第六回 19
熙鳳は満足げに笑った。
「新しくお二人に食事を用意してちょうだい」
しばらくして周瑞のおかみが戻ってき、二人の食事の用意ができたことを告げた。
「周の姐姐。お世話をお願いね。私はご一緒できませんから」
そう言うと、熙鳳は東の室に移り、頃合いをみて周のおかみを呼び寄せて尋ねた。
「姐姐が太太にご報告したとき、何とおっしゃってた?」
「太太がおっしゃるには、もともとあちらは姓が同じだけで、親戚ではないとのことです。
ここ数年は行き来もないけれど、以前お越しいただいたときは、すげなくしたわけではなかったわ。こうしてわざわざ訪ねてこられたのだから、失礼はないようにね。そのうえで何かご用があるのなら対応は奶奶に任せます、とのことでした」
熙鳳はそれを聞いてうなずき、薄く笑った。
「やっぱりね。私の耳に入らない親戚なんているもんですか」
熙鳳たちが話しているあいだに、劉ばあさんは食事を平らげ、板児をそばに引き寄せて舌なめずりしながら、しきりにお礼を言った。
「まあ、お座りになって。私の話を聞いてください。あなたのお気持ちは承りました。本来なら、親戚ということでこちらが気を回さないといけなかったのだけれど、賈府も忙しく、太太もお年を召されてこられて、つい行き届かないところもあるのです。
それに私も家事をあずかり始めたばかりで、ご親戚筋のことまで把握できておりません。外から見ると派手に感じるかもしれないけれど、大きい家には大きい家なりの苦労があるのです。そんなこと人に話しても信じてもらえないでしょうけど」
劉ばあさんは食事にもあずかり少し安心していたが、「苦労がある」と言われ、再び胸が高鳴ってきた。
「……こうしてはるばるお越しくださって、しかも私に初めてお願いをしてくださったのだから、手ぶらで帰っていただくわけにはいきません。たまたま太太からいただいた、丫頭たちのための衣裳代、銀二十両をまだ使っておりません。それでよければお受け取りください。少なくて申し訳ないけれど」
劉ばあさんは嬉しさで体じゅうがむずむずし、思わず言った。
「ええ、ええ。私だってそちらさんがお苦しいのはよく分かっておりますよ。でも、ことわざにもあるじゃないですか、「痩せ死にした駱駝でも馬よりでっかい」とね。あなたさまの毛一本でも、わしらの腰回りよりずっと太えときてるんですから」




