第69話 はじまりの家と、静かな庭
新しい場所は、ただの建物ではなく、物語のこれからを支える舞台になる。
扉を開けた瞬間、そこに広がっていたのは――。
マイホーム空間への入口は、メニューの一番下に新しく追加された《拠点へ移動》の項目だった。
「よし、入るぞ」
タップした瞬間、視界が白く染まり、足元からふわりと浮くような感覚のあと――
そこに広がっていたのは、まだ新しい木の香りが漂う家だった。
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玄関を抜けてすぐのダイニングルームは、木目の床と白壁が基調で、中央には四人掛けのテーブル。
壁際には調理台と小さなコンロ、収納棚。
「ここで料理すれば、すぐにテーブルに出せるな……便利だ」
ロアスが椅子に前足をかけ、まるで席を確認するようにぐるりと回る。
リントは足元をすり抜け、棚の下を探検していた。
奥へ進むと、ガラス張りのドアの向こうにバスルーム。
丸い湯船と、横にシャワースペースがあり、湯気を立てながら浸かる自分の姿がすぐに想像できる。
「これは……長風呂しそうだな」
壁にはタオル掛けや小物棚まで備わっており、細やかな作りに感心する。
さらに隣には、コンパクトながら清潔なトイレ。
シンプルな造りだが、ちょっとした棚や飾り棚があって、生活感を出すのも簡単そうだ。
そして最後の部屋――寝室。
窓際にシングルベッドと小さなサイドテーブル。
ベッドの足元には、ロアスとリント用の寝床スペースがふたつ並んでいる。
ふかふかのクッションを踏み、リントが満足そうに小さく鳴いた。
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外に出ると、家の周囲には芝の庭が広がり、その先には低い木柵。
離れた場所には小さな森があり、鳥のさえずりや葉のざわめきが風に乗って届く。
「ここ……将来的に畑や小屋を増やせるな」
メニューには《増築》の項目があり、ポイントを使えば家や庭を広げられるらしい。
「じゃあ、せっかくだから……試してみるか」
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庭の中央に立ち、シアンは新しく覚えた【影渡り】を発動する。
足元の影がふわりと揺れ、全身が霞むように背景へ溶け込む。
踏みしめた芝の音すら消え、風の流れに自分の気配が紛れていく感覚――これが隠密系スキルの真価だ。
「……おぉ、これはいい」
ロアスとリントが首をかしげながら辺りを探している。
シアンが背後に回り、軽く肩を叩くと、ロアスは驚いたように跳ね、リントは小さく「くぅ」と鳴いてから嬉しそうに尻尾を振った。
「これなら探索や護衛でも役立ちそうだな。卵の時にあれば……いや、今はこれからだ」
夕陽が傾き、庭に長い影が伸びる。
その中で、シアンはふたりと並んで空を見上げた。
ここが、新しい日々の始まりの場所になる。
初めての拠点は、生活と戦い、そして絆を育む場所。
次回はこの家での新たな日常と、最初の来訪者を描きます。
次回は18時更新予定です。




