第27話 助けに来た大賢者?お帰り願おうかしら。
「――――きろ。」
(?)
「―――きろって言ってんだろ?」
(なんですの?うるさいですわね。)
「おい、起きろ!目を覚ませ、ジュリア!!」
聞きなれた男の怒号が聞こえ、ジュリアはガバッと身を起こした―――正確には身を起こしたつもりだ。
(何かしら、これ。真っ暗でふわふわとしていますわ。わたくしは今わたくしがどうなっているかもわからない。・・そういえば。)
「・・・大賢者様。」
ジュリアは声が聞こえていた方に視線を向ける。そこには暗闇の中でもぼうっと薄暗い明かりを灯しているジュダルがいた。
「やっと起きたか。世話焼かせやがって・・。」
そのいつもと変わらぬ立ち振る舞いに不覚にもホッとしてしまう。
「ここは・・・何ですの?」
ジュリアの問いにジュダルがピクリと反応した。
「どこではなく何か、か。そんならもう分かっているんじゃねぇのか?」
真っ直ぐ目を射抜いて来るので、思わずジュリアは笑ってしまった。
「おそらく、ですが。ここはわたくしの心の中ではありませんか?まぁ、それが正解となりますと、何故私の心の中に貴方様がいらっしゃるのかをお伺いしなければいけませんが。」
「やっぱり分かってんじゃねぇか。ご名答、ここはお前の心の中、精神世界だな。んで、なんで俺様がお前の精神世界にいるのかって言うと、」
「仰いますと?」
ぐしゃぐしゃっとジュダルに思いっきり頭を撫でられた。
「お前が望んだからだ。」
すぐに手を振り払ってやった。
「つまらない冗談はその辺で、早く本当のことを仰ってください。」
「んだよっ!可愛くねぇな。お前、危ないところだったんだぞ?魔力のバランスが崩れて暴走するところだったのを俺様が助けに来てやったんじゃないか。」
どうだ、敬え、礼を言えと、胸を張るジュダルは置いといて、どういうことだろうかと考えるジュリア。
「・・・つまり、光の力で溢れたあの場所で、『光の魔力』を取り込んでしまった私の中で、今まで均衡を保っていた『光の魔力』と『闇の魔力』のバランスが崩れてしまった、ということですわね。だから私は本能的にあの場所を嫌がり、近づくにつれ具合が悪くなっていった、でよろしいでしょうか。」
自分の一大事だったというのに淡々と述べるジュリアはジュダルの頷きを見て、納得した。が、少しだけ腑に落ちない。
「ジュダル様。わたくし倒れる前に女性の声を聞いたのですが、心当たりはございませんか?」
「!!?お前、覚醒しかけているのかっ?!」
「は?」
興奮して身を乗り出すジュダルとは対照的に冷ややかなジュリアを見て、ジュダルもすぐにがっかりして元の姿勢に戻った。
「違うのか。・・・いや、俺は知らないな。その声の主。」
(いやいやいや、そんな訳ありませんでしょう!あんな反応を示しておきながら、よくそれでしらばっくれると思いますわね!)
あきれ気味のジュリアだが、すぐに、いつものエドワードとの内緒話に関わる事かと察し、問い詰めるのを止めようとした。が、
「ジュダル様。隠し事をなさるのは大いに結構です。無理に聞き出そうとも思いませんし。ですがそれがわたくしに関わる事であるのなら、いずれわかることなのではありませんか?今回わたくしが倒れたことについても少なからず貴方様方のその隠し事が関わっているのではありませんか?それによってわたくしの身に危険が及ぶことは別に構いません。わたくしはそれなりに強いですから対処できるでしょう。ですが、もし、わたくし以外にその害が及ぶことになれば、わたくしは貴方様も、陛下も決して許しません。」
強く、はっきりとジュダルにそう突き付ける。
ジュダルは困ったように頭を掻き、しばらくうーんと考えていた。
「あー・・うー・・。俺だってな、お前に話したいのは山々なんだ。それがきっかけでいっきに覚醒するかもしれんし。でも、そうすることでお前の自我に負担がかかる可能性がある。だから、今は言えない、じゃあ駄目か?」
「では、いつならばよいのです?」
畳み掛けるように続けて問う。
「いつか・・・いつかか・・。いつって言えばいいか俺にもまだ分からん。徐々にゆっくりと、だな、」
もぞもぞとはっきりしないジュダル。
「では、最後の質問です。」
ジュダルのもぞもぞにかぶせて言った。
「その隠し事というのは、わたくしの前世の事ですか?」
「!!?」
その反応だけで、ジュリアには十分だった。何も言えぬジュダルに「分かりましたわ。」とだけ言って、それ以上の追及をすることはなかった。ジュダルも何か言いたそうにはしていたが、結局その場でそのことについて言及することはなかった。
「さて、わたくしが目を覚ましたということは、もうジュダル様の方でわたくしの魔力は安定して頂いた、ということでよろしいでしょうか?」
切り替えの早いジュリアはさっさと次の質問に移った。
「お、おう。その通りだ。」
あまりの切り替えの早さにジュダルの方がどもる。
「ではわたくしたちはもうこの精神世界から出てかなければいけませんわね。外の様子はどうなっているのでしょうか。わたくしが意識を失ってどれくらいたちましたか?」
あんな儀式の真っ最中で倒れたのだからきっと大事になっているのだろう、とジュリアは思った。
「10秒くらいかな?」
「え?」
ポカンと口を開けてしまったジュリア。
「時間の進行の速度が違うんだよ。今起きればちょっと立ちくらみがした、だけで済ませられるぜ。」
そういうものなのか。まぁ、精神系の魔法のスペシャリストが言うのだから、そういうものなんだろうとなんとなく納得して、ジュリアは起きることにした。特にやり方などジュダルに教わったわけではないが、ジュリアはこれでも『闇の魔力』の持ち主。聞かぬとも、自然にそれを成した。
「う・・・わたくし・・。」
ゆっくりと瞼を開けて光を取り込む。すぐ目の前に心配そうに見守るエドワードの顔があり、思わず全力で突き飛ばしてしまった。だが、以外にもエドワードはよろめくことなくしっかりとその場に立っていることが出来ていた。
(陛下、強くなられたのかしら?)
そう言えば見た感じも少したくましくなっている気がする。といっても細身なのは変わらないが。正直エドワードの変化などどうでもよいが、自分の全力でびくともしなかったのに納得がいかなかった。
「コホン。申し訳ございませんでした。お見苦しいところをお見せしてしまって。」
気を取り直して状況を確認する。
どうやらジュダルの言うとおりでジュリアが倒れたのはほんの十数秒の間。祭壇の前で大巫女がこちらの様子を窺っているのが分かる。
「大丈夫ですよ、ジュリア様。すぐに目を覚まされましたので。」
こちらは天使、もといエリザベスである。
「そうでしたか。本当に申し訳ございませんでした。わたくしはもう平気ですので、行きましょう。」
いまだに心配と顔に書いてあるエリザベスに微笑んだ。先ほどと打って変わってすっかり具合も良くなったので、しっかりとした足取りでエドワードと共に進んでいった。黙ったままのエドワードが気味悪かったが、気にしないことにした。
何故彼女を見たとき、自分と見間違えたのか、分からないくらい大巫女はジュリアとは似ても似つかなかった。そもそも10歳ぐらいの少女なので、見た目もサイズも醸し出す雰囲気も全く違う。髪の色だって、綺麗な金髪だ。
「よくぞ参られました。国王陛下、ジュリア・ローゼン・ブラスター様、エリザベス内親王様、グレン・ローゼン・ラージラス様。」
大巫女は幼い姿に似合わず落ち着いた大人のような声で話した。
「戴冠式以来だな、大巫女。」
「お初にお目にかかります。大巫女様。」
エドワードとジュリアが順に返事をし、それにエリザベスたちが続いた。
「この度はおめでとうございます、エリザベス様、グレン様。これからのお2人に幸あらんことを祈って、また国王陛下様の良き治世を祈りまして、ここに光の祝福を与えます。」
大巫女が目を瞑り、手を広げると、ジュリア達4人は光に包まれ、温かい何かがしみ込んできた。
(成程、これが大巫女様の祝福ですか。一種の癒しと強化の魔法ですわね。少しだけ能力が向上しているようですし、病気の者がいればきっとたちどころに回復するでしょうね。)
ジュリアも『光の魔力』を持つだけに、分かる事である。
「さぁ、それではこれより清めの儀式を行います。皆様目を閉じて、心を無にするのです。」
無にしろ、と言われ、出来るわけがないがとりあえず目だけはつぶることにした。
(何かしら、これは・・・。)
自分の内部に何かが探るように蠢いているのが分かった。
(何故、大巫女様がこのような魔法を?)
それは精神に関与する系の魔法で本来であれば闇魔法。『光の魔力』を持つ大巫女に仕えるはずがない魔法だ。
(先ほどの光魔法はこのための布石。光魔法によって大巫女様の魔力をわたくしたちの中に入れ、そこからこの魔法を忍び込ませていますのね。この魔法はわたくしたちの魔力を探るとともに、洗脳の種を植え付けるモノですわ。・・・教会が聞いてあきれますわね。)
ジュリアは自分の中に忍び込んだソレを自身の魔力で押し出した。勿論、『闇の魔力』と『光の魔力』をばれるわけにはいかないので、火属性の力を表面上に出して。
「きゃぁっ!!」
ジュリアの前から悲鳴が聞こえた。はじき出された魔法が大巫女へ跳ね返ったのだろう。
「どうした、大巫女よ。」
既に目を開けたエドワードが大巫女に駆け寄った。
「だ、大丈夫です。気になさらないでください。・・・清めの儀式は終わりました。皆様、どうぞお気をつけてお戻りください。」
左目を手で覆い、少し息の荒い大巫女はもう片方の手で駆け寄るエドワードを制止し、そそくさと光の祭壇の奥へ消えていった。
「どうされたのでしょうか。大巫女様。」
「えぇ、本当に心配ですわ。」
事情を知らぬエリザベスは本気で心配していたので、とりあえず乗っかったジュリア。
「とりあえず儀式が終わったのですから、もうここを出ても良いということでしょうか。」
グレンがエドワードを見た。
「あぁ。そういうことだろうな。さあ、ここを出よう。」
3人がこくりと頷き、通ってきた滝を潜ってきた『光の泉』を離れた。
巫女といえば幼女!テンプレですね!
大好物です(笑)
恋愛要素ってどこで取り入れたらいいんですかね・・・
話の方針は決まってるのにそこだけ未だに悩んでます( ̄▽ ̄;)




