庭園にて
ちらかったままの思考はさておき、なんとかエスコートをと並び立った時に気付いた。
……背丈が足りていない。立葵の花の様なご令嬢の目線が、僕の上にあるのだ。
「申し訳ありません」
庭園でゆっくりと歩きながら、僕の口からは思わず謝罪の言葉が出ていた。この縁が続けてもらえるならば、背丈をなんとしても伸ばさねばならぬ、と決意を漲らせた僕は、立ち止まったご令嬢に向き合った。
彼女は、なんというか、仕方なし……というような表情でこちらを見たので、これは呆れられている!これからに期待してもらえるように何かを言わなくては、と息を飲み込んだその時、
「やはり年上で、この様な可愛らしさの足りない、背ばかり大きい女はお嫌ですわね」
自分に言い聞かせているような、悲しげな声が聞こえた。
は?
「は?背が足りないのは僕ですが?」
不躾な声が出た気がするが、思わず本音が出た。
「幼少の頃はどちらかというと小柄で、今だって同年代の平均にやっと届いたところなんです。兄様だって、領地の兵達だって僕よりずっと大きいです。僕はまだ諦めていません、まだ伸びるんです。今も止まってないです。修練着も詰めたところを解いたんです」
「……」
「……」
「……まぁ、そうなのですね……?」
少々の沈黙の後の、気遣いの相槌が聞こえた所で、失態を自覚した。
呆気にとられた表情もなんというか可愛いな、等思いつつ、こうなったらもう聞いてもらえるだけ聞いてもらおう、と開き直った。
「貴女はとても立ち姿がきれいです。笑窪も可愛いし、声だって落ち着いていてすてきです。僕は貴女とお会いして、生家の庭の立葵を思い出しました」
呆気にとられていた顔が、少し真剣な様子になるのを横目に、再びレンガ敷きの遊歩道を歩き出しながら続ける。
「僕達の年の差は三歳だと聞き及んでいます。ですから後三年程経って、今の貴女の年齢になった僕を見て判断していただければと思います。勿論、この縁を続けていられたらの前提ですが。……そこまで待てない、年下なんて願い下げだと言われてしまえば、僕は諦めるしかありませんが。背も届かないですし」
いや、こんなきれいな人を連れて歩けるなんて、お断りされたとしても悔しいが、しばらく落ち込むくらい悔しいが、良い思い出になるな、等考えながら整備された池に差し掛かった辺りで、黙って聞いてくれていた(聞いてくれていたんだよな?呆れ返っていたわけではないよな?)彼女が、ぽつりと返してくれた。
「縁を続けたいと、そう思って?」
彼女の言うに、過去、三度のお見合いがあったらしい。そのどれもが、実際に顔合わせをした後にお断りをされて、中には直接、「もっと可愛らしい、小柄な女性が良いに決まっている」などと宣った似非紳士もいたらしい。
他の令嬢よりも、背丈がある方だという自覚があったが、ここまで言われなければいけない程なのか。世の男性は、可愛らしく腕の中にすっぽりと収まるような御令嬢でなければ、親睦を深める対象にすらしてくれないのかと、疑心を抱いたそうだ。
風評被害である。男性全員がそんな考えな訳が無い。
実際、背の高い奥さんを溺愛していて、「最高にイイ女だ!歩く姿なんか堪らん」と言っていた騎士団員もいた。僕は格好良い女性だ、とは思ったが、「堪らん」はよく分からなかった。
「……ですから、まだ年若い貴方は他のご令嬢をお選びになるのかと」
小さな整備された池に差し掛かった辺りで、再び立ち止まり向かい合った。
水の反射が煌めき、少し出てきた風がざわざわと植栽の枝葉を揺らした。




