第11話 大賢者の罠?何それ、楽しそう。
ジュリアの寝室で、マリアに柱の魔法陣を発動させ、封じられていた妖精にあったとだけ説明したジュリア。元々後宮に施されている魔法陣の詳細までは知らないのか、それだけの説明でマリアはなっとくしてくれた。もちろん、その魔法陣が4属性それぞれの魔力が必要だったことや、ジュリアが、死角なし、音声付の防犯カメラのような力手に入れたことは秘密だ。
「そうですか。その魔法陣は特に後宮に住まうご側室や女官達にとって害となるものではないのですね?」
さすがは女官長。心配していたのは後宮の人間の安全だったのである。まぁ、目の前でその後宮の魔法陣によって人が死ぬところを見たのだから無理もない話だが。
「えぇ。特にあの妖精は何か悪さをするという者でもありませんでしたし。せいぜい後宮外部からの侵入を防ぐということくらいしかしないはずですわ。」
実際にジュリアは彼らに何があっても人に危害を加える前にまず自分に報告をするようにお願いしており、彼らは自分達の封印を解いたジュリアを主人として認めているため、ジュリアの意志に反するようなことはしないのだ。
「それならば、よいのです。それでは私はこれで。業務に戻りますので。」
結局入れた紅茶に手を付けることなく、マリアは薔薇妃の間をあとにした。
(ふぅーっ。あー、びっくりした。突然猛烈な勢いでわたくしのところに来たと思ったら、「大至急、伺いたいことがあります!」なんてものすごい剣幕で言うんですもの。あれがばれちゃったのかと思いましたわ。)
マリアのいなくなった寝室で、既に覚めてしまった紅茶を一口だけ飲み、息をついた。
『薔薇妃様・・・。せっかくの忠告、聞き入れてもらわなかったようですね。』
ふわりと優しい風が吹いたと思ったら目の前にウインドが浮かんでいた。その顔は優しいとは言えず、怒っているようだったが。
「だって。ついおもしろそうだなーって思ってしまったんですもの。」
『だってじゃありません!アレは【闇の力】を秘めている危険なものなんですよ?!そもそも【罠】だと言っているのに、何でわざわざ引っかかりに行くんですか!』
ウインドの話だけ聞いていると、ジュリアが問った行動は只の馬鹿である。そこに落とし穴があると分かってて、わざわざはまりに行くものなどいない。ジュリアはそれをやってしまったのだ。
「そんなこと言ったって・・。後宮って裏でこそこそ陰謀を企むくらいで、何か魔物が現れたりとかのイベントって発生しませんもの。わたくしには退屈すぎますわ。本当は早くこんな退屈なところから出ていきたいんですけれど、今のところまだこの後宮にわたくしを手助けしてくれそうな人は見つけていませんし・・・。そもそも、貴方達を解放したのも、面白そうだなって思ってやったことですし、わたくし、常に探究心だけは持っていたいと思っていますもの!」
ぷくーっと頬を膨らませるジュリア、そこには悪徳令嬢としての面影が一切なかった。
『・・駄目ですよ。そんな顔しても。そんな面白そう!って思いだけで起こしていいものではなかったんですよ!アレは。』
一向に表情を緩めないウインドに、ジュリアはさすがに気まずくなった。
「そ、それは確かにまずかったかなーとは思いましたのよ?まさかあんなことになるなんて。大体、罠なんて基本それに触れたモノに対して危害を加えたりとかするものではありませんの?それがあんな・・・」
まぁ、ある意味危害みたいなものを加えられているのは事実である。
正直、ジュリアにもあの出来事は想定外だった。
ウインドに言われて『大賢者の罠』に興味がわき、それを探し始めたジュリアは、やがて後宮の中に『闇の魔力』が集中している部屋があることに気づいた。
大賢者は『闇の魔力』を持っていたことで有名だったので、ジュリアはそこに『大賢者の罠』があることを確信し、誰にも見つからないよう、『不可視』の魔法を使ってその部屋へ向かった。因みに『不可視』は『闇の力』を使う魔法で、所謂透明マントみたいな効力がある。
とにかく、誰にも見つからずその部屋にたどり着いたジュリアはその部屋が何かの力で固く閉ざされていることに気づいた。というか、この部屋自体意識してこの部屋に来ようと思わない限り見つからないようになっているようで、ジュリア自身も目に魔力を集中させて意識的にこの部屋を探したから見つけることが出来たのだ。それに加えてその部屋の扉にはこの後宮に来て何度も目にした真っ黒な『失われた言葉』で描かれた魔法陣が一面にあり、ジュリアはごくりと生唾を飲んだ。。
(これも薔薇妃の間みたいな作用があるのかしら。えぇと、意味は・・『汝、闇の深淵を覗く愚か者か、否か。』・・それだけですの?なんでしょう、この場合この扉を開こうとするのが愚か者で、ここには触れず立ち去るものが否の方なのかしら。うーん、まぁ、いいわ。とりあえずやってみなければわからないものですしね。)
考えることを放棄したジュリアは今までと同じように魔法陣に手を当てて、『闇の魔力』を込めた。ジュリアの手から魔法陣に移った『闇の魔力』はこれまた今までと変わらず、ジュリアの手が当てられているところから黒い光(といっても黒いのだから若干靄のようにも見える)が魔法陣をなぞるように広がっていく。そしてそれが魔法陣を一周した時、突然魔法陣から黒い手のようなものが飛び出してジュリアを魔法陣の中へ引きずり込んだのだ。
「―――――っ!!なんなんですの?!これは!」
自分で招いたことながら、されども自分が考えていたのとは違う現象が起き、少しだけパニックになるジュリア。ジュリアが引き込まれたのは何もない真っ黒な世界だった。否、何もなくはない。暗闇の奥に青白く光っている部分がある。
「・・・あれが『大賢者の罠』なのかしら。それともあの魔法陣自体が罠?・・考えても無駄ですわね。冒険者たる者、自分で見、自分で確かめ、経験とせよ!よ。さぁ、大冒険とまではいきませんけど、プチ冒険の気持ちでいきますわよ!」
フンっとやる気に満ちたジュリアは歩くのに邪魔なドレスの裾を持ち上げ、ズンズンと、淑女にあるまじき大股で青白い光の元へ進んだ。
「あれは・・・本?」
青白い光のすぐ近くまで来ると、青白い光を出しているモノが何なのか分かった。
その本はアンティーク調の台の上に乗せられており、薄いガラスでできた膜のような半球状のものがそれを覆っていた。
その膜にジュリアがふれると、パリンっと音を立てて膜がはじけ飛び、一瞬の内に塵と化した。
「な、なんなのかしら。さっきの・・。」
特に何かしたつもりはなかったが、まぁ勝手に壊れたのならいいかと、それ以上その膜については考えず、目の前の本に視線を移す。
古びた真っ黒なその本は銀色の『失われた言葉』で『大賢者の罠』と表紙に書かれている。
「あら、やっぱりこの本の事でしたのね。それにしても、魔道書かしら。これ。古いダンジョンとかにあるとかいう噂のやつ?」
わくわくした気持ちを抑えつつ、その本を手にとろうと、本に手を触れる――――――
カッとまばゆひかりがその本から発せられると、本の頁が勝手にパラパラと捲られていく。それぞれの頁に描かれていた呪文や情報が本から飛び出していき、ジュリアの頭の中に入ってくる。
「な、何が起こってますのっ?!」
突然頭の中に入ってくる情報にジュリアの思考が追いつかず、目をぎゅっと閉じた。やがてすべての頁が捲られ、浮かび上がったすべての文字がジュリアの中に入りきると、本がひとりでに閉じた。
「お、終わりましたの?・・・違うわ!」
おそるおそる目を開け本を確認しようとすると本は黒い炎を纏って燃え上がり、それが消え失せるとそこに1つの魔法陣が浮かび上がった。
「っっ??!」
ジュリアは驚愕した。その魔法陣からスゥーッと黒衣に包まれた人間が出て来たからだ。
「だ、誰・・?」
色味のない肌に漆黒の髪、知的な赤い瞳に不敵に笑う口は真実、『魔王』という言葉がピッタリである。
「・・あ、あれ?おかしいですわ。わたくしなんでこんなにはっきりこの方が視えますの?!」
ここは真っ暗闇な空間。先ほどまでは本が発光していたためその近くであればうすぼんやりとではあるが視覚を確保することが出来ていたが、現在その光たる本は消滅し、突然出て来た魔法陣もそれ自体は光ってはいたがこんなにはっきりと人物を、それも色までしっかり確認できるほどのものではないのにも拘らず、ジュリアにはその人物のことがしっかり視えていた――――否、分かったという方が正しいのかもしれない。
「おい、娘。俺を起こしたことに礼を言おう。」
唐突に男が喋り始めたが、ジュリアの頭にはまだ?が浮かんでいる。
「あぁ、無事に俺の『魔道書』も受け継いだようだな。・・・って、なんだお前!?きっもち悪いやつだなぁ!」
「・・は?!なんですって?!」
ぶはっと噴き出した男にジュリアはカチンときた。
「自分で言うのもなんですが、わたくしそれなりの美貌はもってますのよ?妖艶の美女と謳われたわたくしに向かって気持ち悪いですって?!」
初めて自分の容姿が貶されて、ジュリアは自分でも吃驚するくらい頭に来ていた。
「ハハっ。悪い悪い、お前の見た目が気持ち悪いっていったんじゃない。中身だよ、中身。」
「もっと悪いですわ!確かに多少困った性格ではあると自覚していますが、気持ち悪いって言われるほどのものではありませんわ!」
もっと腹を立ててしまった。
「違うって!性格じゃなくて、お前の魔力だよ。魔力。」
「は?魔力ですって?」
男の喋り口調にすっかり先ほどまでの緊張と戸惑いがなくなってしまったジュリアは素で反応してしまう。
「そうだよ。魔力。何々?生まれ持った性質は『闇』と『光』。後天的に4属性全て会得ってところか。うっわ、ほんと気持ち悪ぃな。見たことないぜ、こんなもの。」
ジロジロと自分を見てくる男に咄嗟に腕で自分の身を覆う。
「どうしてそんなことがわかりますの?―――大賢者様。」
ジュリアの反応におっ?と意外そうに笑う漆黒の男。
「よく分かったな。俺が大賢者だと。」
「当然ですわ。そもそも先ほど自分であの本の事を『俺の魔道書』と仰っていたではありませんか。馬鹿にしないでください!」
唇をとがらせるジュリアは普段からは想像もつかない程幼く見える。
「ハっ、そういやぁそうだったな。悪ぃな。」
ポンポンと頭を叩かれてジュリアは複雑な気持ちになった。
(な、何ですの?この御方。伝承と全く違うじゃない!誰よ、大賢者が知的で思慮深いミステリアスな紳士って後世に伝えたのは!)
どちらかと言えばたたき上げの武将という方が似合う大賢者。密かに同じ『闇の力』を持つ者として憧れを抱いていたジュリアのイメージが音を立てて崩れていった。
「まぁ、そう言うなって。伝説や伝承なんてものはある程度脚色されるモノなんだから。悪かったな、理想の大賢者様じゃなくって。」
「っ?!!」
それまでくしゃくしゃと自分の頭を撫でていた手を振りほどき、一歩後退する。
(い、今、この男、わたくしの心を――――)
「読めるぜ?」
(なんてことっ!!)
声に出していない問いに答える大賢者。一気に警戒を強めるジュリア。
「おいおい、お前も『闇の魔力』をもつ者なら分かるだろう?『闇の魔法』は大概、精神に作用するものが多いってことが。人の心が読めるなんざ、序の口よ。」
「一緒にしないで頂きたいですわ。そんな人外じみたこと、やろうとも思いませんでしたし。それにあの魔道書にはそんな情報や魔法かかれていませんでしたわよ?」
『魔道書』とは、名だたる魔法使いたちが残した彼らの知恵の結晶とも呼ばれる本である。生涯の中で自分が生み出した魔法などがしたためられており、何らかの方法で認められた者へ継承される知識なのだ。
「そりゃそうだ。あれには俺の知識の3分の1くらいしか書いてねぇもん。大体あれにかかれている情報や魔法はあくまでおまけで、メインはこの、俺様大復活の魔法陣発動だ!」
そんなことをドヤ顔で言われても困ると、呆れるジュリアは一瞬警戒を緩めそうになり、プルプルと首を振って惑わされないようにする。
「何千年も前に死んだはずの、大賢者様が何故わざわざこの時代に復活する必要があるのです?そのまま眠りについていた方が、世界のためにもよかったのではありませんか?」
心を読まれるのであれば繕ってもしょうがないと、ずけずけと本心を言う。
「それはだな。あの時代に天才たる俺でも叶えることの出来なかった事があるのだ。」
『天才』と恥ずかしげもなく言う彼に呆れを超え、感心してしまう。
「それはだな、俺様の優秀な遺伝子を受け継ぐ子供を作ることだ!」
「・・・・・・・は?」
どうだ!と言わんばかりに胸を張られても、ジュリアには大賢者の考えが理解しがたいものだった。
「べ、別に子供なんてわざわざ自分を封印して遠い未来に、しかも復活できるかどうかも分からないのにそこまでしなくても元の時代でも作れたでしょう?意味が解りませんわ!」
「そりゃぁ、ただ子供を成すってんなら簡単だろうけど、俺様は只人とは違う大賢者でな。普通の女には俺様の遺伝子を受け継ぐ子供を孕むことなどできないんだよ。それこそ後宮の正妃や側室レベルに魔力の大きい女くらいじゃなきゃな。だが俺の時代の後宮の側室達は皆、妖精に守られた存在だったから俺様の魔法で惚れさせることなんてできなかったし。そんなことをすれば妖精の力と反発して命を落とすかもしれなかったし。で、側室は皆アイツの女だから俺には見向きもしなかったしな。あーあ、俺ってば可哀想すぎる。」
少しも可哀想なんて見えない男の口ぶりにどう反応すればよいか分からなくなってくる。
「それでだな、代々魔力の高い女たちが集められるこの後宮に、ある一定条件を満たす者にだけ見える扉を作って、これまた条件を満たす者にだけ発動する魔法陣を仕組んで・・(以下略)、そうやっていくつもいくつも仕掛けを施して最終的に俺様を復活させることのできたやつを見つけるためにここまでやったんだよ。どうだ?すごいだろう。」
すごいだろうと言われても。
(何なんでしょう、この自信。そこまで手の込んだ仕掛けを施してそれに見合うだけの女性を見つけても、その女性が貴方に惚れるなんて確証はどこにもないのに・・。は!と言いますか、この状況でその話。もしかして・・・。)
「そうだ。お前が俺に選ばれた俺様の子供を孕む女ってことだ!どうだ、うれしいだろう?光栄に思え。」
ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべる大賢者は腕を広げて何故かジュリアが飛び込んでくるのを待っているように見える。
「いやいやいやいや、あり得ませんわ!どうしてわたくしが貴方の子供を孕まなければなりませんの?あー、無理。寒気がしますわ。」
本気で、本心から嫌がるジュリアを、大賢者は不思議に思った。
「あれ?おかしいな。ちゃんと俺が復活するまでに俺に恋慕の情を抱くようにいくつもの魔法を仕掛けていたのに。そもそもその魔法が発動していなければ俺は復活できないはずなのに。」
さらりととんでもない発言をされてジュリアはゾッとした。
(何よそれ!どこの変態よ!・・あ!だからさっきあれほど自信があったのね!)
つまり、着々と大賢者の仕掛けを発動していき、『魔道書』を手に入れ、大賢者が復活する頃には大賢者にメロメロな恋奴隷のような女が出来上がる、という仕組みを作っていたのである。
「うぅむ。これは想定外だな。まさか俺と同等、もしくはそれ以上の魔力を持つ女が存在するなんてな。」
どうやらジュリアの潜在能力の高さにより、『大賢者様大好き!喜んで貴方の子供を産みます!』というようなおぞましい結果をもたらすようなことにならなかったようである。
「まぁ、これからお前を落とす、というのも楽しみの1つとして受け止めよう。」
くつくつと笑いながらジュリアの髪を一筋掴み、自分の口元に持っていき、ちゅっと口づけをした。
ジュリアはそれをバッと払いのけ、真赤になってキッと睨みつける。
「わ、わたくしは貴方になど落ちたりしませんわ!それに、仮にもわたくしは国王の側室、薔薇妃の称号をもつ女!そんな女に手を出したら死罪も免れませんわ!」
今迄一度も頼ろうとは思ったことがなかったが、ジュリアは初めてエドワードの名前を盾に大賢者に反論した。
「側室って言っても、お前別に国王の事を好いている訳じゃないだろう?」
「うっ。」
「それに・・・まぁ、残念ながら手つきではあるものの、まだ授かっているわけではないみたいだし。」
「何故わかりますの!」
「アイツが覚醒している訳でもないしな。まぁ、俺様以上の男なんていやしないんだから、諦めてとっとと俺様の所に堕ちてこいよ。」
甘い甘い甘美な誘惑のように聞こえるソレは、ジュリアがせき止めていた何かのスイッチを押す十分な理由となり、昨夜のエドワードのことも加えてジュリアの、心の中のナニカが爆発した。
ピカッッッ!!!
とまばゆい閃光がジュリアから発せられると、真っ暗闇だった空間が瞬く間に炎に包まれ、やがてそれは炎の海となり、辺り一面に広がった。轟々と燃え盛る炎の海の中で、ジュリアはその美しい髪を巻き上げながら目の前の男を睨みつける。
「おっと。こいつはまずいな。いくら俺でも無傷じゃいられなくなってしまう。じゃあ、俺は早々に退散するぜ。またな、ジュリア!」
名乗ってもいないのに。何故かジュリアの名前を知っていた大賢者はすぅっと消えていなくなり、と同時にジュリアのいた空間もパラパラと壊れて気づけば後宮の廊下に戻っていた。
勿論、あの扉はそこにはなく。何もない壁だけがジュリアの前に立っていた。
我に返ったジュリアは女官達の足音が耳に入り、そそくさとその場から立ち去った。
「大体、『大賢者の罠』がなんなのかはっきり説明しなかったウインドにも非がありますのよ?」
あの時の事を思い出しただけでもぞっとする。大賢者はジュリアの憧れの人から一転、変態2号と立場を変えていた。勿論、1号はエドワードである。
『ですから、普通罠と聞いて近づく方がおかしいのです。それにまさか薔薇妃が【闇の力】までもっていてあの封印を解くなんて思いませんでしたし。』
「そうそう、俺もまさかお前がこいつらの封印まで解いているなんて思わなかったぜ。」
「ひっ!!」
ガタンと椅子から滑り落ちたジュリアは突然現れ、ごく自然に会話に参加している男に恐怖を感じた。
「な、なんで平然とここにいるのですか?!大賢者様!」
ベッドに偉そうに寝そべる大賢者に、風の妖精たるウインドは驚きを示さず、ただただ困ったようなものを見る目でため息をついた。
『ジュダル。相変わらずですね。人間の心臓には悪いから、その神出鬼没な登場癖はやめなさいと何度も言ったでしょう。』
「お前も相変わらずかったいなー、ウインド。いいじゃないか。俺が楽しいんだから。」
そう言う問題ではない、とジュリアは思う。
「あ、貴方達、知り合いでしたの?」
2人の雰囲気にどこか置いてきぼりになっているジュリアはゆっくりと立ち上がって聞いた。
「あぁ、だってこの後宮にいたるところに魔法仕掛けたの、俺だし。さっきも言っただろ?俺の時代の側室達は皆、妖精に守られていたって。こいつらのことだよ、その妖精。」
『こいつら』と言われてポンッポンッと次々に他の妖精たちが姿を現した。
『あっれぇ?ジュダルがいるぅ!ひさしぶりぃ!!』
『げッ!何でお前が復活してんだよ!!相変わらず気持ち悪い面だな!』
『フレイム、言いすぎだよ?ジュダルは別に顔は悪くないよ?性格がねじ曲がっているだけだって!』
ストーンはにこにこと、フレイムは苦味つぶしたような顔で、アクアは無邪気に、十人十色な表情をしている。
「すげぇな。俺の封印だけでなく、こいつらの封印も解くなんて。おまえ、本当は化け物かなんかじゃねぇの?」
ヨッとそれぞれの妖精に挨拶を交わし、面白そうにジュリアを見る。
「なっ、化け物は貴方のほうでしょう?!わたくしはそんな何千年も後に復活するような非常識なことはしませんもの!」
数々の魔法陣を発動させ、妖精の封印を解き、大賢者の復活をもたらしたその行為は非常識ではないのだろうか。と、その場にいる妖精4人は思った。
『薔薇妃、落ち着きなさい。この者の言うことは気にしないのが1番です。相手にするだけ無駄ですよ?』
ジュリアの肩を叩いて落ち着かせようとするウインド。
「おいおい、十分な言い草だな。さすがの俺でも傷つくぜ?」
『茶化すのはやめなさい。』
ニヤニヤと笑うジュダルにぴしゃりと言ってのける。
『そもそも何しに現れたのですか。あなたは少しでも動いたら災いしかもたらさないのだから大人しく封印されていればよかったのですよ。封印が解けてしまったのはもうしょうがないから、何もせず、ただただ息を吸うだけにしておきなさい!』
まるで穀潰しをなじるように刺々しい口調でなじるウインドはおそらく遠い昔にジュダルにひどい目に合わされたのだろう。心中を察して同情するジュリアである。
「いやぁ、ね?俺もしばらくは大人しくしてようかなーって思っていたんだけど・・。どうも匂うんだよ。」
『・・何がです?』
片目を伏せ、もう片方の目でチロリとジュダルを見る。
「アイツがいるような、いないような、そんな気がしてならないって言ってんの。」
『げっ!!』
ウインドの代わりに声を漏らしたのはフレイムである。
『ま、マジかよ?!なんでアイツまで出てくんだよ!』
焦りと驚き。その2つが垣間見えるフレイムはジュダルに詰め寄った。
「いや、まだいると決まった訳じゃないぞ?ただ・・こいつから少しだけ、アイツの匂いがする。」
そういってジュダルが顎でジュリアを示し、皆一斉にジュリアを見た。
「な、なんなのっ?!」
視線に居た堪れなくなり、ジュリアはウッと後ずさりした。
気づけばブックマーク登録が1000件になっていたので。
本当は4/18の昼間か夕方位に更新する予定だったのですが、
うれしくてこのタイミングで更新しました。
エドワードに続いて、変態2号の登場です。1号の能力はストーカーです。2号の能力は洗脳です。ジュリアには効きません。




