第56話 拠点は雪に包まれた村。選択が未来を変える全体イベントへ
ついにたどり着いた「雪霜の村」。
新たな舞台で出会うのは、選択によって物語が分岐する“全体クエスト”でした――。
凍てつく森を抜けてしばらく歩くと、目の前に開けた風景が広がった。
深い雪に包まれた斜面の先に、小さな村――「雪霜の村」がひっそりとたたずんでいた。
木造の家々は雪の重みに耐えながら立ち並び、村の中央には温かな光を灯した広場。そこに設けられた焚き火の周囲では、すでに多くのプレイヤーたちが集まっていた。
全員がイベントに向けて準備を進めているようで、装備を整える者、ギルド仲間と戦略を練る者、そしてサブクエストの納品所へと向かう者まで、雰囲気はどこかお祭りのような熱気に包まれていた。
「わ……人が多いね」
シアンは、ロアスと共に雪を踏みしめながら広場へと足を運ぶ。すると、村の中央に設けられた掲示板に新しいクエスト情報が表示されているのを見つけた。
《全体クエスト:雪霜の村・異変調査》
《この村の周囲では、近年見られなかった凶悪な魔物の出現が確認されています》
《対象となるボスモンスターを討伐することで、ストーリーが分岐します》
《討伐に参加しない選択も可能です》
《また、素材や料理・装備品などの納品によるサブ貢献も反映されます》
「ボスを倒すことで変わるってこと……物語のルート分岐、か」
読みながら、シアンはうなずく。
「強さで貢献するもよし、作って支えるもよし、ってことなんだな」
その声に、ロアスが尻尾を揺らしながら小さく鳴いた。「んぅ」
村の一角には、雪に覆われた倉庫のような納品所があり、プレイヤーたちが次々と手持ちの料理や素材を提出していた。
料理はイベントポイントに換算され、バフ付きのものは特に高評価とのことだ。
広場の奥に設けられた木造の建物。その扉を開けると、そこには重厚なコートをまとったNPCの村長が待っていた。
白髪交じりの髭を揺らしながら、シアンたちを見て静かに言う。
「この村を守るのは……我々だけでは力が足りぬ。若き者たちよ、助力を頼みたい」
提示された内容は、村の背後に現れた巨大な魔獣の調査。討伐すれば確実に脅威は去るが、周囲の安定を取る選択肢もあるようだ。
「選択は……プレイヤーに委ねられる、か」
強くなることだけが正解ではない世界。そう思わせてくれるクエスト設計に、シアンは思わず小さく笑みをこぼした。
「じゃあ、ロアス。まずはやれることからやってみよう」
「うん!」
読んでくださってありがとうございます!
次回は、村での生活とイベントへの一歩目を描いていきます。
更新は毎日18時です。お楽しみに!




