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紅楼夢  作者: 翡翠
翻案意図(第一回~第十三回)
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第十二回

 第十二回冒頭(ぼうとう)の王熙鳳と賈瑞の会話(かいわ)は、真(しん)は仮(か)、仮(か)は真(しん)を体現(たいげん)する、演技(えんぎ)と真情(しんじょう)の揺(ゆ)れるぬらりとした場(ば)が繰(く)り広(ひろ)げられる。

 賈瑞を肉欲(にくよく)へといざなったのは王熙鳳の行動(こうどう)がそうさせた部分(ぶぶん)もあることは否(いな)めない。だが、「紅楼夢」には珍(めずら)しいことに賈瑞にはほとんど擁護(ようご)の筆(ふで)が見られない。賈瑞側の心境(しんきょう)が見えにくかったため、翻案では賈瑞の側に推何なる侍女を置き、一隅(いちぐう)を照(て)らすこととした。

だが、わずかに作者の、賈瑞を惜しむ思いが顕(あらわ)れているところがあって、それが賈瑞の先述(せんじゅつ)の王熙鳳との邂逅(かいこう)の言葉であり、ずっと後(のち)に賈蓉が賈瑞に言及(げんきゅう)する場面(ばめん)でも賈瑞に寄(よ)り添(そ)おうとする姿勢は見られる。

また、一度目に賈瑞が王熙鳳に夜這(よば)いしようして、帰りが遅(おそ)いと賈代儒に罰(ばっ)せられる箇所(かしょ)では「老学儒(ろうがくじゅ)などに分かるはずがない」と賈代儒を貶(おとし)めるかたちで賈瑞を擁護(ようご)している。

紅楼夢のタイトルの一つ、風月宝鑑(ふうげつほうかん)もここで登場(とうじょう)しているが、「見てはならない」という物語(ものがたり)の約束(やくそく)を提示(ていじ)しながら、鏡(かがみ)に映(うつ)った熙鳳を“にせもの”と断(だん)ずるのはたやすい。だが、「真(しん)は仮(か)、仮(か)は真(しん)」の紅楼夢世界を思えば実は鏡の中の熙鳳こそ、熙鳳の本質(ほんしつ)を示しているのではないか。


 私が本回(ほんかい)において、原文(げんぶん)中、気になったことは二つだ。まず一つ目は、賈蓉はなぜ王熙鳳に協力(きょうりょく)して賈瑞を誅(ちゅう)したのかということだ。

 考えるに賈蓉は秦氏の不義(ふぎ)について悶(もん)々としていたのだろう。それは賈蓉が賈瑞のなされるままとなり、「秦氏と同じく」汚(けが)されることからも察(さっ)せられる。だが、その相手が父であるだけに罰(ばっ)することもできず、大っぴらに怒(いか)ることもできず、その罰(ばつ)の代理(だいり)として賈瑞を選(えら)んだ。王熙鳳はそんな賈蓉の心情(しんじょう)につけこんだのだろう。いや、むしろ王熙鳳も賈璉のふるまいに賈蓉と気持ちを同じくしていたのかもしれない。だが、賈蓉は後日、賈瑞の真情(しんじょう)を知り、賈珍と賈瑞とはその罪(つみ)が重(かさ)ならないことに気づいたのか、彼の賈瑞や王熙鳳に対する心情(しんじょう)も反転(はんてん)していくことになる。

 もう一つ気になったところは、王熙鳳は賈璉と、宝玉は黛玉と物語(ものがたり)から離(はな)されることだ。“情(じょう)”からの離別(りべつ)は熙鳳に理(り)の抑制(よくせい)を失(うしな)わせ、宝玉の情(じょう)は奔流(ほんりゅう)のようにむやみにほとばしってしまう。ここは原文(げんぶん)では末尾(まつび)におかれ、賈瑞の淫蕩(いんとう)、そしてその死(し)から切(き)り離(はな)し、その純粋性(じゅんすいせい)を確保(かくほ)している。


 第十二回は「情(じょう)」の暴走(ぼうそう)がどういう結果(けっか)を招(まね)くか、そしてそれは破滅(はめつ)に向かうことが示された。読者(どくしゃ)は賈瑞を冷(ひ)ややかな目で見ていくが、最後に黛玉、そして賈璉との離別(りべつ)が描(えが)かれ、他人事(たにんごと)と思っていた情(じょう)の喪失(そうしつ)が誰にでも起こりうることだと突きつけられる。第十三回はこれらの流れを踏(ふ)まえ“情(じょう)”の崩壊(ほうかい)のありさまが叙述(じょじゅつ)されることになる。


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