池の畔にて
「僕は貴女の為人を、釣書と父の教えてくれた情報でしかしりませんが……」
少し強張っている彼女の表情を見て、真剣な話だし仕方なしと気落ちしつつ続ける。
「室内では狐色に見えましたが、陽の下ではの橙の実のように見えます」
「……ええと?」
「貴女の瞳です。髪は、流行りのお菓子のようで甘い香りがしそうだと。……すみません。母も亡く、女性に向けた表現がおかしいかもしれませんね」
取り敢えず初見の感想は最上であると伝えたいが、如何せん男所帯の弊害か言葉が上手いこと出ない。
「姿勢がとてもきれいで、あぁ、これはお伝えしましたっけ、立葵の花の様で僕には高望みの過ぎたお相手だと思いました。
……貴女の言葉を借りるならば、親睦を深める対象にすらしてもらえない、と思いました」
「!その様な事は……」
慌てたような言葉を不躾にもわざと遮る。
「でも!……僕は年若いので、まだ将来に向けて頑張れます。縁は努力でも続けることができると信じて下さいませんか。
貴女の事を教えてください。食事の好みや好きな事、まずは先の話の似非紳士の愚痴でも構いません」
「えせしんし……」
反応するのはそこなのかと思いつつ、少し舌足らずなのが可愛いので、ちょっと笑顔になりつつそのまま伝える。
「すてきです。貴女はきれいだし、とても、魅力がお有りです」
池で何か飼っているのか、大きな水音が聞こえた。気を取られて視線をそらしたら、くぐもった声が聞こえて、慌てて戻す。
戻した視線の先で、みるみるうちに顔色が赤くなってゆくのを見て、「可愛い……」と口から出た。
取り出した扇子で顔をぎこちなく隠す彼女から、またくぐもった声が聞こえた。
その様子を見て、はた、と気付いてしまった。
僕は何かとんでもなく恥ずかしいことをした、気がする、と。
顔が、彼女に釣られるように赤くなっていくのがわかった。あっっつい!顔熱い!
何時ぞや町中で女性を口説いていた人が、今の僕と同じようなことを言っていた。じゃあ、僕は始めましてのこの日に、彼女を軟派男よろしく口説いたということか!恥っっずかしい!
いや、お見合いなのだから、気に入ってもらえるように言葉を尽くすのは、きっと当然のはずだ。僕は選んでもらわなくてはならないのだから!
従姉妹たちは言っていた。女性という花は、言葉という栄養を惜しんでは、きれいに咲う事は無いのだと!
ならば彼女は笑っていないのだから、きっとまだ足りないのだ。……恥じていては駄目な場面だ。まだ足りないのだ。
「許されるのならば、一緒にお出かけもしたいし、贈り物もしたいです。そのためにはやっぱり好みを知りたいですし、お手紙も欲しいし、僕は書きたいです」
「笑ってほしいですし、しょ、将来は花嫁衣装も見たいです。きっととても似合います。とてもきれいだと思います。今の衣装もとても似合っていますが、僕の髪に似せた蜂蜜色の服だって、きっと似合います」
何だか、僕の妄想を垂れ流しただけな気もするが、気にしている場合ではきっと無いのだ。
寝る前に思い出して、今夜は部屋の床を転げ回るだろうけど、考えないようにした。




