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第31話 国王の提案?名案と思いきや、とんだ悪案ですわ!



 とりあえず大巫女の話は一旦止めて、静かになった部屋の中で。

 「少し私からもいいかな?」

 と切り出したのはエドワード。

 「この場で、私から1つ報告があるのだけど。」

 その言葉にジュリアとエリザベスは顔を見合わせた。

 (い、嫌な予感しかしませんわ。・・・そう言えばエリザベス様が陛下が何か企んでいると手紙に書いていましたもの。)

 ここ最近のエドワードの不審な行動、そしてエリザベスからの報告が示唆するのはジュリアにとってあまり良いものではない気がすると、考える。

 「実は・・・」

 ごくりとつばを飲み込むジュリアとエリザベス。グレンはやはり1人だけ蚊帳の外気味になっている。

 「王様やめようかと思っているんだよ。」

 「は?」

 「へ?」

 「え?」

 上から、ジュリア、グレン、エリザベスである。

 言葉は違えど、皆同じリアクションだ。

 「き、聞き間違いかしら。わたくし、陛下が王様を辞めると聞こえたのですけれど。」

 「そ、そうですね、私も同じように聞こえましたが、きっと皆揃って聞き間違えたのでしょう。」

 受け入れきれず、ハハハと笑うジュリアとエリザベス。

 「いや?聞き間違いではない。私は確かに王様を辞めると言ったよ。」

 再度、その言葉を聞き、今度は聞き間違いではないことが分かり、口をパクパクさせる3人。ジュダルだけが、物知り顔でそれを見ている。

 「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。あまりに唐突すぎて、わたくし訳が分からないのですが、一体どういうことなのです?」

 ジュリアの言葉にエリザベスとグレンが同意し、こくこくと頷いている。

 「どういうことかと言われても、そのまんまの意味だよ?『今日から王様業辞めます!』的な?」

 いや、そんな軽く言われても納得などできようがない。

 「まあ、正式には今すぐにって訳ではないんだけどね。色々と調整中なんだよ。」

 「本気ですか?お兄様。この国の王についてお兄様ならよくご存じでしょう?お兄様以外の国王なんてありえないんですよ?」

 国王とは、長男が継ぐべきもの。それがこのローゼンタールの王位継承についてのルールだ。国の起りの当初はそのようなルールはなかったらしいのだが。

 「そうだね。なにせ、『王位を継ぐのは長男!』って決めたの、誰であろう、この()だからね。」

 「そ、そうだったのですか?」

 『()』とは勿論、エドワードではなくエドモンドの方である。

 「うん。あれは愛しい薔薇妃が亡くなって間もなく、その当時子供がたくさんいた私は王位継承について意見を求められて、若干自暴自棄になっていたんだろう、『正妃、側室の身分に関係なく、最初に生まれた男児が王位を継ぐものとする』と法を改正してしまったんだよ。当時の私の権力は絶大で、反対出来るものなどいやしなかったし。唯一反対できるジュダルはそうそうにその身を封印してしまったしね。」

 「そりゃあ、俺の子供を孕ませられるのはそれ相応の魔力を持った女だけだ。当時それに該当したのが、その薔薇妃だけだったからな。早々に次の世に希望を託したって訳だ。」

 そんな希望は根絶やしにすればよかったのに、とジュリアは思う。

 「そ、そんな簡単に決めてしまったのですか?」

 納得がいかない様子なのはエリザベスである。

 「うん。そうすれば王位争いなんて不毛なものは起きないし。『一応それなりに魔力をもっていること』って条件を付ければ、まぁそこまで他国に舐められることもないしね。」

 「そんな!その法のせいでどれだけ歴代の悪王が誕生したことか・・。」

 確かに、長男で、魔力があればそのまま国王ルート直行だ。性格なんてものは判断材料にはならず。悪王が生まれても当たり前の状況なのだ。

 「それについては少しは考えたよ?でも結局、国王をどれだけ優秀かで選んだとしても、その国王が賢王になるという保証も出来ないし、悪王にならないとも言いきれない。まぁ、あまりにも暴政を強いるようであればいろんな理由で早死にするように玉座に呪いをかけてあるから、国が滅亡するほどにはならないよ。そうそう、それで我らが父も早々にお亡くなりになったんだったね。」

 実の父親のことであるのに、どこか他人事のエドワードは、その綺麗な顔で柔和に微笑む。

 (この御方は、ジュダル様と同じようになにか欠けていらっしゃいますわ。)

 国王とは存外、悲しい生き物であるのかもしれないと、ジュリアが思った瞬間だった。

 「でも、その私が作った法がここまで私の邪魔になるとは、その時は思わなかったよ。今更法を変えるには、王の権威は弱まってしまったし。それにその法のせいで、私の兄弟はエリザベス以外は王都にはいないからね。大抵国交のための縁談で国外で結婚したか、遠い領地を治めているか。」

 「そ、その通りです。国外にいるお兄様たちなんてもっての外、遠い領地を治めているお兄様だって王都の政治には疎いものです!今更国王なんて務まるはずがありません!」

 ダンッとテーブルを叩き力説するエリザベス。

 「だからね、君達にお願いがあるんだよ。」

 エドワードがそう言って視線を向けたのは、エリザベスとグレン。

 「え?お兄様、何を・・・。」

 これまた嫌な予感しかしないと、ひくっと口角が動くエリザベス。

 「一応考えている案が、今シャーロットのお腹の中にいる子供なんだけど、その子が生まれたら早々に王位を継がせようかと思って。」

 「え?」

 「は?」

 「へ?」

 上から順にジュリア、エリザベス、グレン。

 「へ、陛下。何を仰っていらっしゃるのですか?シャーロット様の御子と言えば、未だ性別も分からず、魔力の有無さえ分からないのです。そのような状態で王位を譲ると?」

 勇気を振り絞ってグレンが聞いた。

 「そうだね。勿論性別が男だったら、て決めているけど。魔力については既にあることを薔薇妃が確認しているし、その点は問題ではないよ。」

 シャーロットの妊娠を確信した要因が、お腹に宿る魔力に気づいたからで、それをエドワードとジュダルに話したのはジュリアなので、それについてはジュリアも分かる。

 「で、ですけど陛下。まだ善悪の分別どころか自我も芽生えない赤子に王位を継がせるのはいかがなものかと思いますわ。どのようにして国を治めるのでしょうか?」

 ジュリアがグレンの援護射撃を試みる。

 「うん、だからエリザベスとグレンに頼みがあるって言ったんだよ。その頼みとは何を隠そう、君達に王子が育つまで、垂簾聴政をしてもらいたいということなんだ。」

 「な、なっ!!?」

 あまりの事に言葉が出ないエリザベス。グレンは衝撃のあまり気絶しかけている。

 「驚くのも無理はない。とりあえず子供が生まれる4ヶ月くらいの間に、君達には猛勉強してもらって、

ある程度国を治めることができるようになってもらうよ。もちろん、どうしても私の判断を仰がなくてはならない時はエリザベスの使い魔をよこしてくれればいい。子供が生まれて、男児だと分かれば、後は詰めた案を円卓会議に提出して、決議まで持っていく。早ければ来年の今頃には身を引いて王宮を出ようかと思っている。」

 たった1年。それだけでこんな大きな事をしようとしているエドワード。

 (・・あら?でも、もしかしましたら・・これってわたくしにはチャンス?)

 さっきまではきっとエリザベスやグレン同様、考えられない!と憤慨していただろうジュリアは、1人、違うことを考え始めていた。

 (陛下が王位を返納すれば、今の後宮は意味を為さなくなりますわ。そうすれば薔薇妃なんて称号も当然なくなり、わたくしは後宮を去ることが出来る・・。後は傷心とか何かと理由をつけて我が実家から手が及ばない様にして、1人旅立てば、念願の冒険者になれるかもしれませんわ!)

 途端に目をキラキラ輝かせ始めたジュリアを、エリザベスは見逃さなかった。

 「ジュリア様。何か別の事考えていらっしゃいませんか?」

 (うっするどい・・。)

 ジトッとみられてジュリアは思わずたじろぐ。

 「い、いえ、わたくしは別に、何も。」

 ホホホホっと笑ってごまかそうとする。が、中々追及の目は止まない。

 「そ、そうだわ。陛下、王位を返納されて、王宮を出て、その目的は一体何なのでしょうか。」

 追及の目をなんとか自分ではなくエドワードの方に戻そうと必死のジュリア。功を奏してエリザベスの視線はエドワードへと戻った。

 「目的、って言われても、・・薔薇妃、君と共に在るためだよ?」

 「へ?」

 突然自分の話が出て来て驚く。

 「私が君の前から姿を消す前の日の晩、君が言ったではないか。私が心を入れ替えるまで薔薇妃の前に姿を現すなって。あれからずっと考えていたよ。薔薇妃が言っていたことの意味とは何なのかと。」

 (確かにそう言いましたわね。ですが、何故その言葉でこんなとんでも回答が出てきますの?)

 ジュリアはただただ、自分にではなく、その愛情をシャーロットとシャーロットの子供に捧げ、子供ができるだけのことはしたのだから、その責任もしっかり取るべきだ、自分には一切構わず、そっちを気にかけろ。という意味で言っただけなのだが。

 「そう、そして私は思ったんだ。もしや薔薇妃は後宮の権力争いに心を痛めているのではないかと。」

 「は?」

 真面目な顔のエドワードにこの日何度目かのポカン顔のジュリア。

 「そもそも、薔薇妃は後宮なんてその身を閉じ込める窮屈な籠を望んではいなかったのではないか?」

 (それはそうですが。)

 誰にも分からない様に、心の中でだけ返事をする。

 「それを私が無理に君をその籠の中に閉じ込め、『薔薇妃』という称号を与えることでさらにその枷を強くしてしまった。シャーロットに子供が出来たと分かってからは激しさを増す後宮の権力争いに否応なく巻き込まれて、さぞ嫌な思いをしたことだろう。」

 前半は正解、後半は少し不正解。別に権力がほしい訳ではなかったが、『薔薇妃が権力を望み、邪魔になるシャーロットに害を加えている』という状況を作り出すため、自ら参戦していたのだから。

 「根も葉もない噂もたくさん聞いたよ。君を手に入れたいがために招いた後宮は君の害にしかならなかったんだと。ジュダルの事もそうだ。こんな害にしかならない存在と結びつけてしまうことになるなんて・・。何より君は後宮で上品にしているより本音でハッキリ言っている方が活き活きしていたからね。ジュダルとの魔法の特訓も、かなりやる気を出していたようだし。君にとって後宮という籠は狭すぎる世界だったんだね。」

 (・・・間違いでは、間違いではありませんわ。陛下。確かに後宮というのは冒険者になりたいわたくしにとって障害でしかありませんもの。ジュダル様との魔法の特訓は退屈な後宮でわたくしの力を高めるいい訓練になりましたわ。大賢者様の封印を解いてしまったことは、自業自得なので何も言えませんし。ですが、何か根本的な考えが違っているように思えるのですが。)

 「だから、私が王位を返納することで、後宮という枷が無くなる君は晴れて自由の身となるだろう?そして私と君との間に王位争いなんて余計な壁はなくなる。そうすれば君は遠慮なく私と愛し合うことが出来るだろう?」

 (そこですわ!)

 ()()とは。後宮を出た後もエドワードがジュリアと共にいようとしていること。そしてジュリアがエドワードの事を好きと勘違いしていることだ。

 (なんてことなの?!晴れて自由の身となり、冒険者となれるかもと喜んでいましたのにっ!!よもや陛下というお荷物がついて来るなんて、思ってもいませんでしたわっ!)

 喜び反転、絶望の色を濃く移したその瞳は、見開かれたままエドワードを見ている。隣でエリザベスがどんまいっと心の中で励ましているのが見なくても分かる。

 「そ、そんなことのために、エリザベス様やグレン様、そしてまだ生まれてもないシャーロット様の御子まで巻き込もうとしていますの?それに第一、御子が男児でなかった場合は?そのためだけにまた御子を為さるおつもりですか?!」

 「やはり、それを心配しているんだね。大丈夫。もし生まれてくる子供が男児でなくても、他の側室達とそのような行為に及ぶつもりはない。代案として、私の弟のエリックを呼び寄せようかと思っている。」

 「げっ!!」

 カエルを踏んだような声を出したのはエリザベスである。

 「え、エリック兄様をですか?」

 「うん。」

 顔を顰めるエリザベスとは対照的に、ニコニコご機嫌のエドワードだった。


ちょっとながくなりそうなので、一旦ここまで。

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