどエドワードが知っているはずがないのだ。
「へ、陛下、どちらでそのことを御知りになられたのですか?」
「・・秘密だよ、薔薇妃。あまり私を舐めない方がいいね。」
綺麗な笑顔だが、ジュリアは背筋が凍り、悪寒が走った。
(す、ストーカーですわ!まぎれもなく、ストーカーですわ!!なにか、ストーキングの魔法的なものを使ったに違いありませんわ!!)
額に脂汗がじわりと滲む。
「・・・白状いたしますわ。確かに、わたくしは陛下にお会いする前に、百合妃様と藤妃様にシノブさんを引き合わせました。ですが、それは今不穏な動きを感じる後宮の現状に対抗策を講じる為ですわ。」
こうなってはどこまでエドワードが情報を掴んでいるか分からないため、極力事実に近いことを話す。
「不穏な動き?」
「えぇ。わたくしが後宮を離れている間、牡丹妃様とその周辺に何かがあったようなんですが、それを知りたくてもわたくし付きの女官は現状、女官達から仲間はずれにされているようでしたので、情報を掴むことが出来ませんでしたの。ウインド達も明確な情報をお持ちではございませんでしたし。ですので、同じ称号付きのご側室であられます、百合妃様と藤妃様と協力関係を結び、牡丹妃様が何を仕掛けてこられても対応できるようにしたかったのですわ。」
正確には牡丹妃に対抗するためではなく、ジュリアは滞りなく後宮から追い出されるようにするためだが。さすがにそこまではエドワードも知らないだろうと少しだけ事実を曲げて話した。牡丹妃に何かあったのも事実だし、カリーナとセシリアと協力関係を結ぼうとしたのも事実なので、中々ばれにくい嘘だとジュリアは確信している。
「なるほど。で、何故そのためにあのシノブとやらが必要なんだ?」
上手くジュリアの嘘に騙されてくれたのか、深く突っ込まれなくてジュリアはホッと胸をなで下ろした。
「百合妃様が倭の國に大変興味をお持ちであるということを存じておりましたので。あぁ、今お呼びいたしますわね。」
ジュリアは何もないところの空間を割き、中から嫌がるシノブを無理やり引っ張り出した。
「いってぇな!何すんだよ!!って、王様じゃん・・。」
その場にいたエドワードにすぐ気が付き、体勢を整えるシノブ。
「あぁ。1週間ぶりだな。よもや私に黙って薔薇妃とこそこそ会っているなんて思いもしなかったよ。」
「うわっ!!やっぱり王様怒ってんじゃん!だから俺会うの嫌だったんだよ!!俺、もう行くから!」
窓から逃げようとするシノブだったが後方から短剣が飛んできてシノブの服を壁に縫い付けて動けなくなってしまった。
「そのように急がずともよい。私もお前に話しがあったんだ。とりあえず、戻れ。」
明らかに背後の短剣を投げた人物は自分に殺意を向けているのが分かったので、シノブは中々振り向くことが出来ない。
「いやー、俺、急ぎの用事があるんで、ちょっと・・。」
何とか短剣を引き抜こうとするが。
「私の許しなくこの寝室から出ようとすれば、死罪だぞ。」
この国において最高権力を持つ人物からそのように言われてそれに逆らうことが出来るわけもなく、短剣を引き抜いた後しぶしぶ向きを変えてエドワードの前に座り込んだのだった。
最近いかに国王を気持ち悪くするかにこだわり始めました。




