第18話 早起きは三文の徳?本当にその通りだと思います
窓からうっすらと朝日が差し込み、窓の外からチュンチュンと小鳥の囀りが聞こえてきた。
1か月ぶりに夜に眠ることが出来たジュリアは早朝、まだ陽も低く、薄暗い時間に目が覚めた。
「ふわぁ。久しぶりに良い睡眠をとることが出来ましたわね。・・さて、と。」
するりとベットから降り立ち、長く乱れた髪を掻き上げる。
「誰か、いらっしゃるかしら?」
扉の外へ向かって声を掛けると、「はい、失礼します。」と返事が聞こえ、カエラが入室してきた。
「おはようございます、薔薇妃様。昨夜はよくお休みになられましたか?」
「えぇ、久しぶりによく眠れたわ。」
「それはようございました。・・あの、薔薇妃様?」
カエラが何かに気づいてジュリアを見る。
「陛下はどちらに行かれたのでしょうか?昨夜も今朝もお見送りをしていませんが。」
カエラに問われ、うっとむせそうになった。
「陛下なら、窓から帰られましたわよ?何でも今回は趣向を変えてみたいからと仰せでしたわ。本当に、陛下の御考えになる事にはいつもびっくりさせられますわね。」
ホホホと笑ってごまかし、その場を乗り切ることが出来た。
「薔薇妃様、失礼します。」
少しして、パメラが朝食とお茶を運んできた。
「ありがとう、パメラ。ちょうどお茶を頂こうと思っていたのよ。あぁ、それとカエラ。早起きしたついでに少し体を動かしたいから動きやすい服を用意して下さるかしら?」
「えっ?動きやすい服って、もしかしてアレの事でございますか?!」
カエラではなくパメラがゲッという苦虫を噛んだような顔をした。
「こら、パメラ。薔薇妃様の前でなんて顔をするの!」
窘められてしゅんとなる。
「ですが、薔薇妃様。私もあの服を薔薇妃様が着られるのはちょっと・・・。」
パメラを注意しておきながら、カエラも複雑な顔をしている。
「あら、どうしてなの?わたくし学園に通っていた際はよくあのような格好をして修練に励んだものよ?それに今日はあの服を着てちょっと行きたいところがありますの。ほら、あまり時間もありませんし、早く用意して下さらないかしら?」
ジュリアに急かされ、慌ててカエラが衣裳部屋へ向かって行った。
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辺りがようやく見えるくらいに明るくなってきた刻、見頃が少し過ぎた蘭が名残惜しむようにに少量の花をつけている庭で、1人汗を流しながら剣を振り下ろす人物がいた。
後ろで束ねた空の色と同じ髪を揺らしながら、朝だというのに夕焼けを移しているような瞳は一点を見つめ獲物を射抜くかのような輝きを灯している。王国騎士の服を身に纏い、1つ1つの動きが滑らかで美しい。
「・・・なにかご用ですか?」
その腕がピタリと止まり、少し低めの声で尋ねた。
「あら、気づかれてしまったわね。」
背後から現れたのは派手な顔に不釣り合いなまるで冒険に出る剣士が着るようなお世辞にも綺麗とは言えない服を身に纏ったジュリアである。
「あなたほどの気の持ち主が、この庭に近づいた途端その気を消したら、不自然に思うのも当然でしょう?」
(“気”って“気配”の事かしら。)
剣を腰に収めたその人物はくるりとジュリアの方を向き、ペコリとぶっきらぼうに頭を下げた。
「おはようございます、薔薇妃様。それで一体何の用・・・何故そのような格好をしているのです?!」
やっとジュリアの格好に気づいたのか、思わず声を荒げてしまった。
「あら、似合っていないかしら。これでも着こなし力はある方だと思っていましたのですけれど。」
「そう言う問題ではありません!」
「そうは言っても、貴女も似たようなものではございませんか?蘭妃様。」
蘭妃、クリスティアナは「それはそうですけれど・・」と納得がいっていない様子である。
「もういいです。それで、本当に何しに来られたんですか?そのような格好をして。」
くしゃくしゃと頭を掻きながら言われ、ジュリアは今一度自分の格好を確かめた。
(本当におかしいかしら、これ。いざというときこれをきて逃げようと思っているのですけれど・・・。)
そう、この服は冒険者としてのジュリアの一張羅といっても過言ではないのだ。
と、そんなことばかりを考えていると、クリスティアナに置き去りにされそうになるので、すぐに考えるのを止め、腰に携えた剣を抜き取る。
そのジュリアの行動にピクリと剣に当てていた手が反応するクリスティアナ。
「剣の達人でいらっしゃるクリスティアナ様に、朝の運動がてら、一戦、お相手願えないかと思って伺いましたの。」
ニコニコと笑っているジュリアだが、国一の腕とも言われるクリスティアナはその独特の空気にごくりと生唾を飲み込んだ。
「・・いいでしょう。私も一度貴女と一戦交えたいと思っていましたから。お手並み拝見させて頂きます。」
そういってスッと剣を構える。
「こちらこそ、胸を借りるつもりで頑張りますわ。」
2人が同時に目を閉じる。そして一時の間をおいて、目を見開いた瞬間、目にもとまらぬ速さで剣を打ち合い始めた。
「なかなかっ、やりますね、薔薇妃様っ!」
「蘭妃様こそ、すごいですわ。力負けしそうです!」
キンっキンっと小気味良い金属音が鳴り響き、やがてジュリアの手元から剣が振り払われてしまった。
「・・・どうやら私の負けですわね。参りましたわ。」
てから武器が離れたジュリア。その武器を振り払ったクリスティアナでは誰の目から見ても勝者がクリスティアナなのは明らかだった。が、納得がいかない様子のクリスティアナである。
「ふざけたっ人ですね。こんなにっ舐められたのは初めてですよっ。」
その顔には勝者の笑みではなく、敗者の屈辱の表情が浮かんでいた。
「なんの事かしら。わたくしにはもう武器がありませんし。勝ちましたのは蘭妃様で間違いないですわ。」
「そんなっ、少しも息が乱れていない人にっ言われたくっないですね。それに、貴女は、利き腕はっ左手のはずですよねっ。何故、右手で戦ったのですかっ。」
少し呼吸が荒いクリスティアナが剣の柄をグッと握り締める。
「あら。そう言えばそうでしたわね。つい貴女を見て同じように右手を構えてしまったわ。まぁ、左手が利き腕と申しましても、幼いころに矯正しましたから今はどちらの手でも何不自由なく使えますのよ?ほら、このように。」
そう言って落ちた剣を拾ったジュリアは器用に右手で剣をくるくる回し、そのまま天高く放り投げては柄を掴む、といった動作を何回も繰り返した。
「だからわたくし本当に本気で挑みましたのよ?息遣いに関しては体力がある方だと自負していますので、よほど長い距離を猛ダッシュで走りでもしない限り早々乱したりはしませんわ。」
(まぁ、こんなお行儀の良い形ではなく、魔法以外なんでもありな戦法を使えばおそらくわたくしが勝ったでしょうが。)
「ば、化け物ですか、貴女は。」
「そう仰る方もいらっしゃるわね。あぁ、久しぶりに体を動かしてとても気持ちがいいですわ!ねぇ、蘭妃様、わたくしも時々こうしてあなたと一緒に剣を交えたいのだけれど、よろしいかしら?」
(身体も鈍ってきているようですし、これ程の使い手であれば、きっと良い訓練になりますわね。)
最後に思いっきりヒュンッと空へ放り投げた剣はそのままくるくる回ってストンとジュリアの腰の鞘に収まった。その光景を見ていたクリスティアナは少し驚いた後プッと吹き出して大笑いした。
「アッハハハハハ!いいよ、薔薇妃様。なんか貴女といると楽しそうだし。普段の貴女なら近づくのもカンベンだけど、今のような貴女なら歓迎するよ!私の鍛練にもなるしね。」
「あらいやだわ、蘭妃様ったら。普段のわたくしでもお近づきになって下さいな。昨日の庭のお茶会にもお越しいただけませんでしたし。」
あの日、クリスティアナを含めた称号付きの側室は全員招待していたのに、クリスティアナだけは最後まで姿を現すことがなかったのだ。
「悪いけど、私はそういう女たちのなれ合いがあまり好きではないのですよ。動きづらいドレスも苦手ですし。だからそちらの付き合いは勘弁してください。そのかわりこちらの付き合いであれば喜んでお相手になりますから。」
ニっと笑うその姿は彼女が女であるということを忘れてしまいそうになる。
「ではこちらの姿でのことはわたくしと蘭妃様だけの秘密ってことにしませんとね。」
「そうですね。他の側室達には相容れない事だと思うし、干渉もされたくないし。」
フフッと見合わせて笑い、2人は蘭の咲く庭を後にした。
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クリスティアナと別れ、部屋に戻ったジュリアは、汗を流したいからとカエラ達に湯あみの準備を頼み、1人寝室に入った。
(これで少しではありますが蘭妃様とのつながりが出来ましたわね。脱!ぼっちへの第1歩ですわね。今までの妖精たちからの報告と、今朝の様子からするとあの方は後宮の勢力争いに全く興味がないご様子。と言いますか、そもそも何故このようなところにいらっしゃるのかしら。あの方が最も嫌悪する場所だと思うのですけれど・・・。)
そういえば他の側室達の入宮の理由を知らなかったなと今更ながらに思う。勿論自分から望んで入った者もいるとは思うが、ジュリアのように権力を得るための駒にされている場合もあるだろう。それが分かればこの後宮において、裏で側室や女官達を操り、上手く自分の願いを叶えるための材料になるのではないかと、考えた。
「ミランダ、ちょっといいかしら。」
湯あみの準備をしているミランダに声を掛け、寝室へ招く。
「はい、どうされましたか?薔薇妃様。」
とりあえず手に持っていた道具を棚の上に置き、寝室へ入るミランダ。ミランダが入室し、扉を閉めるのを確認すると、口を開くジュリア。
「貴女に少し調べてもらいたいことがあるのですけれど、よろしいかしら。」
「はい、どのようなことですか?」
ジュリアは側室達のリストと、その実家について、また入宮の理由などを調べるようにミランダに指示した。
「ここで得られない情報については女官の貴女なら内官と会うことも出来るでしょう?これを使って、彼らから情報を上手く得てくださいね?」
ジュリアは懐から麻の袋を取り出した。中には金貨が大量に入っている。
「こ、こんなにですか?!確かにこれだけあれば口を割る内官様もいらっしゃると思いますが、一体そこまでしてお調べになって、何をされるんですか?」
この時代、金貨10枚で立派な家が建つとまで言われるほど金貨の価値は高い。その金貨を惜しげもなく大量に渡されて、ミランダは内心ビクビクだ。
「ごめんないね。貴女を信用していないわけではないけれど、まだ話すわけにはいきませんの。でも、ほかならぬ私の頼みですもの。勿論、聞いて下さるわよね?」
ジュリアにそう言われては断れないミランダである。
「勿論です。命に従います。」
ミランダの是の返事にジュリアは軽くうなずき、笑った。
「あ、あと湯あみが終わりましたら、女官長様を呼んできてくださるかしら。」
「それは構いませんが・・。」
何故かと尋ねそうになったが、それは聞かない方がいいのだろうと悟ったミランダは口を紡ぐことにしたのだった。
ついに登場しました、蘭妃です。
とりあえず今回はご挨拶程度の腕試し。
彼女が今後味方になるのか、否か。
他の側室との関係は?等々
楽しく予想しておいてください!




