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第19話 薔薇妃の陰謀?そうかもしれないですね。



 「それにしても、この前はすごかったわ、ミイナ。」

 ポカポカと日差しが入り込む部屋で足湯につかる小柄な少女。

 「またその話ですか?シャーロット様。3日も前の事を・・もう何回目です?それに危険な目にあったのですよ?もう少ししゃんとしてくださいよ。」

 シャーロットの髪をとかしながら侍女ミイナが小言を漏らす。

 「何でそもそも薔薇妃様のお茶会なんて行ったのです。そんなところに行ったら貴女と御子を狙って何かしてくるに決まっているじゃないですか。」

 「あら、ミイナ。何を言っているの?私に危害を加えたのは薔薇妃様じゃなくて、牡丹妃様のご友人の・・・だれだっけ?あぁ、そう、コアラ様だったかな?」

 正しくは『ポーラ』である。ポーラ・アドナイト。子爵令嬢にしてアイリスの取り巻きの1人。昨日シャーロットを突き飛ばした人物だ。

 「誰であろうと、今のシャーロット様に危害を加える者は全員反逆者です。たとえ薔薇妃様であってもですよ!」

 「わかっているって。でもきっと薔薇妃様はそんなことしないわよ。私になんか目もくれないもの。それくらい、住む場所が違うってことはわかっているつもり。」

 そう言ってぱくりとお皿に並んだプチケーキを頬張る。

 「そのようなことはありませんよ。今やシャーロット様の身はこの後宮に置いて誰よりも尊いのです。称号付きのご側室様とて敵いませんよ。もっと自信を持ってください!」

 「ほんはほほほひっはっへ・・・もぐもぐ。」

 いつの間にか口いっぱいにケーキを詰め込み、まるでハムスターの頬袋のように頬を膨らませていた。

 「・・・確かに、その姿は貴族とは思えませんね・・。」

 たった今までシャーロットを持ち上げていたミイナだが、すぐに呆れ顔になってため息をつく。

 「んん・・・はぁー、死ぬかと思ったー。」

 お茶で流し込むようにごっくんと飲み込み、口元についたたべかすをペロリと舌でなめとる。

 「もう、本当にはしたないですよ?シャーロット様は国母となられるのです。もっと威厳とか、気品とかを身に着けてくださいよ!」

 「だってぇ、そんなこと言っても私は元は平民だもの。それも孤児。たまたま魔力があって今のお義父さまに拾って頂いたから今はこんなところにいるけど。所詮生まれ持った性質というのは変わらないのよ。それに、ミイナだって、私と一緒の孤児院出でしょ?一緒に過ごしてきたんだから、私がこういうの苦手ってわかっているじゃない。」

 「そうですね。本当、旦那様に頼み込んで一緒についてきてよかったです。だってシャーロット様ったら女官にも舐められて、一時期陛下がいらっしゃった頃にはそれはそれは嫌がらせの嵐が起きていましたものね。きっと私がいなかったらついうっかりぽっくり死んでいましたよ。」

 「え?そんなことあったの?全然気づかなかった・・。」

 たとえば、毒蛇がドレスの中に潜んでいたり、後ろから突き飛ばされて井戸の中に落とされそうになったり、贈り物の中に毒蜘蛛が入っていたり等々。それらがシャーロットに牙をむく前に防いできたのはミイナだった。

 「本当に少しは自覚なさってくださいよ?今でこそ陛下が薔薇妃様の元にずっと訪れているから敵の目は薔薇妃様の方に向いていますが、先日主治医様より王宮に懐妊の報告をしたのです。そしてそれはもう既にこの後宮にも広まっています。今まで以上に気を引き締めてかからないと、取り返しのつかないことになりますよ?」

 シャーロットとミイナはミイナの考えにより、ギリギリまで懐妊したことを隠していた。運よく懐妊が分かったタイミングでジュリアが入宮して、後宮の者すべての目がジュリアに向いたため、他の物に気づかれることもなかった。加えて平民上がりのシャーロットは女官達にも舐められており、シャーロット付きの女官は皆職務放棄をし、今やシャーロットの味方は幼いころから共に育ち、外から連れてきた侍女のミイナだけだった。

 「わかった、わかりましたよー。じゃぁ、そろそろ着替えよっか。」

 湯につけていた足を上げて、ふかふかのタオルで軽く拭い、ミイナに支度を頼む。

 「今日はどのドレスになさいますか?」

 「うーん、そうね。といってもそんなにドレス持っていないのだけど・・。そうだ!陛下に初めて会った時の薄紅色のドレスがいいわ!」

 「シャーロット様は本当にあのドレスがお好きですね。すぐご用意します。」

 そういってクローゼットへ向かうミイナ。


 「きゃぁっ!!!」

 クローゼットの扉を開けたミイナが悲鳴を上げその場に倒れ込んだ。

 「なに?どうしたの?!・・・・きゃっ!!」

 心配して駆け寄ったシャーロットだが、同じく悲鳴を上げた。

 「な、なによこれ・・。なんでこんなことに・・・。」

 シャーロットとミイナが見た物は、ズタズタに引き裂かれ、二度と袖を通すことが出来なくなった、シャーロットのお気に入りのドレス。無残なその姿にジュリアの頬を涙が伝う。

 「ひどいっ・・誰の仕業ですか!?」

 問おうにもその場にはシャーロットとミイナしかいないので、勿論返事などは返ってこない。

 「・・・そうですよ。きっと薔薇妃様だわ!昨夜この部屋の近くで薔薇妃様付きの女官をみました!確かミランダとかいう名前だったはずです!」

 「そんなわけないわ!たまたま偶然通っただけでしょ?考えすぎよ。」

 「いいえ、絶対にそうです。だって何故薔薇妃様付きの女官がこんなところまでくるのです?女官室からも薔薇妃の間からも程遠い、特に倉庫が近い訳でもないこんなはずれの方の部屋に!」

 否定するシャーロットの言葉を受け入れず、確信を持ってミイナは言った。

 「陛下の寵愛をほしいままにしていた薔薇妃様ですが、先に身ごもっていたのはシャーロット様です。この国は代々長子が家督を継ぐ決まりです。そしてそれは王家も同じなのですよ?シャーロット様がお産みになる御子が王子であったなら、その身は王位を継承することになる。薔薇妃様の面目も丸つぶれになります!だからきっと、このような嫌がらせをして、危害を加えようとしていることを暗示しているのです!それに、ここ最近シャーロット様の食器が割られていたり、男爵家から送られてきた茶葉が捨てられていたり、御靴が井戸に落ちていたり等の嫌がらせもきっと薔薇妃様の仕業ですよ!」

 ぎゅっとその手に破れたドレスを握り締め、怒りを露にする。

 「でもぉ、それならなんで直接私を狙わないの?こんな回りくどい真似しなくったって、食べ物に毒を仕込んだり、それこそそのドレスに猛毒のヘビとかを仕込むほうが私の命をねらいやすいんじゃない?」

 実際、そのような手段で命を狙われたこともあるシャーロットである。このやり方はどうもおかしいと考えている。

 「これって、命を狙ってっていうよりもどちらかと言えば、注意しろって言っているようにも思うな・・。」

 シャーロットの推理にミイナが「そんなことは・・。」と言いかけたとき、部屋の扉からノックの音が聞こえた。

 「失礼します、女官長のマリアでございます。」

 シャーロットの許しを得て入ってきたのはその手に小包を抱えたマリアだ。

 「あら、女官長様。本日もまた陛下からの贈り物ですか?」

 マリアの手にある小包を見て、ミイナが聞いた。

 「そうです。内官より預かって参りましたので、お届けに・・・。何かあったのですか?」

 小包を渡そうとしたマリアが、ミイナの手にあるズタズタのドレスを見て聞いてきた。

 「うーん、ちょっと困りごと?」

 「シャーロット様、そのように軽いお話ではありません。女官長様、この頃この部屋ではおかしなことが連発しているのです。このドレスもそうですが、物が無くなっていたり、壊されていたり・・。どうか陛下にお伝えし、このようなことを企てた者を罰してください!!」

 強く、強くミイナが訴えるので、マリアは少しだけ後ろに後ずさる。

 「・・・分かりました。私から伝えておきます。ですが、シャーロット様、ミイナ。」

 その顔は厳しく悪いことをした子供を叱る教師のように威厳に満ちていた。

 「自分の物も管理できていないようでは今後この後宮では上手くやっていけませんよ?加えて貴女は御子を授かっていらっしゃいます。もう少し、自分とその周りに注意を払うべきではありませんか?」

 先ほどミイナが言っていたことと同じような内容だが、マリアが言うとその身にすんなり入ってくる。それ故、シャーロットは「はい!以後気を付けますっ!」とミイナの時とは違う反応を見せたのだ。

 「それでは私はこれにて。」

 そういってマリアは静かに去っていった。

 

 「ふー、怖かった!!まるで孤児院の院長先生みたいだったわね。」

 「えぇ。本当に・・・。って、何でシャーロット様は女官長様の言うことなら素直に聞くのですか。」

 恨みがましく見てくるミイナに「それはそうと、」といってごまかす。

 「この箱何かしら。あけてみて!」

 先ほどマリアから受け取った小包を指差し、ミイナに開けてもらう。

 ガサガサと綺麗な包み紙を取り、ふたを開けるとそこにはシャーロットによく似合うイエロードレス。

 「まぁ、なんてかわいいの?」

 「本当ですね。きっとシャーロット様によくお似合いになりますわ!さっそく着替えましょう!」

 ふんわりと可愛いドレスに思わず顔もほころぶ。


 「よくお似合いですよ、シャーロット様。」

 それはアンダーバストでしぼってあるエンパイアラインのドレスで、そこからふわふわとボリュームのあるスカート部分。裾があまり長くなく、つまずくこともなさそうだ。

 「ミイナ、これすごいわ。コルセットを蒔かなくてもいいし、お腹も全然きつくない。お腹も目立たないし、何よりとっても軽いの!」

 妊婦にとってドレスを着るのは何よりも苦痛である。この時代のドレスはどれもウエストがきつく絞ってあり、大抵コルセットを巻かないと切れない。またそのラインを美しくするためたくさんの生地を使われたドレスはとても重く、歩くのも大変だ。裾も長く、小さいシャーロットは引きずるような形になってしまうため、気を付けないとすぐに転んでしまう。

 このドレスは妊婦であるシャーロットを気遣った、シャーロットのためのドレスなのだ。

 「本当に陛下はシャーロット様の事を大事に思われていますね。食器が割られた直後に美しい細工の銀食器をお送りになられましたし、茶葉が盗まれた後に頂いたお茶を飲まれるようになってからはシャーロット様の体調も見違えるようによくなっていきましたし、御靴が捨てられていた時には前の靴のようなヒールの高さはありませんでしたが、キラキラと宝石をあしらった可愛らしい靴を送られてきましたし。・・・そう考えたら陛下はいつもタイミングよく贈り物を送られますね・・。まぁ、そんなことはどうでもよいです。大事なのはいかに陛下がシャーロット様の事を慈しんでおられるか、です。」

 ここしばらく姿を見ていないエドワードにシャーロットはその想いを馳せた。

 「ホントに、そうね。お元気でらっしゃるかしら。陛下・・。また、あの笑顔を近くで拝見したいわ・・・。」

 シャーロットはホウッとその時の事を思い出し、頬をピンクに染め、窓の外を、王宮のある方向を見つめていた。

さて、昼に出て来たキリッイケメン女子のクリスティアナに代わり、今回はうっかりぽやぽや女子のシャーロットです。うっかり娘+しっかり侍女はテンプレですね!ミイナの苦労が窺えます・・。

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