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紅楼夢  作者: 翡翠
第十六回 賈元春 才(さい)もて鳳藻宮(ほうそうきゅう)に選(せん)じ 秦鯨卿 夭(わか)くして黄泉路(よみじ)に逝(ゆ)く
333/333

第十六回 20

 賈璉はうなずく。

「太上皇(たいじょうこう)と皇太后(こうたいごう)は今上陛下(きんじょうへいか)をこうお称(たた)えになった。『これこそ孝心(こうしん)の至(いた)り、純(じゅん)なる仁(じん)と言えよう。これこそ体天格物(たいてんかくぶつ)、天(てん)を体(たい)し、物(もの)に格(いた)る行いであろう』と」

 趙ばあやは頭をひねりながら言った。

「難しいことはよく分かりませんが、大そうお褒(ほ)めになったのですね」

 賈璉はゆっくりと首を横に振(ふ)る。

「それだけではありませんよ。このお二人の老聖人(ろうせいじん)はさらに御旨(ぎょし)を下された」

「それはどういった……」

「妃嬪(ひひん)の親族(しんぞく)が宮中(きゅうちゅう)に入るとしても、きっとそこには“国”の影(かげ)が差(さ)し、儀礼(ぎれい)がその交情(こうじょう)をさえぎるのは免(まぬが)れない。母と女(むすめ)が心ゆくまで語り合うことはできないだろう」

 王熙鳳はつぶやいた。

「……そのとおりね」

「そこでさらに格別(かくべつ)の恩賜(おんし)がなされ、後宮(こうきゅう)の妃嬪(ひひん)の殊(こと)にやんごとなき外戚(がいせき)に向けて御旨(ぎょし)をくだされた。さきほどの恩典(おんてん)にくわえ、幾棟(いくむね)もの楼(ろう)を有(ゆう)し、別院(べついん)のある家で、御駕(ぎょが)をお迎(むか)えして、それをお護(まも)りするにふさわしい備えのある家であれば、内廷(ないてい)に願(ねが)い出て、妃嬪(ひひん)の御輿(みこし)をお迎えしても構(かま)わない」

 きょとんとしている趙ばあやに、熙鳳がささやく。

「妃嬪(ひひん)をお迎えできる広さの邸(やしき)で、別院(べついん)があり、妃嬪(ひひん)の御輿(みこし)をお守りすることができれば、賈家にもお迎えできるということです」

「……はあ」

 賈璉は再び咳払いをした。

「こうすれば骨肉(こつにく)の私情(しじょう)を尽くすことができる。天倫(てんりん)の中(うち)の至性(しせい)とはこのことだ」

 熙鳳が心配そうな趙ばあやにささやく。

「こうすれば母子(ははこ)が仲睦(なかむつ)まじく過ごせるだろうということです」

 賈璉はしみじみと言った。

「この沙汰(さた)を聞いて喜ばない者はいないよ」


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