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第36話 前フリ?そんな訳あるはずがないでしょうっ!



 大巫女の精神世界から抜け、目を覚ますと、そこには先ほどまでいなかったはずの人物が、窓辺に立っていた。

 「・・・どちら様ですか?」

 心を落ち着かせて、尋ねた。

 開かれた窓からは風が入り込み、カーテンの後ろに隠れていた人物の姿が、ふわりとカーテンが浮かび上がることで、ジュリアの目に映った。

 (・・・少年?)

 そこにいたのは、大巫女とそう変わらないくらいの姿の男の子。大巫女と同じ色の髪はくるくるとウェーブがかかっており、白い陶器のような肌に大きな赤い瞳、女の事見間違えそうなほど可憐である。

 「やぁ、こんにちわ。お早いお目覚めだね。薔薇妃。」

 「っ!!?」

 ジュリアとは面識がないはずなのに、その子はジュリアを薔薇妃と呼んだ。一気に警戒を強めるジュリア。

 「そんなに怖い顔しなくても、君にはまだ何もしないよ。―――()()まだね。」

 くすりと笑うその姿は油断をすればポーッと見とれてしまうほど可愛い。

 「それでは、貴方は何をしにこられたのですか?」

 無意識に、声に緊張がのってしまう。冷静を保とうとするのに、焦りが見え隠れする。

 「別に特に何かしに来たって訳じゃないけど、とりあえず薔薇妃の顔でも拝もうかと思ってね。それにしてもコイツ使えないなー。あの首飾りだってとってくるのに結構大変だったんだよ?本当、ゴミ以下だね!」 

 そう言って大巫女の頭を蹴り飛ばす少年をジュリアはきつく睨んだ。

 「お止めなさいっ!!今すぐその御方から離れるのです!!」

 すぐに魔法が発動できるように魔力に意識を込める。

 「おーこわ。君だってコイツの事あんまり好きじゃないはずでしょ?だったらべつにいいじゃないか。」

 「おあいにく様、わたくしはそのように小さな人間ではありませんわ。罪を犯した彼女を助けようとまでは思いませんが、そのように人の尊厳を踏みにじるような行為にはおよびませんわ!」

 ジリッと少年と大巫女の間に割り込む。

 「ふーん。ま、別にいいけど。コレも取り返したし、僕そろそろ帰るね。」

 踵を返して窓へと向かっていく少年。

 「お待ちなさい!!貴方、一体何者です?何のためにこのようなことを?」

 ジュリアの問いに少年がピタリと足を止め、くるりと振り返った。

 その顔に浮かんだ笑みは、少年のモノとは思えない。

 「その質問に答えるにはまだ早いよ、薔薇妃。君が僕たちの所へ来るというのなら、話は別だけど・・・。そうはいかないだろう?」

 「あ、当たり前ですわ。」

 必要以上に身構えてしまうジュリア。

 「でしょ?まぁそうは言ってもそう遠くないうちに、君は自ら僕たちの所へくると思うけどね。」

 「あら、どうしてかしら。わたくし別に、貴方に用なんてありませんわ。それにわたくしは薔薇妃。後宮から出ることなど許されない身ですわ。今回のように公式行事であれば別ですが。わたくしが貴方の所へ行くことは、あり得ませんわ。」

 口調は落ち着いてきたが、心はまだザワザワしている。

 (どうして、落ち着いてくれませんの?わたくしの心臓。この方に何か、懐かしさと恐怖を覚えて鼓動が早くなる一方ですわ。)

 それを悟られまいと平静を装って、少年と対峙する。

 「薔薇妃は本当に強がりだなぁ。だから皆構いたくなっちゃうのかもね。まぁ、いいさ。今は薔薇妃を演じてくれてても。僕たちにとって、後宮という存在は取るに足らないものだと、君が1番知っているはずだしね。じゃあ、バイバイ薔薇妃、またね。」

 ヒラヒラと手を振り、再び窓へと向かって行く。が、何故かまた足を止めた。

 「あ!そうそう、大事なこと忘れてたよ。」

 ポンと手を叩き、もう1度クルリと振り返り、人差し指を大巫女に向けた。

 「()()はちゃんと廃棄して来いって言われてたんだった。――えいっ。」

 言葉と表情がかみ合わない、無邪気な顔でそう言うと、人差し指から黒い光が飛び出し、大巫女を貫いた。

 「ぎいいゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!!」

 耳を(つんざ)くような悲鳴と共に、黒い炎に包まれる大巫女。

 「何をっ!!」

 咄嗟の事に動き出すのが遅れたジュリアは大巫女に駆け寄り、癒し魔法を繰り出した。

 「あー、無駄だと思うよ?もう手遅れ。じゃあ、今度こそバイバイっ。」

 それだけ言うと、少年は窓から飛び出し、すぐに姿を消した。

 少年の言った通り、ジュリアの魔法をしても、大巫女を包む黒い炎は中々消えず、やがて大巫女を焼き尽くし、灰だけになると、やっとその炎は消えた。

 「そん・・な。わたくしの力が及ばないなんて・・。」

 少なからず、自分の力に、魔力に自信を持っていたジュリアは、こと魔法に関することであれば何とかできると高を括っていた。今回、それが自惚れであったと初めて分かった。

 「・・・あれは?。」

 大巫女がいた場所、今はもう灰だけとなったが、その灰の中にキラリと光るものがあった。それを掬い、手に取る。

 「これは・・わたくしがさし上げた『聖玉せいぎょく』。これに光が灯っているということは、まだ間に合いますわ!・・ですが、急がなくては。」

 ぎゅっとその『聖玉』を握り締め、立ち上がった。が、その時、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 「薔薇妃っ!!!」

 「へ、陛下っ。」

 扉を開き現れたのはエドワード。その顔は笑顔だがご丁寧に『怒』の文字が顔に書かれているのが分かる。

 「ぅっ・・・。」

 エドワードに気を取られている間に、眠らせていた修道女たちが目を覚まそうとしていることに気づいたジュリア。

 「陛下、お話はまた後で。ちょっと、失礼いたしますわ。」

 ジュリアは急いでエドワードに駆け寄り、その手をギュッと握り締めると、亜空間への入り口を作り、エドワードを連れてその中へ入っていった。

 ジュリア達が去った後、突然姿を消した大巫女と、大巫女がいた場所に灰がつもっていることに気づいた修道女たちが慌てて辺りを探し回るのだが、大巫女が見つかることはなかった。


 

   ――――*――――*――――*――――*――――*――――*――――



 「ここが、ジュダルと特訓をしていた空間か?」

 「えぇ、そうです。わたくしの魔力の大きさで空間の広さが決まります。ここはわたくしが1ど訪れた場所ならどこからでもつなぐことが出来ますし、その場所へ出口を作ることも出来ます。」

 「へー、便利だね。で、どこに出るつもりなんだい?」

 「ここから出るのはもう少し後になりますわ。ここでわたくしやるべきことがありますの。急ぎですので、陛下もこのままお付き合いくださいませ。・・・ところで陛下。」

 「ん?なんだい?」

 「そろそろお手を御放しくださいませんか?」

 亜空間に入るときはジュリアからつないだ手だったが、いつのまにかエドワードに掴まれている形になっており、いつまでたっても離さない。

 「んー、だって薔薇妃から繋いでくれることなんて滅多にないしこのままずっと手が離れなかったらいいのになーとか思ったりして。」

 それを聞いて思いっきり手を振り払ったジュリア。

 「あはははー、冗談だよ、冗談。」

 (いいえ!目が本気でしたわ!!この御方だったら本当にやりかねませんものっ!)

 反射的に距離を置くジュリア。

 「もう、本当に可愛いな、薔薇妃は。それで、その愛しの薔薇妃はここで何をする気だい?それと、あの素敵なお人形のことも説明してくれるかな?」

 先ほどの和やかな空気から一転、エドワードが再びその笑顔とは真逆の空気を身に纏いだした。

 「の、後程説明させて頂きますので、陛下はそのままそこを動かず、黙って待っててくださいまし!」

 正直に言うと、ジュリアはそこから逃げ出したい気持ちで一杯になった。どんなに無礼を働いても怒りを見せなかったエドワードがジュリアにここまで怒りを向けるなんて。この後の事を考えると、面倒なことにしかならなさそうで、早くも自分がしでかしたことを後悔し始めた。

 (と、今はそれどころではありませんわ。一刻も早く、アレを完成させませんと!)

 慌てて思考を切り替えて、ジュリアは瞳を閉じた。

 「イザナイ花に竜人ドラグーンの鱗、バジリスクの牙にグリフォンの風切り羽、フェニックスの涙にアラクネ―の糸。」

 そう唱えると、それらが瞬時にジュリアの前に表れた。

 「それは、なんの材料だい?」

 後方でエドワードが尋ねた。

 「これから人体錬成を行います。集中しませんと失敗しますし、この量だともうあと1回しか行えません。この1回でわたくしは何としても成功させなければなりませんので、くれぐれも陛下、何もなさらず、何も話さず、そのままそこにいてくださいまし。」

 本来であればこのような精神が不安定な時に、そして誰かが傍にいて集中できなさそうな場所で行うべきではないのだ。人体錬成とはそれほど困難を極める。

 (ですが、そうも言ってられませんもの。わたくしが集中すればいいだけの話ですわ。)

 深く深呼吸をして、左手に『闇の魔力』を集めて一気に魔法陣を描き始めた。魔法陣を完成させると、次にその中心にジュリアが取り寄せた材料と、『聖玉』、そしてそれと一緒に掬ってきた大巫女の灰を置いた。

 「よし、これで準備は出来ましたわ。あとはバランスに気を付けて、わたくしの魔力を注ぐだけ・・。」

 ここが1番の正念場とばかりに気を入れなおして、魔法陣に手をかざした。

 ジュリアが手をかざすと、魔法陣は眩い光を放ち、魔法陣に置かれた材料が浮かび上がり、1つになっていく。

 (いい感じです、このまま、上手くいけば―――)

 「―――へー、そうやって創るのかー。私にも薔薇妃の人形を作ってもらえないかな。そしたら薔薇妃に会えない日も、その人形で薔薇妃を愛でられるのに。」

 「は?―――あっ!!!!」

 背後からの声に、思わず反応してしまい、集中を途切れさせてしまったジュリア。

 「まずいですわっ!!『光』の配分を間違えてしまいましたわっ!どうしたら・・・あぁ、もうっ!仕方がありませんわ。このまま進めるしかありませんもの!」

 もう材料がなくなってしまったので、失敗したと分かってはいても、そのまま続行するしかないジュリア。

 1つにまとまった材料は光を纏いながらやがて赤子の形を成し、そしてその光がそのまま赤子に吸い込まれると、魔法陣も消えてなくなった。

 「はー。なんとか形にはなりましたわね。・・それはそうと、陛下っ!!あれほど黙って頂くように申しましたのにっ!」

 汗をぬぐい、クルリと振り返ってエドワードを睨むジュリア。

 「いやー、ごめんごめん、てっきりそういうフリなのかと。」

 「・・・・・・は?フリですか?」

 意味が分からない。全くエドワードの思考についていけず、眉をひそめる。

 「そう。するな、するなって言われると、したくなるものが人間の性だろ?だから、てっきりそういう前フリなのかと思ってね。」

 「貴方様はどこの芸人なんですかっ!!このような状況で、そのようなふざけたことをわたくしがするわけございませんでしょう!?」

 「そうだよねー。いや、本当に、ごめん。」

 頭を下げるエドワードを見て、激昂していたジュリアだが、ふと冷静になりあることが頭に浮かんだ。

 (・・・冗談めかしていらっしゃいますが、絶対わざとですわ。理由は分かりませんが、わざとわたくしの邪魔をしたんですわ。)

 漠然と、その考えが浮かび、そしてその考えは正しいと何故か思ってしまう。

 (本当に大賢者様と張るくらい、何を考えているか分からない方ですわね。わたくし、敵を探ることよりもまず陛下と大賢者様をどうにかすることからした方がよいのではないでしょうか。)

 目下の敵認定が大巫女や先ほどの謎の少年、そしてジュダルが偵察中の暗殺者からエドワードとジュダルに移りつつある。

 「とりあえず、もういいですわ。さて、先ほどのミスがどれほど影響しているか確認しませんと。」

 エドワードに背を向け、錬成をした赤子の方へ向かう。

 「ところで薔薇妃。私はてっきり大巫女を錬成するのかと思ったけれど、違ったのかい?」

 訳も分からず連れてこられたはずなのに、なぜそこまで理解が早いのか、ジュリアは恐怖を感じる。

 「よくわかりましたわね。確かにアレは大巫女様を錬成するための魔法陣ですわ。ですがわたくしの力ではまだ大巫女様そのものを錬成するには未熟ですので、できたとしてもせいぜい1日程度形を保つのがやっとですわ。」

 「そうなのかい?ではあの薔薇妃の人形も?」

 晩餐会の場に残してきた偽薔薇妃のことを思い出すエドワード。

 「えぇ。アレはかなり精巧に創りましたからね。わたくしと異なる点と言えば、その姿を5時間程度しか保てない事ですわ。それ以上長く保とうとするには、色々と異なる点を増やさなければなりませんもの。」

 「へぇ。たとえば?」

 「そうですわね。たとえば、喋れなくしたり、魔力を持たせない様にしたり、髪色が違ったり、あと―――。」

 ジュリアは話ながら赤子を抱え上げた。

 「このように実物よりも若い肉体を創り上げたり、でしょうかね。」

 大巫女の肉体を赤子の状態で錬成することによって、この赤子はあの偽薔薇妃のように時間の経過と共に消滅することなく、そのまま人としての人生を過ごすことが出来る。

 「そう、わたくしがこの人体錬成において、大巫女様と異なる要素にしたのは年齢だけでしたのに・・・。」

 赤子を抱きかかえたまま、ジュリアはプルプルと震えだした。

 「どうして、女子(おなご)であるはずの大巫女様の下半身にアレがついてますのーっ?!!」

 錬成された大巫女の肉体は年齢以外に元の大巫女と異なる点が出来ていた。そう、大巫女は女ではなく、男として、錬成されたのであった。

シリアス展開に飽きてしまい、ちょいちょい余計なことをしてしまいます。

エドワードの気持ち悪さとかもそれの一環ですね。

※追記

ちょっと以前の話の内容と相違している部分があったので修正しました。

本当にすみません。かなりぐだぐだです。

先に読まれてしまった方には本当に申し訳ないことをしました。

すみませんでした。

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