第70話 扉を開けた先に
新しい暮らしの始まりには、必ずといっていいほど「訪れる人」がいる。
それが思わぬ出会いになることもある――。
マイホーム空間で迎える二日目の朝。
陽光が庭の芝生をきらきらと照らし、遠くの森からは鳥のさえずりが聞こえてくる。
シアンはキッチンで湯を沸かしながら、ロアスとリントに朝食を用意していた。
そのとき――コン、コンと木の扉が叩かれる音。
NPCがこの空間を訪れるとは思っていなかったため、シアンは一瞬だけ動きを止めた。
扉を開けると、そこには背の高いおじいさんNPCが立っていた。
白く長い髭を蓄え、落ち着いた藍色のローブをまとい、片手には木製の杖。
穏やかな笑みを浮かべて、低く響く声で言った。
「やあ、新しくこの辺りに来た人だね?」
「……はい。シアンです」
名乗ると、おじいさんはゆっくり頷き、手にしていた小袋を差し出してきた。
「これは歓迎の品だ。森で採れたばかりのハーブだよ。お茶にも料理にも使える」
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招き入れると、おじいさんは玄関で軽く靴をぬぎ、ダイニングの椅子に腰を下ろした。
ロアスは最初こそ警戒したが、すぐに鼻先を寄せて匂いを確認し、尻尾を振る。
リントはロアスの後ろから顔を覗かせ、くんくんと小さく鳴いた。
「私の名はバルト。この森やその周辺を長く見てきた者だよ。もし何か困ったことがあれば、いつでも頼るといい」
「ありがとうございます。……この空間に来れるんですね、NPCの方も」
「ふむ、そうさ。それに……私たちともフレンド登録ができることは知っているかね?」
シアンは驚いて目を瞬いた。
「NPCとも……?」
「うむ。登録すれば、天候や森の様子、魔物の動き、素材の採れる時期などを知らせられる。それに、呼び出し機能で私を直接ここへ呼ぶことも可能だ」
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バルトは懐から小さな銀のコインを取り出し、シアンのステータスウィンドウへそっと押し当てた。
柔らかな光が広がり、システムメッセージが現れる。
【NPC「森の案内人バルト」とフレンド登録しました】
【特典:定期情報通知(森・天候)/緊急呼び出し(クールタイム:24時間)】
「これで、森のことは私に任せなさい」
その声には、長年の経験からくる安心感があった。
「本当に心強いです。……この家の周りも、色々とこれから作っていきたくて」
「そうかそうか。では、次に来るときは森で採れる良い木材を持ってきてやろう」
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話がひと段落すると、バルトは庭へ出て、芝を踏みしめながらあたりを見渡した。
「……ここはいい場所だ。広げれば畑も作れるし、動物小屋も置ける。きっと面白い空間になる」
ロアスとリントがその足元を回り、楽しげに声を上げる。
バルトはしゃがみ込み、二匹の頭を優しく撫でた。
「では、今日はこれで失礼しよう。またすぐ来る」
森の方へ歩いていくその背中は、ゆったりとしているのに、不思議と頼もしさを感じさせた。
扉を閉め、シアンは庭先を眺める。
「……頼れる人ができたな」
胸の奥でそう呟くと、ロアスとリントが揃って鳴き声を返した。
最初の来訪者は、森と周辺を知り尽くす頼れる案内人。
フレンド登録という新たな繋がりが、日常に少しずつ広がりをもたらしてくれそうです。
次回は18時更新予定です。




