第71話 選ばれし牙、眠れる力
静かな日常は、ふとしたきっかけで次の冒険へと繋がっていく。
――その鍵を握るのは、小さな仲間の成長だった。
朝の光が差し込むダイニングで、シアンはマグカップを両手に包み込んでいた。
ロアスは庭で軽く走り回り、リントは足元でくるりと丸まって眠っている。
バルトの言葉を思い出しながら、シアンはふと窓の外へ視線を向けた。
広い庭の先には、少し傾斜のある草地が続いていて、その向こうには背の高い森が控えている。
「……畑かぁ」
土を耕し、種を植え、水をやる。
想像してみるものの、今の自分たちには手が回りそうになかった。
ロアスとリントの世話、スキルの習得、新たな生活に向けた準備……。
「やること、まだまだ多いもんね」
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ソファへ移動すると、リントが目を覚まし、小さなあくびをした。
その姿を見て、シアンは微笑みながらステータスウィンドウを開いた。
イベントで孵化した直後は「幼体」だったリントの状態が、すでに数段階進化していた。
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《霜牙の幼狼:リント》
種族ランク:B+(成長型)
属性:氷・光
タイプ:魔法火力型
HP:1200/1200
MP:2480/2480
攻撃:420 防御:360
魔攻:1320 魔防:980
素早さ:870
固有反応:《零紋》—微量の冷気を感応し、周囲の凍結危険を予知
スキル:アイスニードル(氷)、フラッシュレイ(光)、ミラーフロスト(魔法反射・小)
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「……ほんとに魔法型なんだ」
感心してつぶやくと、リントは誇らしげに尻尾を振った。
ステータスの傾向は明らかに魔力と素早さ寄り。氷と光――いずれも魔法属性としては珍しい組み合わせだった。
特に固有反応《零紋》は、氷系魔物が潜むエリアで発動し、フィールドギミックやトラップを感知するらしい。
まさに、探索に特化した特性だ。
「……そろそろ、動き出そうか」
卵から孵ったばかりとは思えない成長ぶりを見て、シアンは静かに決意する。
次なる目標は、やはり実戦。
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メニューを開き、《ギルド連絡板》を選択。
プレイヤーギルドが共有している「一般公開クエスト掲示板」が表示され、現在受注可能な討伐依頼がずらりと並ぶ。
「……近場なら、このあたりかな」
選んだのは《東の丘陵地帯に現れた雷獣の討伐》。
個人参加OK、推奨レベルは20前後。報酬はシルバーコイン300枚と、魔獣の牙アイテム。
しかも、ライボルグは氷属性に弱いため、リントとの相性も良さそうだった。
【討伐依頼:東の丘陵地帯/雷獣ライボルグの討伐】
条件:ソロ参加可/パーティ可
報酬:シルバーコイン300、雷獣の牙(武具素材)
状況:現在参加者4名、同時出発枠あり
「よし、これでいこう」
参加ボタンを押すと、確認ウィンドウが開き、出発時間までのカウントが始まる。
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「ロアス、リント、準備しようか」
呼びかけると、二匹は揃って立ち上がる。
ロアスは自分の首輪を咥え、リントはくるくると足元を回って小さく鳴いた。
「うん、大丈夫。一緒ならきっと乗り越えられる」
シアンは装備を整え、マントの下に新しく入手した隠密系スキル《シャドウシフト》をセットする。
草を踏む音を消し、気配を抑えるスキル。偵察や接近に使える便利な一手だった。
広い庭の片隅で、風が静かに葉を揺らす。
「次は……ちゃんと、守れるように」
リントの成長が、シアンに新たな一歩を踏み出させてくれました。
討伐依頼を通じて、また彼らの日常に新しい風が吹き込まれていきます。
次回は18時更新予定です。




