第37話 国王を好きですか?遺伝子レベルで嫌いです。
ジュリアによって錬成された赤子の大巫女。もとい、男の子。その髪は大巫女と同じ金色で、どこか大巫女の面影があるその顔には、元の大巫女と同じ水色の瞳と、もう片方の左目には透き通るようなガラス玉のような瞳があった。
「この左目はわたくしが大巫女様に渡した『聖玉』で出来ております。この左目がえぐられでもしない限り、この身体に大巫女様の魂は定着された状態で、通常の人と何ら変わりなく生きていけますわ。ですが、その魂も、あの少年に攻撃される際、大巫女様が咄嗟に大巫女様の心の中にあった無垢な魂だけこの『聖玉』の中に入っただけですので、実際には大巫女様というよりもただの赤子という方が正しいですわね。」
エドワードに説明を求められて、この赤子という存在を説明し始めるジュリア。
「まぁ、その方が性別が変わってしまったことに対しての弊害は起きにくいかもしれませんので、不幸中の幸いですわね。そしてこの子の魔力ですが、」
元の大巫女は『光の魔力』の持ち主。それ故、彼女には利用されるという人生しか歩むことが出来なかった。再び『光の魔力』を宿して、教会に目をつけられたらこの赤子は大巫女と同じ過ちを犯す可能性だってある。
「『光の魔力』ではなく、わたくしが1度『火の魔力』を浴びせたことにより、『火の魔力』が定着したようです。・・・あと、あの時のミスの反動で『闇の魔力』も、ごくごく小さいですが、持ってしまったようです。」
ジュリアがエドワードによって集中を欠いたため、出来た結果のもう1つが、『光の魔力』よりもレアな『闇の魔力』を灯してしまったこと。
「それは・・困ったね。君のように器用に育つならいいのだけど。」
同じく『闇の魔力』を持つジュリアがここまで無事(?)に生きてこられたのは、己の真の力を世間に隠しとおすという芸当を器用にこなしたからである。これはジュリアだから出来た事であって、他にまね出来るものなど、ほとんどいないだろう。まぁ、そもそもそんな特殊な状況下に陥ることがほぼないのだが。
「えぇ、おそらくこの子にこの力を隠し通すことは難しいでしょうね。いくら小さいとはいえ、『闇の魔力』は暴走しやすいですもの。」
「そうだね。それが『闇の魔力』をもつ者が迫害される理由の1つにもなってるからね。・・ところで薔薇妃。」
「はい?」
「その子供、誰が育てるんだい?」
そう言われればそうである。身元不詳の子供、それも『闇の魔力』なんてやっかいな力まで宿している。普通の子供であれば修道院に預けるなり、人のよさそうな貴族に養子に出すなりすればいいのだが。もちろん、現状後宮の側室である薔薇妃が育てるなどはもってのほかだ。何より説明のしようがない。
「そういえばそうでしたわね。どうすればよろしいでしょうか・・・。さすがに新婚のエリザベス様達にお頼みするわけにはいきませんし。かといってわたくしの実家は論外ですし。誰か他の知り合いに頼むほど、わたくし交友関係が広い訳でもございませんしね。・・・そうですわ!」
なにかをパッと思いつき晴れやかな笑顔になる。
「『闇の魔力』に卓越して、それなりに知識もあり、且つ暇そうな御方にわたくし心当たりがございましたわ。・・少し人間性に問題はありますが。」
「・・・薔薇妃、それ、もしかしなくても・・。」
エドワードの顔が若干曇ってきているのは気のせいではないだろう。
「そうです。大賢者様にお願いすればよろしいのです。大巫女様がこうなった原因の一端はあの方にもある事ですし。あの方ならご自身で亜空間をお持ちですし。その中で御育てになれば他人にバレることなく『闇の魔力』のコントロールも出来るようになるかもしれませんし。」
「でも、それって第2のジュダルを育てる羽目になるんんじゃ・・。」
「その点については、人格教育は別の人間にさせてもらいます。勿論、わたくしが担っても良いのですが。ある程度大きくなりましたらその時の状況も変わりますでしょうし、臨機応変に対応していきたいと思っておりますわ。」
(間違っても、陛下や大賢者様のような人間に育たない様にしなくてはなりませんわね。折角魂がきれいになったんですもの。わざわざ前以上に汚くする必要はございませんもの。)
できれば今度の人生は穏やかなものにしてあげたいと思う。あの時完全に心が穢れたままであったのなら、『聖玉』はこのような力を発揮することはなかったのだから。大巫女が真に悔いて改心しようと少しでも思ったからこそ、『聖玉』は力を貸したのだ。それを評価しないジュリアではない。
「では陛下、とりあえず一旦ここを出ましょう。そろそろ部屋に戻らなくては。エリザベス様が既にわたくしたちの部屋でお待ちの様です。」
偽薔薇妃を通して、晩餐会がお開きになり、ジュリアの事を心配したエリザベスがグレンと共にジュリアの部屋で待機していることを知っていた。
「その前に、薔薇妃。まだ私に話すことがあるだろう?」
「げっ・・覚えていらっしゃったのですね。」
(どさくさに紛れてごまかそうと思っておりましたのにっ!!)
エドワードの目を欺こうとし、偽物の自分を用意して、自分自身は危険とされる場所に単身乗り込んだことをエドワードが見逃すはずがなかった。
「そうだね。君の人形を作るところまでは別にいいのだけど。私も欲しいくらいだし。」
(ホホホホ、ご冗談を)
「気持ち悪いですわ。勘弁してくださいまし・・・あ。失礼、間違えましたわ。ホホホ。」
思わず心の声と実際の声が反対になってしまった。笑ってごまかすが、何故か嬉しそうにするエドワードに鳥肌が立ってしまう。
「君のそういうところが他の女性と違って新鮮で、かわいらしいよ。」
ぞわわわっと全身に鳥肌が広がり、もはや鳥そのものになった気分である。
「御戯れはお止め下さい、陛下。」
「そうだったね。これでも怒っているつもりだけど君相手だとどうしても甘くなってしまうようだ。私はね、薔薇妃。」
ズイっとエドワードがジュリアに近づいたため、逆に1歩下がって一定の距離を保とうとする。
「君が私から離れるのも不愉快だし、私に黙って危険な場所へ1人で行ったのにも結構怒っているんだよ?」
どんどんエドワードが距離を縮めようとするため、後ずさりをして離れようとするが、ついに足がもつれて尻餅をついてしまった。
「君は私に守られて安全に過ごすべきだとは思わないかい?」
「わ、わたくしは自分の身は自分で守れますし、陛下の御手を煩わせたいとも思っておりません。それに、教皇様の目が晩餐会に向いているあの時が1番大巫女様にお会いする絶好のチャンスだったのです。」
「それなら、ジュダルに行かせればよかっただろう?大体アイツは君がこんな危険なことをしていたというのに、一体何をしているんだ?」
怒りの矛先がジュダルに向いたが、その原因は自分にあるため、フォローをするかどうか迷ってしまう。
が、黙っていても仕方がないので、ためらいがちに口を開いた。
「じゅ、ジュダル様はわたくしの頼みを聞いてちょっと別の所に偵察に・・・。」
「・・ふうん?」
冷ややかな視線に変わり、ジュリアの心拍数が一気に跳ね上がった。
(こ、これはまずい方向のやつですわ!一体どこに地雷があったというのでしょうか?!)
「へ、陛下?」
恐怖のあまり声が上擦ってしまう。
「薔薇妃は、どうも私ではなくジュダルの方を頼りにしているようだね。気に入らないな。」
体勢が体勢なだけに、逃げだすことが出来ない。未だ尻餅をついた状態の薔薇妃の上にエドワードが覆いかぶさっている形だ。所謂床ドン状態。
「別に、頼りにしているわけでは・・。偵察にはイロイロと闇魔法の方が都合がよろしいですし。」
これは本当である。それプラス邪魔だったから追い出したいという理由もあったのだが。
「その赤子を育てるのだってジュダルに頼もうとしているではないか。」
「だって、陛下にお頼みするわけにはいかないでしょう?!周りに何というおつもりですか?それに同じ『闇の魔力』をもつジュダル様の方が良いと判断したまでですわ。」
何故こんなに駄々をこねるのか意味が分からない。というか、面倒臭い。
「陛下は国王であらせます。王位を返納するおつもりだとしましても、それまでは国王なのですよ?血も繋がっていない子供の世話をしている場合ではないでしょう。それよりも他にやるべきことがたくさんあるはずですわ。わたくしなどにではなく、国に目を向けてくださいまし!」
真っ直ぐ、目を逸らさずに、エドワードを見た。ここで視線をはずしては自分の言っていることが軽薄になってしまうような気がして。だが、そんなジュリアを見たエドワードはフッと表情を崩し、うれしいのか、悲しいのかよく分からない顔をした。
「私はね、薔薇妃。君を手に入れる為だったら国を滅んでも仕方がないと思っているんだよ。こんな考えの者が国王であるべきではないだろう?だから、私が国を滅ぼす前にこの国は私の手から離れるべきなんだよ。」
「国を、滅ぼす?何を仰って・・。」
視線を逸らしたい、が逸らせず、エドワードの瞳に吸い込まれそうになる。
「もし、薔薇妃が正妃になってくれないならこの国を囲むすべての国に戦争をしかける、と言ったら君はどうする?」
「なっ・・にを・・。」
「あぁ、そうだ。君を悪く言う国民はすべて斬首刑にするってのもいいかもね。」
(良いわけありませんわーっ!!歴代の暗君も真っ青な暴政ぶりですわっ!!)
毒妃に絆されて暴政を強いてきた暗君は何人かいたが、1人の側室のために周りの国に戦争をしかけたり、何の罪もない国民を斬首にする程のことをした王はいない(ジュリアの悪口なんて噂話程度に誰でもするものだし)。ましてや、賢王になるとまで言われていたエドワードが急にそんなことをしたら絶対にジュリアのせいになる。汚名を被るのは構わないが、国を滅ぼしたとまで言われるのは勘弁だ。
「そ、そのようなことをなさったら、ご自身が玉座に掛けた魔法によって、陛下の命が奪われてしまうのではありませんか?」
暗君には早い死が訪れるよう、エドモンドが施した魔法。それがそのような暴政を許すはずはないが。
「そうだね。まぁ私の魔法だから私には多分効かないと思うけど、それもあるから、自分自身の魔法に殺される前に、先に逃げ出そうと思っての譲位だよ。」
自分の身を脅かすほどのことをしなければいいのに、とジュリアは思うがこのどこかで人としての大事なネジを何本も落としてきたようなエドワードには言うだけ無駄なようだ。
「陛下が、わたくしのことをそれほどまでに思ってくださっていることは分かりました。ジュダル様にも必要以上に頼みごとをしないことにします。まぁ、元々あまり借りを作ってはロクなことにならないと思っておりますので、そのつもりはありませんでしたが。ですから、早くそこをどいて下さいまし!」
いつまでの自分の上にいるエドワードに早くどいてほしかった。このような心臓に悪い体勢はすぐにやめてもらいたい。だがジュリアの切なる思いはエドワードによって打ち砕かれることになる。
「そうだね。薔薇妃はまだよく私の事を理解できていないようだから、考えなくても分かるように身体に教え込まないとね・・。」
そう言ってエドワードの顔が近づいてくる。
(いやー!!近い近いっ・・・!!かくなるうえは、申し訳ございません、大巫女様!)
咄嗟に顔を反らし、赤子を自分の顔の前に持ってくる。
「ん?!・・薔薇妃、なんてことをするんだ!」
薔薇妃の唇ではなく、赤子のファーストキスを奪ったことにエドワードが衝撃を受けている隙にするりとその場から抜け出し、やっとのことで立ち上がるジュリア。
「オホホホホ。申し訳ございません、陛下。赤子が泣き出しそうだったので咄嗟に陛下のご尊顔をお見せしてご機嫌取りをしようとしたまでですわ。ホラ、赤子もこんなに嬉しそうにしていますもの。効果抜群でしたわね。」
赤子はきゃっきゃと笑い声をあげて上機嫌だ。エドワードとのキスがうれしかったんだろうかと、馬鹿な事を考えてしまう。
「やれやれ、本当に薔薇妃には手こずってばかりだ。まぁ、捕えにくい獲物をじっくり追い詰めるのも狩猟の楽しみだからね。」
口を拭ってニヤリと笑うエドワード。
(じょ、冗談じゃありませんわっ!近づく前にとんずらこいてやりますわっ!!)
ギュッと赤子を抱きしめ、警戒を露にする。
「おっと、これ以上からかったら本当に嫌われてしまいそうだから、この辺にしておくよ。我が妹も待っていることだし、そろそろここを出ようか。」
(既に本当に毛嫌いしています。生理的に受け付けません。)
心のなかでこそっと訂正。そのままジュリアは出口を創り、赤子を抱えたまま亜空間から出て行った。
タイトルに「後宮」を入れているのに、思いのほか後宮外の話が長くなってしまいました。
そしてまだしばらく後宮へは戻れそうにありません。
あと、国王の病気がどんどんやばくなっています。どうしてこうなったか作者にもわかりません。
不愉快な思いをさせていたら申し訳ございません<(_ _)>




